■よりみち~編集後記

 


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更新日2005/03/31


マーチン・スコセッシ監督作品で、残念ながらまたしてもアカデミー賞の主演男優賞を逃したレオナルド・ディカプリオ主演の映画「アビエイター」を観てきた。ハワード・ヒューズという男の成功と挫折の青年時代を描いた作品だ。この人物のことはかなり変人だったということは耳にしてはいたが、ハリウッド映画の黄金時代を生きた映画人の一人ぐらいのことしか知らなかった。この映画を観て単なる変人ではなかったことが分かった。天才と狂人が紙一重とよく言われることだが、彼は天才であることは間違いないが、子供の頃のトラウマなのか重度の潔癖症による人格破壊が彼を苦しめ、普通の生活をすることが大変な人であったようだ。1905年テキサス州ヒューストンで生まれ、この世に生を受けてから死ぬまでお金で苦労した経験がない生粋のボンボンで、生まれながらにして大富豪(父親が石油掘削機のドリルを開発して巨万の富を得た。設計の才能は父親譲りのようだ)。一度としてお金のために働いたことがないという誰もが一度は夢見る境遇である。若くして両親を亡くし、事業は後見人に任せ、自分は飛行機に取りつかれたようにのめり込み、自ら設計した飛行機を操縦し、当時の飛行機の世界最速記録を樹立したり、世界一周最速記録を達成もしている。ついには、自分の会社を抵当に入れて航空会社を買収して現在のTWA社を国際航空会社にまでしている。何かに衝き動かされているように思いつくままに指示を出し(それができるとてつもない財力があるからさらにすごいのだが…)、金ですべてを手に入れてしまう。ここまで書いてきて、最近話題のホリエモンが日本のミニ版ハワード・ヒューズなのかもしれないと思えてきたが、ちょっとスケールが違うようだ。少なくともホリエモンには設計や監督の才能はないようだ。一方のハワード・ヒューズの方は、当時の花形産業である映画を愛し、自ら監督となって常に話題の映画を制作しつづけた。失敗作もあったし、あまりにお金をかけすぎて興行的には回収できない作品も多かったようだが、ハリウッドの映画人としてしっかり評価されている。最後はラスベガスに拠点を移し、ホテル「デザート・イン」の最上階のペントハウスに住み、隠遁生活のような暮らしをしながら、数々のホテルやラジオ局、テレビ局などを買収して最期まで経営者であり続けたようだ。71歳で息を引き取った時には指紋を取らなければ本人と判別できないほど容姿が変わっていたという。なんとも壮絶な人生であり、とてもスケールが大きく、実にアメリカ的な人物だ。すでに24歳の時に、全財産をつぎ込んで3年がかりで映画づくりをしたり(『地獄の天使』)、当時としては誰も考えもしなかった巨大な偵察機を自ら設計してアメリカ空軍に売り込んだり、アメリカにしか生まれない伝説の男である。しかし、お金はいくらでも空から降ってくるような大富豪であっても、誰一人として彼を理解できる人がおらず、お金の苦労はしないが、精神的には常に貧しく、満たされることがない侘しい人生だったようで、マイケル・ジャクソンにも共通していることかもしれないが、お金を持てば持つほど、その金属特有の冷たさに耐えられる強靭な精神力が求められるものなのかもしれない。貧乏な家庭に生まれた自分にちょっとだけ感謝したい気持ちになった。ところで、レオナルド・ディカプリオはなぜこれだけ注目される大作ばかりに主演しているのにアカデミー賞を逃してしまったのだろう。演技には定評があるし、ルックスも文句を言う人はいない。唯一あるとするならば、若すぎるところかもしれない。年齢以上に幼く見えてしまう瞬間があるように思えるのだ。あと数年して円熟した本物の演技が見せられたら、今度こそは間違いなく受賞できるはずだ。今年は「Ray」(テイラー・ハックフォード監督作品)のジェイミー・フォックスの完璧な演技に拍手するしかない。(

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO
03/24/2005更新済み