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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第211回:山に春がきた

更新日2011/05/26


このタイトルを書いたところ、頭の中に日本の童謡のフレーズ「ハールがきた、ハールがきた、どこにきた、山にきた、川にきた、野にもきた」が鳴り響きはじめ、なかなか離れません。耳鳴りのように頭の中で歌の文句、メロディーが繰り返し、繰り返し鳴っています。「きた、きた」と単純に繰り返されるリズムのよさが喜びを素直に感じさせてくれます。

私たちが住んでいる山でも春を待ちかねていたように、まず小鳥たちが沢山やってきます。スズメ、ロビン、ブルーバード、ブルージェイ、レッドヘッドきつつきが主役です。小さな餌箱を松ノ木から吊るしていますが、沢山の小鳥が舞い降りてきて、アッと言う間に空になってしまいます。

もっとも、ウチの仙人に言わせれば、「小鳥どもはテーブルマナーがなっていない、食い散らかして、地面に80%くらいは落としている」ということになります。しかし、地面に落ちた餌をまたついばんで食べている小鳥も、リスもいるのですから、それはそれで上手く皆に行き渡っていると思います。

それに、「おまえ、そんなに餌をやると、小鳥の方も楽して食べてばかりの悪い習慣が付き、アメリカの超デブのようになってしまい、飛べない小鳥になるぞ」と、仙人らしからぬ余計な心配をしています。

今年は雪が少なかったので、雪溶けも早く、その分、リスやウサギ、狐、コヨーテ、鹿も早々と私たちの家のある山裾にやってきました。

野生の動物に餌をやることは禁じられています。法律的にどうなっているのかよく知りませんが、林野庁や国立公園、自然保護官が配るカタログには常にそのように書かれています。実際、クマに餌をやっていたおばさんがクマの餌になってしまった事件が昨年ありましたし、残飯に味をしめたマウンテンライオンがもっと新鮮な鶏、子牛を狙い始めることはよくあります。

私たちが住んでいる、山裾に200軒くらいの家、牧場、農園が広がっています。ここでの春一番のニュースは、妊娠したコヨーテが家のパティオドアから侵入し、敷物の上に赤ちゃんコヨーテを産んだ……というものです。

動物の赤ちゃんは、いつも格好の獲物の標的になります。子牛や子鹿はマウンテンライオン、狼、コヨーテに狙われ、子ウサギは鷹、鷲、コヨーテの餌食になりますから、犬のいない家なら、家の中はコヨーテにとって最高に安全な分娩室なのでしょうね。

このあたりの牧場主はのんびりしているのか、牧草畑や囲いをした広大な放牧地に鹿やエルクが入ってきても気にしていないようです。牧場に牛の数と同じくらいの鹿が群れをなしてくつろぎ、草を食んでいるのを見ることは珍しくありません。誰もウチの牧草をタダで食べるなと、鹿やエルクを追っ払ったりしません。

今、春先がベビーブームの季節です。普段おとなしい牝牛が遠くまで響く声で啼いているのは出産のうめきで、牧場に何十頭という子牛が、ポキポキとぎこちない歩き方で母牛について歩いています。

鹿も出産の季節で、バンビが折れそうな足で必死になって群れについていっています。不思議なのは、これだけ牛と野生のエルク、鹿が一緒にいるのに、混血が起こらないことです。

一見物知りに見えるウチの仙人にその理由を尋ねてみたところ、「そりゃ、サルによく似た人間もいるけど、そんな奴でもメスザルを見て興奮しないだろうに…」と分かったような、分からないような返事しか返ってきませんでした。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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