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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第652回:笑う家には福がくる

更新日2020/04/02


元々、ウチのダンナさんの旧友なのですが、私自身、最も親しく感じ、コミュニケーションが自然に成り立つ友達が二人います。二人の間には全く繋がりがないのですが、偶然から、二人とも大変な落語ファンで、すでに亡くなった落語家のテープなどを集めたり、東京に出向いた時には寄席に足をのばしたりで、笑う芸に凝っています。

私はどうにか日本語を操っていますが、落語を聴いて笑えるレベルではありません。落語で腹の底から笑えるようになるのは、言葉のニュアンスだけでなく、文化的背景を身に付けていなければなりません。寅さんのユーモアやペーソスが分かっても、三遊亭圓生を心底から楽しめるようになるのは、外国人にとって、とても大変なことなのです。

ウチのダンナさん、少しばかり難しい英語の本を読むし、英語の雑誌を楽しんでいますが、それでも、『ニューヨーカー』誌の一コマ漫画やジョークを、「オイ、これ何が可笑しいんだ?」と訊いてきます。そして、その手のジョークは解説するとオカシミがなくなってしまうことに気が付きました。そして、若かりし頃、ロンドンの寄席劇場に行き、周りの人がゲラゲラ笑っているのに、彼だけ意味が取れずポツネンと笑えずにいた思い出を、「アリャ~、寂しいもんだ…」と締めくくっています。

そこへいくと、無声映画時代のキートン、ロイド、チャップリンの喜劇は、表情と動きがすべてですから、誰にでも理解できます。

最近はテレビに押されぎみですが、アメリカにも落語というより漫才に近い、ただひたすら笑わせるための劇場があります。スタンドアップ・コメディアンというえり抜かれた芸人が、2時間近くのお笑いショーを一人でもたせるのですから、大変な話術、芸が要求されます。

第二次世界大戦が終わり、NBCが他に先駆けてテレビ放映を始め、各家庭にテレビが広がっていった時、一番人気は野球の実況中継と“シットコム(sitcom;シチュエーション・コメディー)”と呼ばれているコメディーでした。いまだにスポーツとコメディーはテレビに欠かせません。

すでに大ウケにウケていたラジオの漫談ショーからテレビに移行するのは当然の成り行きでした。50年代に入り、戦前から活躍しているコメディアン、テレビ時代の申し子が続々と活躍し始めました。マークス・ブラザーズ、ロウレル&ハーディー、スリーステジス、ボブ・ホープ、『アイ・ラブ・ルーシー』のルシル・ボール、ジェリー・ルイスらで、彼らの古い番組を録画したDVDは未だによく売れています。

キャロル・バーネットは私のお気に入りです。今でも、ゴールデンアワーにはアメリカ4大チャネルはこぞって“シットコム”を放映してるくらいです。

直接的な因果関係はないかもしれませんが、私の父方のお爺さん、お婆さん、叔父、叔母たちは冗談をよく口にし、よく笑います。母方の方はマジメすぎるくらい頑固なお百姓さんの家系で、お婆さん、お爺さん、叔母さんが大声で笑うのを見た記憶がありません。そして父方の方が長寿で、母方は何らかの病を抱えて60代、70代で亡くなっているのです。

『The Psychology of Humor』(笑いの心理学)を書いた、西カロライナ大学のトム・フォード教授は「ユーモアはストレスを減らし、周囲の人々と協調しやすくなる」と言っています。

最近、脳の様子まで透視できるようになり、MRIでユーモア、冗談が好きでよく笑う人とそうでない人の脳神経の活動を』観て驚いてしまいました。これほど、はっきりと差が出ているとは想像もしませんでした。写真では、まるで違う人種のようにさえ見えます。そして笑う人、ユーモアを愛する人は創造性も高い…とあります。

ニューメキシコ州立大学で400人の学生さんを対象に調査したところ、学校の成績がトップクラスの生徒さんはユーモアのセンスがあり、冗談をよく口するとの結果が出ました。ちなみに、セックスの活動でもオサカンだそうです。どうも、ユーモアは脳の運動になるだけでなく、ソッチ方面でも効力がある?ようなのです。

確かに誰かと一緒に大いに笑うのは、何かを共有することになります。そして世界中に何千という言語がありながら、笑い方に個人、個人の違いはあっても、笑い声は人類共通の言語です。そして、笑いは人を健全に、幸せに、賢くすることに間違いありません。

このコラムの日本語添削をしているウチのダンナさん、「そうだろう、だけど俺の高尚なユーモア、なかなか分かってくれる人がいないのが悩みだな~」とノタマッテいますが、彼の冗談は日本語、スペイン語、英語を絡めた駄洒落が多く、それを口にした本人だけが、笑っているのですから、世話ありません。

それだけ冗談が好きで、ユーモアのあるダンナさん、あっちの方でも衰えをみせないか?ですって、そんなウチワのことをこのコラムで一般公開できるわけがないじゃありませんか…。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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