■よりみち~編集後記

 


■更新予定日:毎週木曜日

 

 

 

 

 


更新日2008/06/12


なんともすごい通り魔事件が起こってしまったものだ。「殺すのは誰でもよかった」「誰かを殺したかった」という無差別殺人が近年続いている。そして犯人はいずれも若く、将来を悲観する年齢とは思えない。その思考形態もあまりに未熟で、短絡的で前後の見境もなく、常軌を逸している。それでいて、偏執狂でもなく、精神的に病んでいるとは思えず、薬物などへの依存傾向もなく、ごく普通の生活を送っている「まさかあの人が」的な青年が多いのも特徴だ。共通しているのは「都会の孤独」に耐えられなくなったことだろう。生きている意味が見出せず、誰も自分を必要とせず、生まれたこと自体を否定し始め、生きていてもしょうがないと思い込み、どうせ死ぬなら、最後にとんでもないことをやって自分の生きた証を世の中の記憶に残したいという全くの自己中心的な発想の虜と化してしまったのだろう。殺された者、残された遺族や友人たちの渦巻く怨念は一体どこに向かえばよいのだろう。この無差別殺人の犯人だけは、中国や北朝鮮が見せしめのために行っている公開処刑に対して否定できない気分である。
一方で、今回の秋葉原の犯行の引き金となったとされる「派遣先からの解約予告」という話がとても気になる。現在、「派遣労働者」は321万人(対前年26%増;18年度事業報告-厚生労働省)をはるかに越えていて、最近、声高に言われる格差社会や働く貧困層と呼ばれる「ワーキングプア」の問題が、この「派遣労働」の急激な普及と社会への浸透の時期と重なっているようなのだ。労働者派遣法が改正され、派遣の原則自由化が盛り込まれた「新労働者派遣法」が施行された1999年以降、急激な「派遣労働」ブームが起こり、リストラの嵐と連動して、非正規雇用形態が一般化し、定職を持たない(持てない)「フリーター」が増え始め、不況にあえぐ企業は短期雇用で社会保険をカットできるアルバイト的な「派遣労働者」を雇い、業績次第でいつでも契約を解除できる雇用形態を日常化させてしまった。もはや派遣労働者なしで企業が成り立たない状況にまで社会現象化してしまっているのだ。いつ雇用をストップされるか分からない不安、体調不良などで休むと契約が打ち切られる現実、長期雇用でも全く変わらない時給、保障や保険の不備、まるでチャップリンの映画『モダンタイムス』のように人間が歯車扱いされるような現実がそこにある。一度派遣社員に登録してしまうと、ずるずると不安定な派遣労働が繰り返され、生活のために定職に移るチャンスもままならなくなる現実があり、行き着く先がネットカフェ難民のように、自分の住む家まで失う「日雇い派遣」になってしまう可能性もあるわけだ。
今年、2008年4月にやっと「日雇い派遣」を含む雇用契約期間が2ヵ月以下の労働者派遣を禁止する法案が可決されたようだが、派遣労働の根本的な問題は変わりなく、いつ契約を解除されるか分からない不安な生活から脱却できない多くの若者がいるわけで、国として派遣労働者の問題と真剣に取り組まないかぎり、次の無差別殺人が起こる可能性は消えないように思える。K

 

 

 


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