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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第25回:カトル・ケイト ~ジョン・ヘンリー・ダブリン

更新日2017/11/23

 

リンチ組のなかで最年長のジョン・ダブリンは、1842年にペンシルバニアで生まれた。両親はアイルランドから渡ってきたメソジストだから、アイルランド人ではなくイギリス人だったろう。ジョン・ダブリンは小学校に数年通っただけの学歴しかない。

青年よ西へ行け! のブームに当てられたのだろう、オハイオへ流れ、そこで結婚しているが、すぐに妻を亡くし、インディアナに越し、小さな農場を購入。そこで2度目の結婚をしている。よほど嫁縁?の悪い男なのだろう、この2番目の妻も病死している。

南北戦争ではインディアナ軍団の少尉まで上っているから、召集兵としてはそれなりの軍歴である。戦争終結後、コロラドに移り、そこで3回目の結婚をし、4人の息子設けた。2番目の妻は娘を二人残したから、計6人の子持ちになった。

ジョン・ダブリンはインディアナの農場を売り、テキサスのロングホーン牛ビジネスに投資し、相当儲けたりしているから、ビジネスのセンスがあったのだろう。肉牛が儲けになると知り、ワイオミングでピーコック屠殺場の支配人になった。雇い主のピーコック屠殺場が火災に遭った時、オーナーのピーコックは屠殺場をジョンに安値で売り、ジョンはシャイアンで一番の屠殺、生肉工場を持つに至ったのだ。

それと同時に、ジョンは牛の流れ、市場の動きに敏感に目を走らせ、常に500頭からの牛をストックし、市場の牛肉価格に合わせ、値の良い時に牛を潰し、肉にして流した。冷蔵施設のない時代、腐りを少なくすることが肝心だった。この時、ジョンは弟を呼び寄せ、シャイアンの町に豪邸を建てている。

ジョンの商売のセンスの良さは一体どこから出てきたのだろう。屠殺、精肉だけでも西部全域に知られるほど成功したのに、さらに金鉱を求めてサウスダゴダに出かけ、しかも90何パーセントの俄か山師が失敗している中で、ジョンは金鉱を掘り当てているのだ。掘り当てたというのは当たらないかもしれない。ジョンはすでに金鉱山として活動しているゴールデン ティエラ鉱山に将来性ありとして、資金に物言わせ買い取ったのだ。これは大きな賭けだったろう。

ジョンがどれほど金山、鉱山のシゴトに通じていたか、ほとんど何も知りはしなかっただろう。 だが、ジョンには将来を見越す目と嗅覚があった。このゴールデン・ティエラ鉱山も彼が自分で発掘する前にウイリアム・ランドルフ・ハーストに転売し、巨万の利益を得ているのだ。まるでアメリカ西部開拓史上の成功物語を地で行ったのだ。

ジョン・ダブリンが法律ギリギリの線を立ち回り、時には大きく踏み外していたことはまず間違いない。彼の立志伝にはキナ臭さが付き纏う。エピソードの一つとして、マコトシヤカに伝えられている金塊駅馬車輸送事件がある。

ジョン・ダブリンが金鉱山を売り払ったとき、かなりの金塊を持ち去っている。その輸送に馬車を仕立てたのだが、その時、盗賊団がその駅馬車を襲撃するというウワサを耳にし、予定の便には金塊を積まずに送り出し、盗賊団、インディアンとも言われているが、駅馬車を襲い、御者を射殺し、金塊を見つけることができず、ヤケになった盗賊が不幸な旅客を丸裸にするように金品、持ち物を奪うに任せ、その報告を受けてから、ジョンは第二便で、金塊を積んだ馬車を送り出したのだ。この事件は、ジョンが自分の利益を守るためなら、御者が殺され、他の人間が窃盗団の犠牲なろうが知ったこっちゃないという図太い神経を知らしめている。

ジョン・ダブリンはシャイアンに戻り、屠殺場に加え、大規模な牧場経営に乗り出した。肉牛市場に金脈を見たのだ。しかし、ジョンは東部やイギリスに居座り、広大な牧場を管理人、牧童たちに任せ切りにするような経営者ではなかった。シャイアンに豪邸を構えてはいたが、自分の牧場、牛には常に目を光らせていた。弟のトムを呼び、農場の経営に当たらせている。もう一人の弟ジョージには、羊毛の需要を見越して大掛かりな羊の牧場を任せていた。 ダブリン兄弟は何万エーカーという土地と何万頭という牛を所有する、ワイオミングでも有数の億万長者になっていた。

 25
ジョン・ヘンリー・ダブリン。名をなし、財を成した晩年の写真。
<ワイオミング州立博物館蔵>

ジョン・ダブリンはこれで満足という頂点がなかった。大変な野心家だった。常に今持っているものを倍にしようとし、政治的権力も握ろうとした。ジョンが、スィートウォーター川沿いの牧場に目をつけ、その界隈から盛大というのか、おおっぴらに牛泥棒シンジケートを展開し始めたのだ。不在地主的なイギリスやアメリカ東部の牧場主からだけでなく、ついでに貧しい開拓民の持ち牛も掠めていた。

前述のロバート・コナーとジョン・ダブリンの二人は、牛泥棒シンジケートの元締めであり、黒幕だった。ジョン・ダブリンはトム・コリンズというテキサスの無法者を雇い、盛んに牛を盗ませている。だが、トム・コリンズもジョンに忠誠を尽くしていたわけではなく、盗品、盗んだ牛を自分で売り払い、小遣い稼ぎをやっていた。

次第に大きくなっていく牛泥棒の被害に、ワイオミング牧畜協会も独自の探偵を雇い、調査に乗り出してはいる。だが、巨万の富を抱えたジョン・ダブリンは一調査官が立ち向かうには大物過ぎた。それに何といってもジョンは屠殺場を所有しているから、足のつきそうな牛は即、肉にできた。

ジョン・ダブリンのような大物が、なぜ直接ケイトとジェイムスのリンチに乗り出したのだろう。 確かに彼のやることなすことには常にキナ臭さが付き纏う、とはいうものの、彼が直接手を下して人を殺めたことはなかった。これは他のリンチ組にも言えることだが、彼らはいかなる意味においても、ガンマンやアウトローではなかった。それぞれに野心家であり、暴力が支配的な西部で、自分の利益を大いに上げ、守るためには、それを行使することに躊躇はなかったにしろ、直接自ら相手を殺害するようなことはなかった。それが、ボスウェルの口車に乗るように、ケイトとジェイムスをリンチに架けたのだ。

彼はその後膨大な資産を得ているが、ケイトとジェイムスを殺害したことで、大きな牛泥棒シンジケートの顔役だった暗い過去を消すことはできなかった。

彼はロバート・コナーのようにすっぱりと過去を断ち切り、ワイオミングを離れることをしなかった。あくまで彼はワイオミングに留まり、しかも、名誉職的なワイオミング牧畜協会の検査・調査官の長の役に就いたのだ。ヤクザの親分が警察庁長官になったようなものだった。そして1891年、やっと重い腰を上げるように、またケイトとジェイムスをリンチに掛けた男としての世評を逃れるように、コロラド州、デンバーに越している。

彼の資産は当時のお金で数百万ドルはあったと言われており、ワイオミング州知事、フランシス・ワーレンや上院議員のジョセフ・カレイのビジネスパートナーとして、文字通り牧畜帝国の帝王になっている。

ジョン・ダブリンは、リンチ後、7年生き、1907年4月16日、64歳で死んだ。

-…つづく

 

 

第26回:カトル・ケイト ~ロバート・M・ガルブレイス

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第4回:カトル・ケイト
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第5回:カトル・ケイト
~大牧場で富を独占していた牧畜男爵
第6回:カトル・ケイト
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第7回:カトル・ケイト
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第9回:カトル・ケイト
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