第1回: はじめまして。
更新日2002/04/26
スペイン。あまり具体的なイメージが湧かない国である。太陽がギラリと照りつける闘牛場をバックに、エキゾチックな顔立ちのおねえちゃんが、水玉模様のドレスのビラビラしたすそを蹴り上げながら情熱のフラメンコを踊る。ひょっとしたらそんな、観光パンフレットの表紙でも飾ってそうな光景しか思い浮かばなかったりするかもしれない。実際に、スペインに移住する前の私が、そうだった。
こんにちは、はじめまして、カナです。99年の秋に移住したので、スペイン生活は約3年弱。たまたま同居人がスペインの日系現地企業の求人を見つけて、ふと応募したのがきっかけ。彼はスペインの知識も語学力もこの国への思い入れもまったくなかったのに、なぜかマドリードで就労決定。唯一あったとすれば、縁、なのだろうか? そして私もなんとなく、それこそ縁もゆかりもない国への移住を、当然のように決めてみたりして。これまた『太陽と情熱の国』という、ザ・観光パンフレットのキャッチコピーしか知らなかったのに。つくづく、人生って不思議だ。
ということで、26歳にてサヨナラ・ニッポン。おとっつあんやおっかさんと水杯を交わし、再び見ることのないかもしれぬ故郷の山々をまぶたにしっかと焼きつけ、岸から離れゆくフェリーから小さな弟たちへ千切れんばかりに手を振って……。なんていう時代とは違い、ビザが整うのを待ち、トランクひとつで見送りもなしにポイッと出発。マドリードに冬が来るとも知らずアロハ柄のノースリーブ・ワンピースで寒風吹きすさぶ空港に降り立つ、というバカヤロウなスタートの割には、今日まで意外なほどに心地良い日々を過ごしている。
心地良い生活を支えてくれているもの、それは恵まれた環境。たとえばインターネットがあり、日本食料品店がある。同居人あらためダンナさんが、さほど可愛げもなくなったヨメのためにもと気張って働いてくれる。そして、たまに会ってバカ話をしたり、海外生活の知恵をシェアーしあったり、病気のときなどに当たり前の顔して手を差しのべてくれる友がいる。
この友だちが、最高に素晴らしい。だいたいスペインくんだりまでやってきて住みつくような女たちだ。上昇志向に溢れてアメリカやイギリスに行くでもなく、料理やファッションに興味があってフランスに留まるでもなく、ドイツでクラシック音楽の勉強をするわけでもなく。なんだかアフリカだかヨーロッパだかよくわからないところにあり、先進首脳国会議があっても呼ばれやしないスペインなんぞを選んだ女たちだ。本人たちがいくら否定しようと、やっぱり少し変わっている、と思う。
少し変わっているけど、ふつうの人間だ。言葉の壁や文化の違いに悩み、日本に思いを残し、泣いたり笑ったりしながら毎日を送っている。この連載ではそんな、生活の舞台を海外はスペインに選んだ、少し変わっていて、でもごくふつうの、だからこそクラッとくるほど魅力的な女たちを紹介しようと思う。私がふだん彼女たちからもらっているパワーを少しでも届けられたらいいな、と願いつつ。
第2回:
愛の人。(前編)