■よりみち~編集後記

 


■更新予定日:毎週木曜日


更新日2004/02/05


錆びついた自転車の荷台に、使い込まれた紙芝居を乗せてやってくるおじさん。そう、懐かしの「紙芝居のおじさん」に、なんと東京のおっしゃれェ~な街・青山で遭遇した(私はおまけの飴玉につられたクチの食いしん坊小学生だったけど)。紙芝居のおじさんの正体は、おじさんというには失礼な紳士、翻訳家の新元良一氏だ。そして紙芝居の絵は、味わい深い重厚な画風で人気のイラストレーター山崎杉夫氏の力作。こんな贅沢な紙芝居、いったい何かというと、実は「White man」というプロジェクトのひとつで、青山円形劇場で行われたイベント。じかに物語を読者に伝えてみたいという二人のアイディアで、観客を円形の舞台の上にあげて(これ、もちろん飴玉付き!)紙芝居を読み聞かせるという趣向。大の大人が飴玉なめつつ、体育座りで紙芝居を見上げる。なんとも不思議な眺めだった。今の若い世代にも心の隅っこにこんな素敵な体験が残っていたら良かったのになあ…。紙芝居は、失われゆくにはもったいなすぎる! とあらためて思ったでやんす。(瀬尾

 

また週末にレイトショーを観てきた。金曜日や土曜日の夜に夕食をゆっくり食べてからでも間に合う映画館というのは、映画ファンには堪らなくうれしい。おまけにレイトショー料金は1200円とさらにうれしいサービスである。どこの映画館もマネてほしいものだ。今回は予告編でチェックしていた『シービスケット』を観た。実際に大活躍した伝説のサラブレッドとその馬に結び付けられた3人の一度は人生に行き詰まった男たちの物語だ。ハリウッド映画の最も得意なテーマかもしれない。ストーリーでグイグイと引き込んでいく手法で、最後には手に汗して「負けるな! シービスケット」と、競馬が嫌いな人でもそう心の中で叫んでしまう爽快な映画だった。『スパイダーマン』のトビー・マグワイアが旗手役で好演している。時代も1938年と大恐慌時代の余波が残る混沌としたアメリカが舞台で、どこかバブル崩壊後や最近の不況の日本と重なる部分もあり、アメリカの繁栄もこの時代のように、いつ崩れ去るかもしれないと思うと、複雑な気持ちになる。アメリカがチャンスの国と呼ばれるのがよく理解できる。実話だというからさらに驚かされたことがある。サラブレッドの足は一度骨折をすると自分の体重を支えきれずに衰弱死するから、かわいそうだが安楽死させると聞いていたが、このシービスケットは連戦連勝の絶頂期に前足のじん帯を切って再起不能と獣医に宣告され、安楽死を勧められたにもかかわらず、1年後に復活して優勝しているのだ。気性が荒く、小さな体で、誰もが勝てると思っていなかったひねくれ馬だったが、天才調教師がその才能を見抜き、同じような境遇の天才旗手と出会い、彼らの才能に人生を賭けたオーナーが現れ、不幸な時代が求めたヒーローとして迎えられたのだ。何度走っても優勝できない高知競馬の「ハルウララ」のように負けて有名になった馬もいるが、才能があってもその才能を見出す人が現れずに一度も勝てないまま馬場を去っていく馬の方が圧倒的に多いわけで、“人生あきらめたら終わりでっせ”という教訓があふれた映画だった。(