■現代語訳『風姿花伝』
  ~世阿弥の『風姿花伝』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳

第三回: 風姿花伝その一
      年齢に応じた稽古のありよう 十二、三歳より

更新日2010/02/04


風姿花伝 その一
年齢に応じた稽古のありよう
十二、三歳より

 

 この年頃になると、早くも、声が次第に調子に合うようになり、能に対する心構えもできてくるので、いろんな曲を、順序だてて教えると良い。なんといってもこの頃は、姿かたちそのものが童形とうぎょうであるので、何をしても幽玄になる。声も美しく響き渡り、この二つの条件にたすけられれば、悪い所は隠れ良い所はますます花やぐ。

  だいたいにおいて、兒ちごの申楽においては、あんまり細かな物まねなどをやらせてはいけない。やったところで、場の雰囲気にそぐわないばかりか、能も上達しない。ただし、もしもその子が非常に上手であった場合には何をしても良い。兒であって声も良く、そのうえ上手なら、やって悪い筈がない。ただ、このような花は、本当の花ではなく、ひとえにその年ごろならではの時分の花にほかならない。つまり、この頃の稽古というのは、なにをやらせても簡単にできるけれども、しかしだからといって、その上手さを、そのまま一生たもてるなどということはあり得ない。

  したがってこの頃の稽古においては、その子が無理せず上手にできる、得意なことで花をつくるようにし、自然に備わった態わざ、つまり姿かたちや、そのありようを大事にすると良い。そうして、身のこなしなどの働きをしっかりとし、発する言葉の一つ一つが音曲を成すように心がけ、舞も、手の形などをしっかりと定めて、そうしたことのすべてを大事にして、稽古をすると良い。