■よりみち~編集後記

 


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更新日2008/09/25


最近、映画がSFXに侵されてしまっていると感じている映画ファンが多いのではないだろうか。特にハリウッド映画はほとんどCG映像のオンパレードで、映画そのものがCG映像なくしては成立しないほど、CG映画主体になってきている。確かに、夢のような技術であり、かつて映画化が不可能と思われていた大スペクタクル映像で表現できるようになり「ロード・オブ・ザ・リング」や「レイダーズ」、「ターミネーター」「スパイダーマン」などの名作がシリーズ化され、「スターウォーズ」を筆頭とするSF映画が定番化している。映像自体を遊園地のジェットコースターに乗って楽しむように、テンターテイメントとして楽しむことができるのは映画の魅力の一つであり、確かに観ていてスリルを楽しんだり、驚かされたりすることで感動を覚えることは否定しないし、その手の映画が嫌いなわけではないのだが、どの映画もすべてCG処理主体の映画ばかり見せられると、確実に飽きてくるのだ。たとえば、超一流のフレンチ料理のフルコースを食べると、そのおいしさと料理人の技術に感動するだろうが、毎食それが続いたらどうだろう。たぶん飽きてしまい、日本料理の繊細な懐石料理が食べたくなったり、思い切りシンプルにイカの塩辛とお茶漬けのディナーが恋しくなったりするものだ。映画のあるシーンが観終わっても頭の中で反芻されて、何度も出てきたり、映画の中で主人公がポツリと話す言葉の意味が無性に気になったり、クライマックスのシーンでもないさりがない情景のカットが頭の中に焼きついて離れなかったりして、もう一度観たいという気分にするものが、最近のCG映像主体の映画にはほとんどないのだ。ジェットコースターに乗って、スリルを楽しんたというような満足感はあるものの、終ったとたんにすべてきれいに消えてしまうのだ。先日も、ティムール・ベクマンベトフ監督作品『ウォンテッド(Wanted)』を観てきたのだが、超クールで野生的で美しいアンジェリーナ・ジョリーや、さえない普通のサラリーマンが非情な暗殺者ギルドの一員に成長していく姿を好演したジェームズ・マカヴォイ、ミステリアスな暗殺者ギルドのボス役を演じる渋いモーガン・フリーマンなど、ストーリーも奇抜でCG処理もみごとと言うしかない超娯楽作品に仕上がっているのだが、見終わっても何も心に残らないし、全部CG処理されていて、全部つくりものの絵空事という印象になってしまうのだ。優れた男優も女優も、CG映像の一部に組み込まれ、操られているような感じさえしてくる。
そんなCG映画に辟易していたときに、すごい映画に出会った。一切CG映像なし(と信じたい)、実話の映画化、それも俳優のあのショーン・ペンが脚本・監督したという映画『イントゥ・ザ・ワイルド(Into the Wild)』(2時間28分)である。ソローの『ウォールデン-森の生活』(1854年;Henry David Thoreau)などに傾倒した学生クリス・マッカンドレスが自分探しの孤独な旅に出て、アラスカの荒野で真の幸福を知るが4ヵ月後に餓死してしまうという、ちょっと哲学的でショッキングなテーマの映画なのだが、淡々と史実に忠実に描く監督・ショー・ペンの描写に才能を感じた。特にアラスカの大自然を見事なカメラアングルで引き出し、親と子の愛憎や葛藤、人の優しさなど、自然な演技が光る役者を配してリアリティーに徹しており、俳優が監督だけに人間がうまく描かれている。久々に映画らしい映画を観た気分だ。(

<以下は、作品紹介から抜粋>
1990年夏。ジョージア州アトランタのエモリー大学を優秀な成績で卒業したクリス・マッカンドレスは、ハーバードのロースクールへの進学も決まり、将来を有望視された22歳の若者だった。ところがある日、周囲の期待をよそに、クリスは惜しげもなく車を捨て、貯金のすべてを慈善団体へ寄付し、クレジット・カードとキャッシュを燃やして、あのあてのない旅に出る。最終目的は、アラスカ。
全米で大ベストセラーとなったジョン・クラカワーの原作「荒野へ」を映像作家ショーン・ペンが映画化。10年の歳月をかけて実現させた魂のプロジェクトに、パール・ジャムのエディ・ヴェダーが書き下ろしの音楽を提供し、心が震える、真実の物語が誕生した。アメリカが今より輝いていた時代、実在したひとりの青年の荒野に駆り立てたものは何だったのか?自由を求めて大自然に旅たった青年の心に、待ち続ける家族の思いは届くのか?旅の終りに彼が知った【真の幸福】とは?

 

 


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