のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第579回:由々しきアメリカの教育問題

更新日2018/09/20



歴代の大統領たちは口を揃えて学校教育の大切さをオマジナイのように唱え、年頭の一般教書演説などで物々しく、あるいはもっともらしく指針を示します。ところが、大統領ご自身の教養が、国民に教訓をタレルほど高くないどころか、相当酷い低レベルのことが多いのです。

有名なのはブッシュ前大統領(ジョージ・W・ブッシュ;息子さんの方です)で、ブッシュイズム(Bushism)という新造語が生まれるほど、文法の間違いだらけの英語を話し、でたらめな英語で演説し、インタビューに応えており、インターネットの「SLATE」(https://slate.com/)というサイトにこれでもかというくらいブッシュのトンチンカン、小学生でも犯さない間違いだらけの英語が載っています。

子供“child”は単数で、複数の子供たちは“children”になることは、英語を習い始めた日本の中学生なら誰でも知っていることでしょう。それを我が大統領は“childrens”と複数形にさらに”s”を付けてしゃべっている様子が何度も録画され、報道されました。

彼の副大統領を務めたダン・クワイル(Dan Quayle)もブッシュ大統領に負けずに、政府の宣伝のため小学校を訪れ、授業参観した時、小学生が黒板に“potato”と書いたのを、いかに自分が教育に関心を持っているか示そうとしたのでしょう、教壇にシャシャリ出て、小学生の子供が書いた“potato”の正しいスペルを“potatoe”と書き直したのです。

古来、何かを見せびらかす時、大いに恥をかくものですが…。“potato”のスペルを知らず、間違うだけでなく、子供たちの前で、テレビカメラの前で“potatoe”と余計な“e”を付け足したのは、もうお笑い、冗談の域をはるかに超えた教養のなさです。

アメリカの義務教育は高校までで、全員必ず高校に行かなければなりません。ところが、高校をまともに卒業できるパーセンテージがなかなか上がらず、ドロップアウト、途中で辞めてしまう生徒がたくさんいます。それをなくそうと、ブッシュ大統領は“落ちこぼれの子供をなくす”キャンペーンを展開し、それなりの成果を収め、2014年には前代未聞の卒業率80%以上にまでなりました。

その中でアジア系の卒業率は90%を超えましたが、黒人は74%と開きが出てしまいました(National Center for Education Statisticsによる)。間違いだらけの英語を話す大統領の掛け声で始まった“落ちこぼれをなくす”方針が成果を挙げたと思いきや、とんでもない、ただ、高校卒業の基準を低くし、時には校長先生みずから、自分の高校の卒業率をごまかしていたことが、それこそ当たり前に行われていたことが判明したのでした。

学校が卒業率をごまかす、本来とても卒業できないような生徒もドンドン卒業させてしまうのは、政府が卒業率の低い学校に一種の罰金を科し、高校に回ってくる予算を減らす政策だったからです。結果、高校にほとんど出席したことがない卒業生がたくさん出始めることになりました。

チョット不思議なのは、アメリカにある二つの教職員組合、A.F.T.(American Federation of Teachers) とN.E.A.(National Education Association) の両方ともがブッシュ大統領の見当違いの政策に大声で反対しなかったことです。この二つの教職員組合は教員の権利、利益を守ることに忙しく、子供たちの教育レベルをいかに上げるかには無関心だったと言い切ってよいでしょう。

お医者さんが誤診、簡単な手術の失敗、間違った処方箋で、患者さんを殺してしまったなどで医師免許を剥奪される割合は57名中1名です。自己弁護に長けた弁護士でも97名中1名が資格を剥奪されています。ところが、これだけ教師のセクハラ、パワハラ、ワイセツ行為が多発しているにも拘わらず、教師免許を取り上げられたのは2,500名中1名と、一度教職に就いたら、生徒の一人二人を殺さない限り安泰なのです。少しばかり勇み足をしても、組合が守ってくれるからです。

悲しい現実ですが、私の生徒さんの中で、最低のグループは教職課程の学生です。一体、頭は髪の毛を梳かしたり、染めたりするための土台で、中身はカラッポ、全体、どうやって高校を卒業して、大学まで進学することができたのか、そして、こんな間違いだらけの英語でレポートを書く生徒が先生になって子供たちに何を教えるのだ…と呆れるくらい酷いレベルなのです。

今のトランプ大統領の言語能力も相当酷いものですが、アメリカはブッシュ大統領のようにデタラメ英語しか使えない、教養のない人でも大統領になれる、良い国なのかもしれませんが…。

-…つづく

 

 

第580回:不幸はまとめてやってくる

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで
第401回~第450回まで
第451回~第500回まで

第501回~第550回まで

第551回:山の異変と狼回復運動
第552回:雪崩れの恐怖
第553回:ウィッチハント(魔女狩り)ならぬウィッチ水脈探し
第554回:フリント市の毒入り水道水
第555回:無料で行ける公立大学
第556回:“偏見のない思想はスパイスを入れ忘れた料理”
第557回:新鮮な卵と屠畜の現状について
第558回:ベティーとマイクのマクドナルド・ファーム
第559回:時計を読めない、正しい英語が書けない世代
第560回:日本の英語教育に必要なこと
第561回:スクールバスと幼児誘拐事件
第562回:アメリカではあり得ない“掃除当番”
第563回:プライバシー問題と日本の表札
第564回:再犯防止のための『性犯罪者地図』
第565回:“風が吹けば桶屋が儲かる”_ Kids for Cash
第566回:卒業と就職の季節
第567回:歯並びは人の品格を表す
第568回:アメリカ異人種間結婚事情
第569回:アメリカのマリファナ解禁事情
第570回:一番幸せな国、町はどこですか?
第571回:日本人は“絵好み(エコノミー)アニマル”
第572回:お墓はいりませんか?
第573回:火気厳禁~異常乾燥の夏
第574回:AIの進化はどこまで行くの?
第575回:暑中御見舞いとゾッと涼しくなる話
第576回:落雷か? 熊か? ハルマゲドンか?
第577回:山の中のミニ音楽祭
第578回:たかがラーメン、されどラーメン…

■更新予定日:毎週木曜日