■よりみち~編集後記

 


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更新日2007/06/21


クリストファー・ノーラン監督作品「プレステージ」を観てきた。今まで映画の世界にマジックをテーマとしたものがなかったという。確かにマジシャンを主人公とした映画は観たことがないことに気づいた。映画のタブーの一つらしいのだ。映画の中でマジックを見せても、確かに感動はないはずだ。どんなトリックでも作り出せる映画にとって、マジックは不思議でもなんでもなくなるからだ。ちょうどガス灯から電灯に変わろうとしている19世紀末のロンドンを舞台に、二人の天才マジシャン「グレート・ダントン」と「ザ・プロフェッサー」がイルージョンの世界に獲り憑かれ、互いに人生を賭けたライバルとなったというストーリーなのだが、そのライバル心が常軌を逸しており、最初はなかなかそのストーリーについていけず、観客はおいてけぼりになってしまいそうになる。そしてだんだんと気がついてくるのだが、この映画はストーリーの面白さではなく、「謎解き」がテーマで、その面白さを見せたいのではないかと判ってくる。映画の中にトリックや謎解きをたくさん仕込んであり、観客がそのトリックを見破れるかどうか監督自身が挑戦しているのだ。映画の中盤あたりで、映画の冒頭で示される監督からのメッセージ「この映画の結末は誰にも言わないで下さい」の意味がだんだん分かってくる。マジックの重要な3つのステップと呼ばれる、「プレッジ」(タネも仕掛けもないことを観客に示す)そして「ターン」(仕掛けのない道具で期待にそむかないパフォーマンスを見せる。しかし、トリックは見抜けない)さらに、「プレステージ(=偉業)」(それだけでは観客は満足しない。最後に予想を超えた驚きを提供する)、この3つのマジックの基本を映画に当てはめ、映画自体をマジックとして仕上げる演出で観客に挑戦しているんだ。最初、この監督の狙いが理解できず、ストーリーの展開が読めず、いつまでマジックのネタばらしを見せられるのかうんざりしていたが、テーマが「瞬間移動」というこの映画の本題に入り始めると、映画の新しいスタイルを感じ始めた。観客も一緒になってナゾ解きを強いられるのだ。この映画の最後に分かる「プレステージ」を想像し、すべてを疑い始め、誰がウソを言っているのか、どちらが最後に勝つのか分からなくなってしまうのだ。最後のどんでん返しは、もちろん約束だから明かせないが、見破ることができた人も多いかもしれない。「グレート・ダントン」のヒュー・ジャックマン、「ザ・プロフェッサー」のクリスチャン・ベール、この二人のマジシャン対決の演技はなかなかきまっていた。かなりマジックの訓練もやったようで、さまになっている。二人のマジシャンの間をさまようスカーレット・ヨハンソンも魅惑的だ。配役で一番驚いたのが、あのロック界の奇才デヴィッド・ボウイが存在感のある演技で、実在の発明家ニコラ・テスラを好演していたことだ。映画そのものの評価は分かれるとは思うが、新しい映画の手法としては評価に値する意欲作だと思った。(

 

 

 


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