■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

金井 和宏
(かない・かずひろ)

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice

 


第1回:I'm a “Barman”~
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第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
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第101回:小田実さんを偲ぶ

■更新予定日:隔週木曜日

第102回:ラグビー・ワールド・カップ、ジャパンは勝てるのか

更新日2007/08/30


4年に一度のラグビー・ワールドカップが、いよいよ9月7日金曜日から約1ヵ月半、フランスで開催される。ラグビーフリークの私としては、この時期はなかなか他のことが手に着かず、実に落ち着きのない日々を過ごすことになるのだ。

優勝はどこなのだろうかと思い巡らすだけで、知らないうちに一人ニヤニヤしてしまう危ない状態が続く。そんな上位チームの優勝予想については次回に回すことにして、今回はタイトルの「ジャパンは勝てるのか」ということについて、考えていきたいと思う。少しでも関心のある方は、どうぞおつきあいください。

今回でラグビーW杯は、第6回目を数える。1987年に第1回大会をニュージーランドで開催してから、ちょうど20年の歳月が流れた。日本は第1回から5大会とも参加している(第1回は全参加国ともに招待参加、第2回目以降はアジア予選1位通過チームとして)が、戦績は16試合1勝15敗で全大会予選敗退である。

唯一の勝利は、第2回大会の対ジンバブエ戦だった。但し、ジンバブエはアパルトヘイト政策で国際大会に出場できなかった南アフリカが復帰する前のアフリカ代表で、南ア復帰の後はW杯に姿を現していない。

その勝利以降、16年間勝利のないジャパンが、悲願の1勝に挑むのだが、可能性はどうなのだろうか。今回、日本は参加20ヵ国を四つのプールに分けた中のプールB組に入り、対戦する相手とIRB(International Rugby Board;国際ラグビー評議会)が作成した世界ランキング、そして対戦日は以下の通りになっている(因みに日本のIRBランキングは所属95ヵ国のうち18位)。

対戦日順に、オーストラリア(2位)9/8、フィジー(12位)9/12、ウエールズ(8位)9/20、カナダ(13位)9/25。いろいろと予想は立てられているが、現実的に勝てる可能性があるのはカナダ戦の1試合だけだと、私は考えている(もちろん明るい誤算は大歓迎だが)。

ジョン・カーワン・ヘッドコーチが来る前だったら、おそらく全敗だろうという悲観的な予想に終わっただろうが、5回前のこのコラムに書いた「ジョン・カーワンにかけてみよう~ワールド・カップまであと3ヵ月」に書いたように、彼JKには大いに期待することができるのだ。

対戦相手別に見てみよう。まずはオーストラリア。過去5回のW杯で2回優勝し、今回も間違いなく優勝候補のチームである。日本戦も主力メンバーで臨むとのことだから、ここはキラ星のようなスター選手たちに思い切り胸を借りに行きたい。

W杯でなければ組んでもらえないカード、日本の選手たちにとっては、超一流のチームと身体をぶつけ合うことは大変貴重な体験になるだろう。それでも、その後の試合を考えて大敗だけは避けたい。第1回W杯で対戦したときのスコア23-42のような試合ができればベストだと思う。

フィジーは、彼らの身体特徴である長い手と足を使って、ボールを持たせたら縦横無尽に走り回り、華麗なパス攻撃で繋ぎまくる、とても魅力的なチーム。日本も12、13年前のフィジーの低迷期には2勝を挙げるなど、絶対に勝てないというチームではないが、最近は前回のW杯も含めて5連敗と水を空けられている。

ゴリゴリとしたフォワード・プレーが苦手なチームなので、できるだけバックスに走られずに、日本が粘り強くフォワード戦を仕掛け、接点でボールを奪う。そして、それを前後半を通じて連続することができれば、勝利の光はわずかながらも見えてくることだろう。

ウエールズ。日本のラグビーの理想を言えば、このチームあたりと勝ったり負けたりすることができる力をつけたい。過去2回のW杯での大敗を含め、今まで10戦10敗。最も肉薄したのが24年前の10月、松尾雄治主将率いるジャパンが、敵地カーディフで繰り広げた24-29のゲーム。現在もラグビーファンの間で語り継がれている。

逆に最も屈辱的なのが3年前の11月、同じくカーディフでの0-98の完封負けゲーム。当時、2011年W杯日本招致キャンペーンの一環として遠征したのだが、完全に逆効果となった。今回は、相手を50点以内、得失点差を20点以内に抑えるゲームができれば、及第点と言えるだろう。

最後にカナダ。今回、日本が最も勝てる可能性が強いチーム。実はこの国との対戦はかなり前から始まっている。第1回の対戦は1932年(昭和7年)1月にまで遡る。何と75年も前の話。この時は日本が9-8で辛勝し、以来17戦、日本の9勝8敗。まさに、勝ったり負けたりを繰り返している。

力は、まったくの互角。その日のコンディションによって勝敗が決まると言っても過言ではない。日本にとってはW杯予選の最終戦であり、よい形で試合を迎え、思い切り暴れ回ってほしい。JKジャパンならば、この試合には勝てると思っている。

大畑大介選手が、今度は左のアキレス腱を断裂、W杯出場は絶望というニュースがつい先日入ってきた。世界に通用するウイングの選手だけに、日本にとって痛手は大きく、彼の最後の国際試合を観られないことはとても残念だ。

さらに、相変わらず機能できないでいるスクラムハーフとスタンドオフの連携など、W杯前に問題点は山積しているが、勝負はまもなく始まろうとしている。

いつも大きな国際試合になると思い出すことがある。あの知将であり闘将であった故大西鐵之祐・元日本代表監督が、試合前にコップに水を差して選手一人ひとりに飲ませ水杯とし、最後にはコップを地面にたたきつけて割った後、「日本ラグビーの創造者たれ!」と檄を飛ばし、グラウンドに送り出したという話である。

JKには、間違いなくその大西さんと同じオーラを感じる。

 

 

第103回:ラグビー・ワールド・カップ、優勝の行方