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■よりみち~編集後記
更新日2019/05/09




昔から旅が好きで、大学時代には『何でも見てやろう』(小田実著;1961年刊)に感化され、バックパックを背負って(と言いながらボストンバック専門だったが…)世界各地を歩き回るのが生きがいになっていた時期があった。当時(初の海外は1974年)はとにかく海外の情報が少なく、特に地方在住者(当時、高崎市)にとっては、格安航空券の存在もまだまだ知られておらず、その入手にとても苦労した覚えがある。海外旅行の書籍もジャルパック系の旅行本ばかりで貧乏旅行を志す若者向けのモノはとても少なかった。やっと調べて辿り着いたのが『世界ケチケチ旅行研究会(世界ケチ研、後の「ザ・個性的な旅」)』(初の海外旅行の記事は2007/07/12のよりみちへ)で、即決で参加を申し込んだ。情報を求めて多くの渡航参加者が事前ブリーフィングに集合した。貧乏旅行の方法を経験者から直接アドバイスを受けることができて、何だ結構安く旅行できそうだと安心できた。今では笑ってしまいそうな話なのだが、それほど海外の情報に飢えていたわけで、1979年に創刊されたダイヤモンド社の『地球の歩き方』が日本における個人旅行のバイブルになったのはそれほど待たれていたガイドブックだったからだ。

その個人旅行にもしばらく出られず、それが続くと、今度はそれが面倒に思えたり(行き当たりばったりの旅でも、すべて自分で計画して、予約したり行動することは結構煩雑な作業が伴うものだ)、どんどん個人旅行から遠ざかり、至れり尽くせりのパック旅行などを体験すると、軽蔑していたパック旅行も楽しくはないが、さすが面倒がなく、これもありかと思えるようになった。これが歳をとるということなんだろう。ただ個人旅行とは全然違い、緊張感セロ、ワクワク感ゼロ、サプライズ・ゼロの観光旅行で、仕事を離れ、旨いものを食べ、リフレッシュした感じはあるのだが、個人旅行がやはり懐かしいのだ。そこで格安エア会社(LCC)がフンダンに出現しているのに、個人旅行を楽しまないのは時代の流れに乗れていないのではと考え、重い腰を上げ、GW前の台北旅行に出発したのだった。

台湾は日本から最も近い国でありながら、何時でも行けるという安心感と、外国感が乏しいなど、あまり興味を持っていなかったのだが、最近(2019年2月)、中国の国際ニュースなどで、習近平中国国家主席が包括的な台湾政策(習五点)を発表し、中国が2049年以前に台湾を統合すると言い切ったことに驚いた。確かに台湾というか中華民国を国家として承認している国は17ヵ国にとどまり、中華人民共和国の「一つの中国」政策に国連参加国は同調せざるを得ない状況に陥っているわけで、日本も微妙な立ち位置にある。本音は国家として認めたいのだが、中国の手前承認できない、正に長いモノには巻かれろ方式で、中国の遣り方を遠くから眺めている状態なのだ。香港がイギリスから返還され中国領になったように、長期的な統合化を台湾にも適用してくるわけで、それも期限を2049年以前にすると通告してきたのだ。香港が併合されたことで大きく政治状況が変化してきたように、台湾もすでに統合を受けた国内政治に大きく影響が出始めている。今のうちに中国化されていない台湾独自の文化を観ておかなければ、どんどん中国色が強化される気がして訪問を決めたということも理由のコジツケの一つだった。

LCCの登場にはインターネットが不可欠だったわけで、とにかくこのネットが旅行スタイルからビジネス全般を大きく方向転換したことは確かだろう。LCCはすべてネットで完結している。人件費やサービス経費を削減し、徹底的なコスト削減を行い、すべてそぎ落とした競争の結果、これだけ安価な航空券が提供できているわけで、個人旅行には不可欠なサービスとなった。私は千歳空港発着なので、直行便がかなり限られているが、成田や中部、関西からだとよりどりみどりでLCCの格安航空券がネットで瞬時に購入可能だ。千歳空港から台北の桃園国際空港まで、往復で2万7,000円(Peach Aviation)程度で、荷物が7Kg未満で、更に安い時期を選べば2万円弱も可能なのだ。千歳-羽田往復よりも安く海外旅行に行ける時代になっているのだ。4時間弱で台北着。入国審査は丁度海外便が重なり長蛇の列。台湾籍パスポートの人は無人の自動改札があって驚いた。チップを身体に埋め込めばもうパスポートもなくなるのかもしれない。入国審査は両手の人差し指を機械に登録するのみ、全く質問などもなし。両替を済ませ、事前に調べてあった(ほとんどの空港の情報がネットにあるから、ガイドブックなど不要だし、情報が古すぎるのだ)プリペイドSIMを購入するサービスカウンターを探す。今回は5日間の滞在なので、5日分パック300ドル(通話料200円分込みで1,000円強)を契約。係の兄ちゃんがすぐにスマホにチップを入れてくれて、即ネットが使えるようになった。すでに21時を過ぎていて、地下鉄(MRT)で台北駅へ向かい、ホテルの場所もGoogle Mapで方向指示のまま向かい、駅から15分のホテルへチェックイン。

何か不明なことはスマホを検索して、旅行経験者のサイトなどを調べれば、ガイドブック以上に詳細で正確な情報が動画付きで公開されていたりしているので、ガイドブックも不要な感じだ(街の全体像や概要などはやはりガイドブックが便利だが、個別の場所の情報やアドバイスはネットの方が有効だ)。英語が思っていた以上に通じない(それでも日本よりはかなり通じるだろう)こともあり、漢字の日本語読みでは一切通じないこともあり、ほとんど人に聞くよりもネットで確認した方が早いこともあり、ほとんど台北の現地の人とコミュニケーションをとっていない。せいぜい食事の際やカフェで注文する際に交わす言葉程度で、すべて用が足りてしまうのだ。それもメニューを指差したり、誰かが食べているモノを指差したりするだけで、コミュニケーションとも言えない。LCCやネットの普及で個人旅行が全く変わってしまったことは今回の旅行で実感した。便利になり安価になり、世界がこんなに近くなった時代はかつてなかったが、旅の醍醐味であったはずの人と場所の出会いや感動がまるでデジタル化され色褪せてしまった気がする。もう個性的な旅はネットが通じない辺境の旅や、極限の地など探検の旅に限定されてきたのかもしれない。まあ、自分がそれだけジジイになって、何を観ても感動しなくなっただけかもしれない…(越)

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO

 

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