■よりみち~編集後記

 


■更新予定日:毎週木曜日

 

 

 

 

 


更新日2007/05/31


「The Queen」(スティーブン・フリアーズ監督作品)は、イギリスという国はホント大人の国なんだなということに感動する映画だった。日本で例えると、現在の天皇さんと小泉首相のことを映画化するようなもので、それもすべて登場人物が実名で、プライベートなオフレコ発言から、天皇さんと皇后さんの寝室での会話まで再現しているような内容なのだ。日本的な感覚からすると、えーーー、こんなこと映画にしちゃってイギリス王室は大丈夫なのかと、こちらがハラハラドキドキする内容で、ホントに王室は黙って許してくれたのか不思議なほどだ。ストーリーはダイアナ妃のあの地下道での事故死からウェストミンスター寺院での国葬に至るまでのイギリス王室(というよりはエリザベス女王その人)と英国議会との混乱の一部始終の裏舞台を描いたもので、いわばイギリス王室の暴露ものに近い内容で、現職のブレア首相が王室を説き伏せて国葬にした経緯が描かれている。簡単に言ってしまえば、ブレア首相が王室のタブーをことごとく打ち破って、民衆から批判され続けた女王を孤立させなかったかという「よいしょ」映画なのだが、すべて現在進行形で活躍する有名人が登場する話なので、あまりにデリケートすぎる内容で、ここまで描いて問題が出なかったのが不思議である。ダイアナ妃が王室でどういう立場だったのかがよく描かれていて、決して当時のメディアが礼賛する美化されたダイアナ妃ばかりでなく、あまりにも奔放な性格が王室で浮きまくっていたのかも伝えており、その点では女王の苦悩もしっかりと描かれていて、女王の心情にもちゃんと配慮されているようだ。女王役のヘレン・ミレンの女王としての完璧な演技は本物を超えてしまった感じで影武者として十分やっていけそうだ。ちょっと軽薄で問題ばかり起こすチャールズ役のアレックス・ジェニングスも顔はちょっと違うけれど、実に雰囲気は捉えていて、さすがクイーンズ・イングリッシュ。ちょっと違和感があったのはフィリップ殿下で、あとで調べたらアメリカ人のジェームズ・クロムウェルという人だった(スパイダーマン3にも出ていた)。イギリス紳士の独特の英語と身のこなしが真似できなかったのかも。ブレア首相(マイケル・シーン)もちょっといい男すぎて違うんだけど、奥さん役(ヘレン・マックロリー)も雰囲気がぴったり。それにしても、女王の寝室でフィリップ殿下とのベッドでの会話や、現職のブレア首相の夫人の王室批判の言動など、ここまで描いてなぜ問題にならないのかイギリスの奥の深さに驚くとともに、監督のスティーブン・フリアーズの勇気に脱帽である。日本では絶対に成立しない映画だと思える。(

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO