■よりみち~編集後記

 


■更新予定日:毎週木曜日

 

 

 

 

 


更新日2007/10/25


先日、写真家の浅井槙平氏のインタビューをラジオ番組で聴いた。まず驚いたのが、今年70歳だということだった。確かにビートルズ初来日の際に同行取材したというビートルズ世代の代表格なのだから70歳でもアリなのだが、その風貌、考え方、そして生き方はとても70歳とは思えない。本人も全く70歳と思っていないようだ。50歳を過ぎたらあとは老けるかどうかは本人次第と話していたのが印象的だ。インタビューの中で、浅井氏が強調していたことが、世の中のバランス感覚が狂いだしているということだった。人間の探究心はすばらしいことだが、そろそろ追究することを止める時期にきているのではないか、もっと人間らしく地に足を付けた考え方を取り戻すために止めるという勇気を持つべきではないかということを話していた。「人間は何でも作れるということは分かったから、もういいよと言いたい」と、便利な生活を追究するあまり、反対に人として大切なバランス感覚を失ったのではないかと警鐘を鳴らす。その喩えとして、窓の開かない乗り物を上げている。窓が開く乗り物は危険だからスピードが上げられない。列車でも飛行機でも密閉式の窓にすることで、短時間で目的地に到着できる。しかし、本当は人は窓を開けて風を感じたいし、ガラス越しでなく生身で自然を感じたいものなのだ。短時間で到達できるという便利さを求めるのであれば、人としての欲求や感性を犠牲にしなければならない。すべて何かを得るためには何かを失っているわけだ。その便利さやスピードの行き着く先は、結局のところ拝金主義であり、すべての尺度が売れるか売れないかという基準で判断される世界であり、決して明るい未来や楽園がその先にないことも分かっているわけだから、そろそろ便利さだけを追究することを止めてもいいのではないかと言う。便利なものの代名詞として乗用車があるが、世界中の誰もが車を乗り回すことは環境的にも物理的にも不可能なことで、個人的に便利なものでも、マスになるとそれが凶器に変わるわけで、今求められているのが人としてのバランス感覚なのだと言う。浅井氏が言うように、最近のニュースになる話題は、ほとんどバランス感覚を失った経営者の詐欺まがいの不正行為や私利私欲しか考えない政治家や官僚の汚職ばかりで、日本という国はここまでひどいことになってしまったのかと暗澹たる気持ちになってしまう。いろんな業界で、叫ばれてきている「コンプライアンス」*1 という取り組みも、拝金主義や便利主義を見直し、世の中をクールダウンさせるための動きであり、一部の企業家や政治家の中にもその危機感が出始めている。さらにこの動きが個人レベルにまで浸透させて、賢い消費者としてバランス感覚を取り戻す必要があるのだろう。(

 

*1:コンプライアンス:一般的には、社会秩序を乱す行動や社会から非難される行動をしないこと。法令遵守など。

 

 


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