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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第358回:親切なのか、それとも騒音なのか?

更新日2014/04/17



クロアチア領土の"ハヴァール"という島にいます。アドリア海に浮かぶヴァカンスの島ですが、夏のハイシーズンになる前のアパートをとても安く借りることができたので、暫くはこの島で過ごすことにしました。

ここは、それはそれは静かな島です。聞こえてくるのは、岩の海岸に打ち寄せる波の音と小鳥の鳴き声だけです。夜、最大の騒音は、冷蔵庫が始動する時のブルルンと震える響きです。

静かもなにも、この島に渡るのさえ全く音なしの構えでした。ハヴァール島に渡るフェリーの桟橋に何の掲示板もなく、もちろんアナウンスもありません。一体どうやってアドリア海に沢山ある島の中から目的の島に行くフェリーを見つけるのかが問題でした。切符売り場のお姉さんは、第4桟橋に行けば分かると教えてくれましたが、その第4桟橋なるものが一体どこにあるのか、沢山停泊しているフェリーの乗組員に訊いても、誰も知らないのです。

目的の島の名前、ハヴァール、ハヴァールを連発し、やっと最後尾に泊まっているカタマランらしいと見当をつけましたが、ハヴァールという細長い島の両端と中央に三つの港があり、私たちが行きたい港は"ジェルサ"という南の方の港です。また、ジェルサ、ジェルサと連発し、まず、その船の渡り板に足を踏み込でいる乗客に訊き、それから、粋にタバコをくわえた乗組員風の叔父さんに訊き、船に乗り込みました。

もちろん、船に"行き先"などどこにも掲示されていませんし、船内でもアナウンスなど全くありません。船が少し揺れたかなと思ったら、もう静かに岸壁を離れていました。少なくとも、"この船はどこそこ行きです。途中どこそこに止まります。ご乗船有難うございます"くらい船内で放送してもバチは当たらないと思うのですが…。

降りる時も問題?でした。そのフェリーが途中2箇所、難しい名前の港に立ち寄ったのです。そのたびに、私たちはここがジェルサであるかどうかを何人かに尋ね…、と言ってもジェルサ、ジェルサと叫んだだけでしたが、日に1本しかないフェリーで違う島に降ろされる危機からのがれたのです。

もちろん、船内に何のアナウンスもありませんでした。すべてが全く静かなものでした。私たち以外の乗客は皆、この船がどこ行きで、どことどこに止まるかチャンと知っていることを前提にフェリーは運航されているのでしょう。別にそれで全く問題はないのですが…。

それに比べると、日本の列車はなんと親切なことでしょう。ほとんど親切すぎて余計なお世話と言いたくなるほど騒々しいです。まず、駅に着いてホームに昇る、または降りるエスカレーターでは、必ず"黄色い線を踏まないように、手すりにおつかまりください。小さなお子さんをお連れの方は、必ず手を引いてください"と繰り返し、ホームに出たら、また"黄色い線の内側へ下がってお待ち下さい"と繰り返してアナウンスされます。

どこそこ行きの電車です…というのは確かに役に立つ、親切なアナウンスですが、列車の中でも、この電車はどこそこ行きの快速、各駅停車で、どこそこには止まりませんと至れり尽くせりの放送があり、あまりに繰り返されるので、なんだか私たちが小学校の修学旅行に連れ出されたような気分になります。九州の幹線鉄道では、韓国語、中国語、英語、日本語の車内放送まであります。

列車が着くとその駅でも、"エー、吹田、吹田です。忘れ物ございませんようお降りください"という独特のイントネーションのアナウンスで迎えてくれます。駅のアナウンスには駅ごとに独自の響きがあり、少し懐かしい思い出にはなりますが…。

それに、日本の街頭の騒々しさは、世界で一、二を争うことでしょう。駅の商店街、デパートの地下、地下街は物売りと音楽とミックスされた騒音に満ちています。まるで元気の良い魚屋さんが20-30軒集まった市場に迷い込んだ感じがします。

生きの良さが売りものの魚屋さんなら納得するのですが、それが電気屋さん、おかず屋さん、ケーキ屋さんでも、静かにお客さんを持つのが法律で禁止されているかのように、叫びまくっています。大声でお客さんを呼び込むことに、それほど効果があるとはとても思えないのですが…。

さすがにエスカレーターの前で、万年チーズの微笑みを浮かべ、お辞儀をしていたエスカレーターガールというのかしら、はいなくなったようです。過剰とも思える親切、サービスはチョットうっとうしいですが、私のような外国人には非常に助かります。でも毎日、通勤、通学している人には煩わしいのではないかな…と、余計なことを心配してしまいます。

それにしても、対人関係で何時もお互いに思いやりを見せ、優しく静かに人と接している日本人が、集団、マスを相手にする時は、一転して騒々しくなるのは驚きです。

 

 

第359回:ゴミを出さない、造らないライフスタイル

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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