第310回:動物たちが徘徊する季節
やっと春になったと思ったら、また冬に逆戻りしてしまいました。この山里では、まだまだ春遠く、朝晩は零下8~10度の世界です。でも、谷にある町はもうすっかり蕾も膨らみ、早咲きの花が咲き始めました。
動物たちも平野から山に帰る季節になり、私たちの森を徘徊し始めました。この季節、通勤、朝晩車を運転するのにとても気を使います。国立公園の上にある台地の牧場には、道路の両側に牛のためのバラ線を張り巡らせたフェンスがあるのですが、この1.2メートルくらいの高さのバラ線フェンスは、中にいる牛が道路に出てこないようにする役目は充分果たしているのですが、鹿やトナカイ、コヨーテ、ウサギ、七面鳥には全く役に立ちません。
鹿やトナカイは助走もつけずに軽がるとフェンスを跳び越しますし、ウサギ、コヨーテ、リスは手もなくフェンスの下を潜り抜けていきます。ですから、そんないつ道路に飛び出してくるか分からない小動物を轢き殺さないように、かつ大きな動物、鹿やエルク、トナカイに衝突し、彼らと私のホンダに怪我をさせないよう、緊張しながら通勤しなければなりません。
アメリカの保険会社の統計では、チョット資料が古くなりますが2007年に動物と衝突し車が壊れ、保険金を請求した件数は150万件です。その大半は鹿で、保険金を請求するくらいの衝突であれば、鹿は死んでいるでしょうね。ウサギやリス、スカンクをはねた程度では車を洗って終わりでしょうから、一体全体、どのくらいの動物が交通事故で死んでいるか想像もつきません。人間の方も、動物との事故で200人が亡くなっています。
道路には毎日のように踏み潰されたウサギ、リス、チップモンクがお煎餅になっており、カラスが後始末をしているのを目にします。年に何度か、鹿、エルク、トナイカイも道端にはねられ息絶えているのを見かけます。
スカンクの場合は200~300メートル先から、"アッツ、スカンクがやられた"と分かるほど強烈な匂いを放って、潰されています。遠くからでもカラスが群がり、飛び交っていたら、何かあることが分かります。
先日、大きな鷲が道路脇に横たわっていたので車を止めて見たところ、大鷲も車にはねられたのか即死の状態でした。湾曲した爪の長さ、鋭さは、あらゆるものを突き通し、ガッチと掴んだら決して離さない、凶暴な様相でした。
ところが不思議なことに、仇敵のカラスが全く寄り付かないのです。2日後にまた車を止めて、大鷲の身体をひっくり返して見ましたが、目玉だけはアリに食われていましたが、カラスについばまれた後は全くありませんでした。カラスも大鷲に対しては、死体処理、掃除係りの任務を全面放棄した格好です。
マウンテンライオンも山から降りて、谷の町の郊外を徘徊し、警察や自然保護官が繰り出し、大掛かりな捕り物劇を演じた末、麻酔銃で撃たれ、どこか遠い山奥に運ばれていきました。その映像をテレビのニュースで観ましたが、高さ3メートルはあろうかという屋根へヒョイと跳び乗ったり、ほとんど垂直にまっすぐ天に向かって生えている大木にスイスイ登ったり、大変な運動能力です。
それに、あの大きさはどうでしょう。私たちの裏山でマウンテンライオンの足跡を見つけることはママあります。餌食になった鹿の骨と皮を見つけたこともあります。何とか、一度は野生のままのマウンテンライオンを見たいものだと思っていましたが、あの素早さと、跳躍力、大きさをテレビで見せられてからは、ご対面は遠慮したい気分です。
日本ではなじみのないコヨーテをよく見かけます。コヨーテは中型の日本犬ほどの大きさで、キツネよりかなり大きく、狼より小さい山犬です。でも、普通の犬と見間違えることはまずないでしょう。というのは、頭と体を水平に保ち、尻尾もほぼ地面に水平にして、何と言うのでしょうか、足を蹴らずにまるで水平に、静かに移動しますから、すぐに"アッツ、コヨーテだ!"と分かります。
耳をそばだてて聞いたことはありませんが、全く足音を立てずに、普通の犬が走るようなスピードで身体を移動させることができるようなのです。
普通、コヨーテが人間に危害を加えるようなことはない…とされていましたが、ハイキングをしていた8歳の男の子のお尻にパクリと噛み付いた事件が起き、地元のハンターや自然保護官が乗り出し、あえなく射殺されました。何でもこのコヨーテは人間ズレした、癖の悪いヤツで、札付きだったようです。
今までに全く体験したことがないチョットした事件が、この春ありました。ある朝、ポーチにある大きなガラスを誰かがノックしていることで起こされ、行ってみると、真っ青な小鳥が盛んにガラスの引き戸をくちばしで突いているのです。私が外に出ても逃げようとせず、ほとんど手に止まりそうなのです。
家に入るとまた、くちばしノックを始めます。それが30分くらい続き、しかも2週間も、毎朝、毎朝モーニングコールをかけにきているのです。しかも、パートナーかお嫁さんまで連れてくるようになりました。メスの方は恥ずかしがりで、少し離れたところに止まり、オスほど近寄ってきませんでしたが…。
これは『幸せの青い小鳥』(メーテルリンクの童話)だとばかり、小鳥が来た日は一日中なにかほのぼのとうれしい気分になりました。ウチのダンナさんは、「うるせいやっちゃな~」と愚痴をこぼしていましたが、ある朝、私がまだベッドでまどろんでいる時、ダンナさん(ウチの仙人は年寄りですから、やけに朝が早いのです)誰かと盛んに話をしているのが聞こえました。ベッドから出て静かに覗いてみたところ、ダンナさん、何と青い小鳥に話しかけていたのです。
ウチの仙人たるダンナさん、犬語はかなり理解しているようですが、まだまだ鳥語までは到っていないようでしたが…。
私が仕事から帰ったら、小鳥用に水を満たした大きな水盤がポーチに置いてありました。
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