■よりみち~編集後記

 


■更新予定日:毎週木曜日

 

 

 

 

 


更新日2007/05/10


9連休のゴールデンウィークはいつのまにか終わってしまった。でかける場所がどこも人で一杯とは分かっていても、やはり出かけたい場所があった。お台場に仮設された「ノマディック美術館」がそれだ。カナダ出身のアーティスト、グレゴリー・コルベールの『ashes and snow』を観てきた。結果は、やはり思った通り、GWは避けるべきだった。これだけスピリチュアルなアート作品を鑑賞するには人の気配は邪魔である。天気の良い日に(風が吹くと仮設の美術館ゆえテント部分の音が耳障りなので…)そして人が極力少ない平日に一人で鑑賞することをお勧めしたい。グレゴリー・コルベールの旅する美術館のウワサは聴いていたし、動物と人間とのなんとも不思議な静寂な時を記録した写真は、祈りにも似た感覚で、大きな本物の画面で観たいという欲求があった。まず驚くのが旅する美術館そのものがアートしていることだ。日本人の建築家・坂茂(ばん・しげる)氏の設計によるものとのことだが、152個の鋼鉄製コンテナとテント、それにリサイクル建材で構築された巨大スペースは超現代的だった(古い材料でここまで現代風に空間がつくれることに感激した)。旅する美術館だけあって、コンテナを船便で運ぶことまで計算されているようだ。自然光を取り入れ、外界の自然の音、風の音までアートと共存させ融合させようというコンセプトなのだろう(但し、強風の場合、若干うるさ過ぎるかもしれない)。『ashes and snow』の作品は写真作品が中心だと思っていたのだが、どちらかというとビデオ作品がメインとなっている。3つの作品群からなり、9分間の短編作品2本と60分間の長編作品1本にそれぞれの作品の核となるスチール写真作品が通路に沿って展示されている。写真もビデオ作品も一切CGや合成を使っていないというのがミソで、今やCGなしの映像など皆無となっている映画の世界で異彩を放つのは当然のことかもしれない。どのビデオ作品もどうやって撮影までたどり着いたのか、メイキング映像が見たくなるほど、動物それもかなり獰猛だったり人間とは縁がない野生動物と信頼関係まで表現している作品ばかりで、まさに舌を巻くばかりである。これほど動物の美しさや人間と動物が共存する美しさを表現した作品があっただろうかと思えるほど、完璧なまでの美の世界がそこにある。特にモノクロの写真には、日本の墨絵につながるワビサビの世界を感じさせる。写真の印画紙に日本の手漉き和紙が使われているそうで、グレゴリー・コルベール氏もかなりの日本通でもあるようだ(撮影には、日本人カメラマンの中村宏治氏も参加しているそうだ)。この『ashes and snow』のプロジェクトはロレックスがスポンサ-ドしているとのことで、日本の大企業も見習ってもらいたいものだ。ロレックスの冠は表記されているものの一切商品などの宣伝をしていないというのも大人な企業を感じる。これが日本の企業だったら、すかさずヒモ付きの宣伝をバッチリいれているんだろうなと思える。日本にも、もっとアートを本気で支援する企業が出てこないものでしょうか。(

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO