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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第407回:国有地って誰の土地?

更新日2015/04/02



私たちが今住んでいる場所は、谷間の町の西に広がる国立公園の岩山を登りきった高原台地にあることは以前何度か触れました。家の土地は南東に広がる山々にふさがれていますが、そこは広大な国有林ですから、開発が進み、山の分譲団地などができる可能性はありません。

その国有林に冬の間燃やし放しにしている薪ストーブの薪を切り出しに行きます。 狩猟シーズンになると、ハンターたちが大挙して押しかけるのも、この膨大な国有林です。春から秋までは、何千頭の牛が放たれる放牧地帯にもなります。冬になると、格好の山スキー、歩くスキーなどの遊び場になり、私たちは毎週そこで雪と戯れます。 開発を厳しく制限した自然の山、森を国が所有し管理していることは良いことだ…と思い込んでいました。

昨年のサンクス・ギビングの休暇の時、ユタ州、ネヴァダ州を横切り、カルフォルニア州の太平洋岸までドライブしました。その時、ウチの裏山とはまったく異なる広大な瓦礫の平原、砂漠地帯が国有地であり、またその中に、一般の人は立ち入り禁止になっている軍が所有したり、秘密めかした基地にしているところ、原子力発電所から出る核の灰の最終処分場、核兵器の隠し場所?などが多いのに驚きました。国有地と言っても、皆で利用できる土地という感覚ではないのです。

アメリカの国有地は、国立公園、国有林、魚類および野生動物保護地区、国土管理局などの省庁に分けて管理されています。その中に特別自然(野生)保護地区というのを設け、そこには道路もなく、自転車での乗り入れさえ禁止しています。

アメリカの西部には特に国有地が多く、州ごとで見るとネヴァダ州では全面積の81%は国有地です。それに続くのがユタ州で67%、アラスカ州とアイダホ州は62%、オレゴン州で52%が国有地です。国有地を赤い色で塗りつぶしていくと、中部と東部には赤い土地はフロリダのエバーグレイドの湿地帯とアパラチア山脈くらいでほとんどないのに対し、ワイオミング、コロラド、ニューメキシコ州から西は真っ赤なのです。恐らくアメリカの国有地は、日本全土の何倍にもなることでしょう。

国有地、国有林が開発を許さない国の土地だというのも幻想で、多くの鉱山は国から認可を受けた業者が盛大に山を崩し、穴を堀り、鉱物を採った跡に醜いボタ山、ボタ谷を残しています。一時ブームになったウラニュウムの鉱山は、まだ放射物質を含むカスの土が大量に出るので、今になって、それを埋めるためにまたとてつもなく大きな穴を掘っている有様です。

牛の放牧に利用されている国有の森は、放牧権なるものが既得権としてあり、代々放牧権を持っている大牧場主しか利用できません。私たちが4、5頭の牛をそこに放すわけにはいかないのです。そして、野生動物の生態系調査の結果、大量に放つ牛は、その土地の野生の動物を絶滅に追いやっていることが明らかになってきました。 放牧牛が生態系を壊しているというのです。

そこで西部の州が結集し、国が持っている広大な土地の管理を州レベルにしようと、州の代表がソルトレイクシティーで会議を開きました。国としても、広大すぎるのでとても管理しきれず、荒れ放題になっている国有地が多すぎる、とても手が回らない、それなら州が管理してあげましょうと言うのですが、これがスムーズにはいきません。

核の処理場や軍施設など、国有地内ならやりたい放題、国家軍事機密を盾にとり、その州の許可がなくても何でもできたのですから、将来必要になるかもしれない広大な土地の管理を国がそうやすやすと手放すわけはありません。

今のところ、生態系に大きな影響を与えている牛の放牧を、その土地ごとに制限していくことに合意した程度です。

私が毎日通り抜けている国立公園、そして週末に格好の遊び場を提供してくれる国有林とはまったく違う側面を持つ広大な国有地があることを知り、軽いショックを受けました。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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