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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第22回:カルト・ケイト ~トム・サン その1

更新日2017/11/02

 

本名をトーマス・デ・ボウ・ソレイユ(Thomas de Beau Soleil)という。その名の通りフランス系のカナダ人で、ソレイユすなわち太陽をSunと英訳し、米語の通称トム・サンと切れのよい名前にした。

彼の両親がアメリカ、ヴァーモント州に移住し、そこでトムをもうけた。1846年のことだ。したがって、トムはリンチ組のボスウェルより9歳年上になる。ボスウェルが裕福で教養のある家柄なのに対し、トムは教育らしい教育は全く受けていない天性の野生児だった。しかし、機敏に現実をつかむ術を身に付けていった。彼の言動をみると、相当頭の切れる、しかし同時に、行動的な人間だったように思われる。

トムがワイオミング熱に憑りつかれたのは、デスコテウ(Descoteaux)という名のビーヴァー狩のプロに吹き込まれてからだ。当時、ビーヴァーの皮は高値で売れた。腕の良いビーヴァーの罠師は当たり外れの大きい金鉱山師よりはるかに儲けていた。若いトムは罠師のデイスコテウの腰巾着になり、ミズーリー川の源流近く、ワイオミング領域を徘徊した。

トムは優れた生徒だった。罠を仕掛ける場所、仕掛け方、毛皮を痛めずに皮を剥ぐやりかた、皮を他の動物に食われ、荒らされずシーズン終わりまで貯蔵するやり方など、師匠の指導ヨロシキを得て習得していった。すぐにトムはデスコテウの右腕となった。こんな森での生活がトムには合っていたのだろう。

そのようにして、トムはワイオミングのスィートウォーター川に辿り着いたのだ。スィートウォーター川は澄んだ水が年中涸れることがなく流れている。その河畔にトムは小屋を建てた。その小屋はモノの本によるとデヴィルスゲイトの南に今も建っているというので、探しに行ったが見つけることができなかった。元々、トムが建てた小屋のある土地も所有権のハッキリしないところだったろうし、現在では私有地になり、立ち入り禁止、“侵入者はその場で射殺する”という立て看板の背後にあるのだろう。

元々、罠師は土地の所有観念が薄く、自分の土地の所有権に拘らないが、自分もどこにでも入り込み罠を仕掛けた。その意味では、原住インディアンと似ているのかもしれない。森や川は誰のものでもない、そこに生息する動物、魚を獲るのは、そんな能力と技術のある者の特権だと理屈をつける前に体感していたのだろう。

時勢もトムに幸いした。ポニー・エクスプレスの駅(馬を交換するための)がスィートウォーター川沿いのトムの小屋から数マイル離れたインディペンダンス・ロックに置かれたのだ。当然、トレーディングポスト(交易所)が開かれ、オレゴントレイルを行きかう開拓民、山師がそこで骨を休め、食料などを補給した。トムの商品であるビーヴァーの皮の輸送も格段に容易になったし、現金の輸送も確実なり、必需品も手に入りやすくなった。

トム・サンが罠師として脂の乗り切った時、南北戦争が始まった。彼も北軍に招集されている。兵士としてどこでどのような活躍をしたのか分からない。戦争終結と同時に、即罠師に戻っているから、森や川で野生を追う生活が彼に余程合っていたのだろう。

ビーヴァー罠師の生活は厳しい。凍てつくような川に浸かり、罠を仕掛け、罠にかかったビーヴァーを他の動物に食い荒らされる前に回収し、丁寧に皮を剥ぎ、乾燥させ保存する。若い脚力がなければ続かない仕事だった。 

1869年にユニオン・パシフィック鉄道がワイオミングを東西に横切るように敷設工事を始め、開拓民、労働者、山師が押しかける時代になり、トム・サンが自由にどこの山河でも歩き回ることが難しくなってきたのだ。そして、ビーヴァーも激減した。 

トムはビーヴァー猟に見切りをつけ、天井知らずの需要がある鉄道の枕木を切り出す仕事に就いている。それまでの山や森を歩き回った知識を生かし、鉄道技師や騎兵隊のガイド、斥候役をこなすようになり、ワイオミングの未開地を知る第一人者と皆が認める存在になったのだ。

合衆国政府から派遣された土地測量士、後にUSマーシャルになるが、ビリー・オーエンはトムを案内役、斥候として雇っている。「トム・サンほどワイオミングをよく知る者はないし、道連れとして、彼ほど魅力溢れ、明るく愉快な仲間はいない」と、ベタ褒めしている。

1872年にトムはスィートウォーター川沿いの小屋に帰り、一部屋だけだった丸太小屋をドンドン増築しているから、そこに落ち着き、家庭を持つことを考えていたのだろう。この辺りにもトムの見切りの良さ、変わり身の早さが見て取れる。ビーヴァーの時代は終わり、鉄道も完成した、次は肉牛を育て、鉄道で東部に送る時代になる…と読んだのだろう。

1883年、37歳のトム・サンはメリー・アンガスという女性と結婚している。メリーはアイルランドからの移民で、ローリンズにあるラリー・ハイズの所有するホテルの下働きをしていた。同じ時期にケイトもそこで働いていたから、メリーとケイトは知り合いだった可能性がある。というより、開拓部落に毛の生えたようなローリンズの町で娼婦以外の若い女性は十指に足るほどしかいなかっただろうから、まず確実にメリーだけでなく、トムもケイトを知っていたと思う。

このカップルは4人の子供をもうけた。トムの小屋、土地はこの時期になって、スィートウォーター川沿いに最初にホームステッドが認められたものになった。今でもそうだが、獲物を獲るには良いハンティングガイドが不可欠だ。地の利はもとより、どこまで馬で入り込み、どこでキャンプするか、また撃った獲物を処理し運ぶには優れた案内人が必要なのだ。私が現在住んでいる界隈の住人はプロのハンティングガイドではないが、牧童、牧場主たちは狩猟時期になるとガイド仕事でおおわらわの忙しさになる。ガイドは実入りの多い、ちょっとしたアルバイト以上の儲けになるのだ。

トム・サンはビーヴァーの罠師だった時に広大なワイオミングの森を隅々まで彷徨っていたから、彼ほど土地感のあるハンティングガイドはいなかった。彼は小屋を増築しながらも、ハンティングガイドを続けていた。イギリス人の富豪、ジョン・ラエ・レイドという男が狩猟の常連として毎夏、トム・サンを案内人として雇い、ハンティングに来るようになった。ハンターとガイドという関係以上に、この二人は信頼し合う旧友のようになった。彼も40代に入っていた。

-…つづく

 

 

第23回:カルト・ケイト ~トム・サン その2

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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