■よりみち~編集後記

 


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更新日2004/09/02


今話題沸騰のマイケル・ムーア監督作品『華氏 911』(原題:FAHRENHEIT911)を観てきた。第57回カンヌ国際映画祭最高賞パルムドールと国際批評家連盟賞ダブル受賞して注目され、徹底的なブッシュ批判とアンチ戦争を唱えるドキュメンタリー映画(?)である。このムーア監督は、「ボウリング・フォー・コロンバイン」でアメリカの銃規制の問題を取り上げて注目され、現代アメリカの問題点を内部告発するので有名な映画監督だが、どうも手法が荒っぽく、ドキュメント作品と呼ぶには少々問題のあるシーンも多く、どちらかというとプロパガンダ映画に近いと思っている。ただ、その根底にはムーア監督の弱者救済、人権尊重の思想がしっかりとしていて、問題点をアピールして最大限の効果をあげるためには手段は選ばずに、なんでもアリの戦術で突撃するのが好きな作家のようだ。ドキュメント作品としてはB級なので、ムーア監督をあまり好きになれないのだが、今回の「華氏911」はやはりどんな映画なのか観ておきたかった。作品のデキは予想どうりで、やはりB級だったが、田原総一郎氏がコメントしているように“これは映画ではない。ブッシュ大統領を標的にしたすさまじい映像爆弾だ。世界一の権力者をどこまでぶっ飛ばせるのか。”という民主党のプロパガンダ映画だった。内容的にも憶測が多く、目新しい話はなかった。いかにブッシュ一族が石油の利権やサウジ王家とつながりがあるか、いかにジョージ・ブッシュが無能で最低の大統領なのかをこれでもかというほど見せつけられる。よく大統領選を控えたアメリカで上映禁止にならなかったのか不思議である。少なくとも事実と違うとブッシュが告訴するのが日本では当然のように思えるが、そこが自由の国アメリカということなのだろうか、ムーア監督をうそつき呼ばわりはしているものの、NYの共和党大会にまでムーア監督の入場を許可するほど、取るに足らない戯言程度でこの映画を静かにやり過ごそうとしているのが却って不気味だ。それほど、再選にブッシュが自信を持っているということなのだろうか。もしそうだとしたら、アメリカという国は西部の開拓時代となんら根底は変わっていないことになる。ならず者の悪党をバッジを付けた保安官が勝手にリンチと決め、公然と縛り首にしていた時代とどこが違うというのだろう。テロ撲滅を合言葉にますます過激になってきているアメリカのごく一部のガンマンたちは、とても危険な存在だ。彼らは結局のところ、誰もいなくなるまで銃を撃ち続けるしか道はなくなることを知ることになるのだ。でも、気が付いた時には、あまりにも遅すぎる結論にどうしようもなく、また撃ち続けることしかできないのだ。60年代後半に話題作となったサム・ペキンパー監督の『ワイルド・バンチ』に出てくる5人のアウトローたちの姿がどうも今のアメリカと似ているように思えてならない。死闘を展開する5人の結末は、不条理で無残な犬死である。そんなことになる前に、なんとかブッシュを引っ込めるしかないのだが……。(

 

 


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