■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)




中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。



第1回:男日照り、女日照り
第2回:アメリカデブ事情
第3回:日系人の新年会
第4回:若い女性と成熟した女性
第5回:人気の日本アニメ


■更新予定日:毎週木曜日

第6回:ビル・ゲイツと私の健康保険

更新日2007/04/12


アメリカには日本やヨーロッパ諸国のように国がスポンサーになり、誰でも入れる健康保険がありません。すべて民間の保険会社が営利目的で運営している健康保険です。日本でも保険料が高いという愚痴を耳にしましたが、それはきっとアメリカの保険料を知らない人か、収入がとても多い人でしょう。

一般のアメリカ人から見ると、収入が多いから保険料を多く払う日本の国民保険のようなシステムは、不公平に見えるかもしれません。というのは、払った保険料に関係なく受ける医療サービスが同じだからです。アメリカ流に言えば"たくさん保険料を払っているのだから、それなりの差をつけた医療サービスを受けなければ割に合わない、貧乏人と一緒にされては困る"ということになります。

アメリカの健康保険は大手の保険会社が取り仕切っており、それぞれバラエティーに富んだ保険プランを売り出しています。その中から自分の収入、年齢、健康状態に合ったものを選んで保険料を払い、加入することになります。大企業や公官庁で働く人も同じで、それぞれの企業が大口として従業員をまとめて一つの保険プランに加入し、企業サイドが何割か負担してくれたりしますが、基本的に大企業の社長さんも工員も、その保険プランに関する限り同じ保険料を払い、同じ医療サービスを受けることになります。

ですから、もしビル・ゲイツも薄給の私も同じ健康保険プランに加入するなら、全く同じ保険料を払うことになります。もちろん天文学的なお給料を貰っているエライさんは、会社の健康保険プランの他にも、当然別口で"お金持ち用健康保険"に加入していることでしょうけど。逆に貧しくて健康保険に加入できない人、全く健康保険でカバーされていない人がアメリカ全人口の3分の1近くもいるのです。

健康保険を持っていない人はどうなるかと言うと、クレジットカードを受付に預け、契約書にサインしない限り、まずどんな病院でも診てくれません。健康保険に加入できない人は、まずクレジットカードなど持ってません。したがって健康保険もクレジットカードも持っていない貧しい人は、どこの病院でも受け付けてもらえず、病院の玄関先で立派に死ぬことになります。実際そんな事件が起こっています。貧しい人のためには慈善病院があります。これがまた想像を絶するところなのです。

私が学生時代の頃、友達と連れ添ってニューオリンズに旅行したことがあります。そこで有名なオイスター・バーで生牡蠣を食べ、全員すごい食アタリになりました。あそこの生牡蠣の80~90%は腐っていると後で聞かされましたが、その時は悲惨でした。健康保険に加入していなかったので、慈善病院へと倒れ込みましたが、そこは戦争地帯の軍の病院のように殺伐とした汚れたところで、エレベーターの中で強姦事件が頻繁に起こるというのです。実際、何日か前に看護婦さんのインターンがそんな目に会ったと言うことでした。

貧しい人はそんな医療施設でのサービスしか受けることができません。そんな病院でも近くにあれば助かることもあるでしょうが、慈善病院は大きな町にしかありません。

アメリカは色々な医術の分野で世界のトップだとは思いますが、その最高水準の医学の恩恵を受けることができる人は、上層部の、早く言えば、お金持ちの人だけなのです。

アメリカの保険システムの自由のなさにも触れなければいけません。これほど自由という言葉が好きな同国人ですが、医療保険は不自由なものです。私が病気になったとします。どこでもすぐ近くの病院や医院へ駆け込むわけにはいかないのです。まず保険会社が指定した主治医のところに行かなければなりません。保険に加入するとき、保険会社と契約しているお医者さんのリストを渡され、その中から主治医を選び、その主治医の判断で入院するなり、専門医の方に回されることになりします。

日本のようにアッチのお医者さん評判がいいから、親切だから、ハンサムだから、と自分で選ぶ自由がないのです。したがって、異なったお医者さんから第二、第三の意見を聞くことがとても難しいのです。治療法もこのクラスの保険に加入している患者さんはこの程度までの治療と、保険会社が指定してくるので、知り合いのお医者さんは、「アメリカで実際に医療システムを牛耳っているのは保険会社だ。我々医師たちは保険会社に使われているようなものだ」と嘆いています。

誰でも満足するような福祉や医療システムがこの世の中にありえないのは分かっていますが、アメリカの医療はお金持ちのためのもので、とても不平等(平等もアメリカ人の好きな言葉ですが)で不自由なシステムなのです。それをアメリカでは誰も不思議に思わずに、アメリカは自由の国だと信じているところが恐ろしいです。

2年前に日本の大学で教えていた時には、国民保険に入りました。私のお給料に対する保険料はアメリカで払っていた保険料の3分の1以下でしたし、どこの病院にでも行く自由があるということが信じられませんでした。もっとも働き盛りのサラリーマンはもっともっと高い保険料を払い、病院に行く暇さえなさそうですが。

 

 

第7回:再びアメリカデブ談議


 
 TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【イビサ物語
亜米利加よもやま通信 】 【ひとつひとつの確かさ 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
  [拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]
[フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

   
このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。

Copyrights 2018 Norari