■よりみち~編集後記

 


■更新予定日:毎週木曜日

 

 

 

 

 


更新日2005/03/10


日本人でカレーが得意ではないという人に今まで会ったことがあるだろうか。ラーメンと同様、日本で生まれた料理ではないのだが、なぜか人気が高い。安価で、気軽で、短時間で食べられるところは共通している。お昼時に何を食べようかと迷ったら、無難なラーメンかカレー、そして日本そばということになりがちだ。カレーと言えば、最近北海道で爆発的人気?というか、すでに市民権を得た感のある「スープカレー」があるが、普段食べているのは英国式?というのかとろみのあるルーカレーかまたはカレーの原産地であるのインドカレーが最もポピュラーである。スープカレーはインド風を狙っているのだが、あくまでもカテゴリーはスープのようで、時々どうやって食べてよいのか迷ってしまうことがある。スープカレーの器と皿に盛られたライスが一緒に出されるわけだが、ライスをスプーンに取り、それをスープに浸して食するのがよいか、スープをライスの上からかけて食した方がうまいのか、迷いが生ずるのである。他の人はどうしているのか気になって、周りを見回すことになるが、それぞれの流儀があってますます悩むことになる。私の結論はといえば、どっちでもいいのだが、人を迷わせる料理であるスープカレーはやはり邪道なのではないかということになった。まあ、邪道でもうまけりゃいいのであって、そのうち熱狂的なファンが食べ方の極意まで開発してくれることだろう。それでは、本道のカレーはどれかということになるのだが、ここからはかなり極私的な趣味の世界になりそうだ。そもそもカレーの概念はとても広く、日本人が考えているカレーは、「ハウスバーモントカレー」(そういえば、最近このブランドを食べていないな…)的な給食風小麦粉とろとろカレーなどのようにカレー粉(これも本場インドにはなく、インドではマサラと呼ばれる香辛料をブレンドしたものをいう)の風味だが、インドのどこを探しても日本風カレーは存在しない(その昔インドをぐるっと一周したことがあるが英国風も日本風もなかった)、さらに驚いたのが、インドのカレーは地方によって味が全然異なり、食べ方も違うことだった。まず北インドと南インドでは人種も違うようにカレー自体が違っている。北インドはチャパティ-やナンなどのパン系が中心で、あまり米は食べない。香辛料がきつく、辛いのも特徴だ。そして飲み物はチャイと呼ばれるミルクティが主流である(「インドの定食ターリー」)。南インドになると、主食は米飯が中心となり、ナンなどはあまり見かけなくなる。北に多いノンベジタリアン(肉入りカレー)のお店も見かけなくなり、ほとんどが純野菜だけのベジタリアン専門店になる。味付けはさっぱり系が多く、香辛料も控え目で決して辛くない。ココナッツミルクを多く使っている。飲み物もチャイだけでなくミルクコーヒーもあり、フルーツも豊富で、南インド特有のスナック(マサラドーサ;「南インドの食べ物」)などの楽しみも増える。特に私が好きなカレーは、この地方で食されているミールス(南インドの定食のことで、北インドではターリーと呼ばれている)である。(「はじめてのミールス」 「インド料理の魅力」)食べ方がユニークで、定食専門の食堂に入ると、まず洗い場で手をきれいに洗いテーブルにつく、そこに給仕の少年がバナナの葉を広げていく、次に葉に水をかけてくれるので、葉を清める。食堂内にはカレー風味の野菜煮や漬物(アチャールと呼ぶ)の盛り付け係の少年やオヤジたちがゆっくりと回っていて、バナナの葉の準備が整うとやってきて、自分の担当の食材をバナナの葉の所定の位置に盛り付けていく。そこに米飯係がやってきて、山のようにご飯を盛り付けていく。これらはすべて給仕係りとのアイコンタクトで行われ、目を見ながら量を加減していく。黙っていると、富士山のようなご飯の山になるので、頃合を見て頭を横に傾げる。これがインド流のOKである。パッパ-ドというレンズ豆でできた薄く揚げたせんべいも配られるので、ご飯の上に小さく砕いて振りかける。やがてカレーを入れたバケツを手にした給仕がやってきて、ご飯の上にアイコンタクしながらスープ状のカレーをかけていく。当然のことだが、スプーンは邪道である。右手だけでいただくことになる。右手の指先でカレーとご飯を混ぜ合わせ、指先にご飯をまとめて親指を上下に押し上げるようにして口に送りこむ。最初は手のひらまでご飯つぶが付きうまく食べられないのだが、慣れてくると、指先だけできれいに食べられるようになるから不思議だ。指先の感覚も味覚の一部になっていることも分かる。カレーの味はというと、不思議な味で、ちょっと酸味があることが特徴だ。ヨーグルトが入っている白っぽいカレーはほとんど辛味もなく、さわやかな味だ。これが毎日食べても全然飽きないのだ。また、そのカレーも一種類だけでなく、色々な種類のカレーがあって、バケツの中を見せながら、どうだいこれもいくか?と目で聞いてくる。数種類のカレーを混ぜ合わせるので、結構飽きないでお変わりができてしまう。ご飯が少なくなると、ご飯担当がやってきて、いるか?と目で聞いてくる。バナナの葉を広げているのは食事中という意味なので、お腹が一杯になったら、バナナの葉を半分の折って、もう終わったということを意思表示しなければならないシステムである。バナナの葉を自分で所定の場所に捨てて、手と口をゆすぎ、出口の会計でお金を払うのだが、食べ放題なのでいくらおかわりしても均一料金だ。だいたい一食が日本円で20円~30円くらいだったと思う。この食事を南インドの人々は毎日食べているわけで、貧しい国ではあるのだが、南インドの食生活に関しては決して貧しいとは思えなかった。日本で時々無性にミールスが食べたくなるのだが、未だに日本でお目にかかったことがないのが残念である。(K

 

 

 


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