■よりみち~編集後記

 


■更新予定日:毎週木曜日

 

 

 

 

 


更新日2005/12/22


映画『SAYURI』(ロブ・マーシャル監督作品;スティーブン・スピルバーグ製作総指揮) の原題はアーサー・ゴールデン著の『Memories of a Geisha』だった。なんと「芸者の思い出」という映画なのである。映画には予備知識はある程度必要なのかもしれないが、事前にあまり調べすぎてもストーリーに入り込めなかったり、先読みしてしまってつまらなくなるので、あまり先入観を持たずに映画を観るようにしているのだが、いきなりタイトルが「SAYURI」ではなく、「Memories of a Geisha」という原題が流れ、思わずやられたと思った。原題のままであれば日本では興行的に成功はないはずだ。邦題を「SAYURI」としたのは当然だったかもしれない。タイトルでがっかりし、これはひょっとして欧米人がイメージするオリエンタル・ジャパニズム(どこか中国と日本が融合した感覚で日本人にしてみるとおもはゆい感じの日本びいき)を見せられるのかと思ったが、なんとも不思議な魅惑的な日本がそこに描かれていてなかなか面白かった。日本人も登場するが、メインキャストは中国人が扮する日本の芸者さんで、なぜか日常会話が流暢な英語で行われ、衣装デザインのコリーン・アトウッドという人の和服のアレンジもやはり日本人にはない感覚で、まさに日本を外国人の目で見る感じだ。よくある日本風のオーバーアクション(たとえば、やたらお辞儀ばかりしたり、ニヤニヤしたり、礼儀にうるさかったりなど)もそれほどなく、かなり日本を研究して、本物志向で創られたことが理解できる。これは渡辺謙のアドバイスによる影響も大きかったようだ。特に驚いたのが主演のチャン・ツィイーはもちろん、ミシェル・ヨーやコン・リーの芸者になりきった演技のすばらしさだ。今の若い女性にも真似のできない日本の芸者を見事に演じていた。なぜ、日本人を描くのに中国の女優を起用したのか疑問だったのだが、見事に和服を着こなした彼らの八頭身のプロポーションを観たとき、日本人以上のお色気を感じ、かえって欧米化してしまった日本女性の顔や姿よりも昔の日本人の美人を中国人の彼らの方が近いという判断からなのではないかと思った。日本人のキャストは渡辺謙以外はすべてオーディションでの選考だったそうで、日本では有名俳優の役所広司や桃井かおりなどがオーディションを受けて選ばれたというのもアメリカ的な話だ。渡辺謙や工藤夕貴の英語が問題ないのはすでに何作品か観て分かっていたが、役所広司や桃井かおりの英語もそれなりにうまくて驚いた。桃井かおりに至っては、これでハリウッド進出も夢ではない感じがする。ストーリー的には日本人にとって目新しいものではなく、「感動」ということよりも、いかに日本を的確に解釈して、それらしく描いているかの「興味」の方が勝ってしまう。この映画を日本映画としてリメイクできるかというとたぶん誰もできないし、やる価値がないように思える。ただ、欧米でイメージされている日本=フジヤマ・芸者、芸者=娼婦、というステロタイプのイメージがこの映画によって多少変わると思えるので、その意味では海外でヒットして欲しい映画である。(K

 

 

 

 

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■猫ギャラリー ITO JUNKO
11/19/2005更新