■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3


■更新予定日:毎週木曜日

第55回:国家の品格 その4

更新日2008/04/10


国際的に権威のある音楽コンクールの入賞者に日本人の名前がないことは珍しいくらいの状況です。

ピアノのショパンコンクールからは中村紘子、内田光子、海老彰子、小山雅恵(呼び捨てにしてごめんなさい、皆とても尊敬しているピアニストです)など、世界的に活躍している大ピアニストが出ましたし、ピアノだけでなく器楽、声楽も含めた総合的なチャイコフスキーコンクールでは、1966年にヴァイオリン部門で潮田益子依頼、佐藤陽子、藤川真弓らが入賞しており、1990年に諏訪内昌子が1位なりましたし、チェロでも安田謙一郎や岩崎洸が入賞し、その後華やかに活躍しています。

ロンティボーコンクールではもっと目覚しく、今まで1位になった日本人が5名おり、入賞者が何人いるか数えるのが大変なほどです。

クラッシク音楽のコンクールは、まさに日本人の参加なしには考えられませんし、必ずと言ってよいほど入賞しています。

ギターのコンクールになると日本人オンパレードになってしまっているようです。タレガ国際ギターコンクール、マドリッド王立音楽院ギターコンクール、バルセローナ国際ギターコンクールなど軒並み日本人が入賞していおり、地元のスペイン人は冗談めかして、「日本人の侵略が始まった」と言っているほどです。

今、世界のオーケストラで日本人の演奏家がいないところを探すのは難しいくらいです。実家があるカンサスシティーに帰省するとき、できるだけチャンスを逃さずコンサートに行きますが、カンサスシティー・フィルハーモニィーのコンサートマスターは日本人の女性ヴァイオリニスト伊藤カナコさんです。

クラッシク音楽だけではありません、フラメンコには日本人のギタリストやダンサーが沢山活躍しいるのは周知のことですし、サルサバンドのラ・ルース(ヒカリ)は現地の人々から高い評価を受けています。タンゴでも草分の藤沢らん子以後バンドネオン奏者や歌手がアルゼンチンで演奏活動していますし、ジャズにいたってはアメリカを演奏活動の場所としてプロと認められている演奏家、歌手だけでこのページが埋まってしまうほどたくさんいます。

学問の分野でも、アメリカの大きな大学で日本人教授のいない大学を探すのはとても難しいでしょう。私が言語学にはまり込んだのも、とても尊敬する日本人の文化人類言語学教授(インディアンの言葉と文化)に出会い、彼の下で勉強したからです。

絵画のことはよく分かりませんが、ヨーロッパ、取り分けフランス、イタリア スペインには第二の藤田を目指す日本人の画学生がとても多く、現地で認められ活躍しているプロの絵描きがたくさんいます。どこの国でも大きな美術館の入場者数はその国以外の人では日本人がトップです。主婦や定年退職した男性のアマチュア画家が多いのも驚きです。日本人はまさに"絵好みアニマル"なのです。

一つの民族が持つエネルギーには、色付けと言ったらいいのでしょうか、かなり明確な特色があるようです。日本人には外に向かう文化的、学問的なエネルギーが高いように思います。それでいながら、日本人であることを忘れることがありません。 

たくさんの中国人が、アメリカで学びアメリカで生活しています。そんな中国人のすべてと言ってよいでしょう、アメリカに来るとすぐに名前をアメリカ風に変えてしまうのです。自分の本当の名前がアメリカ人に覚え難い、言い難いという理由もあるでしょうけど、ジョン、ブレンダ、ミッチェル、マークなど、ごくありふれたアメリカ人の名前を自分で付け、アメリカに同化しようとするのです。いつか中国に帰ってアメリカで身につけたものを自国で生かそうと言う人はごくまれで、アメリカの市民権を取ってアメリカに永住するのを目的としているように見受けられます。それが中国人独特の強さになっています。

一方日本人は、外国に何年住んでいても、自分の活躍の場が外国にしかないと本人も分かっていても、日本人であることをやめない傾向があるようです。そのようにある程度の期間を外国で過ごした日本人は、きっと日本を外から眺め、客観的に日本人の意識を捕らえることができるのでしょうか、『国家の品格』を書いた藤原正彦さんもアメリカに住んでおられたし、『日本の心』の岡潔はフランスに長かったようです。そういえば二人とも数学者でしたね。禅ブームに火をつけた鈴木大拙もイギリスに住んでいました。福沢諭吉、夏目漱石、森鴎外も短い期間ですが西欧に滞在し触発された組でしょう。

優れた世界人として活躍している音楽家、画家、学者、文化人をこんなにたくさん出している国はやはり特別な存在で、"特別に品格"があると言ってよいのではないでしょうか。

いつも書き終えた原稿を読み、私の日本語を本当らしい日本語に添削してくれるダンナさんが、「こりゃちょっと褒めすぎじゃないか? 屑(くず)の日本人もたくさん外国に出ているさ。それに日本は外から見ると案外良く見えるけど、実際に日本に暮らしている人にとって、自国の品格より物価や生活のレベルの方が文化より大事なんじゃないのかな」と暗いことを言っています。

本人はとても文化人とは呼ばれる存在ではないし、ヒッピー崩れの仙人と言った方が当たっている人で、30年以上日本に住んだことがないのに日本の国籍を持ったままなのですが…。

 

 

第56回:人はいかに死ぬのか