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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第902回:米語オンリー?

更新日2025/06/05


トランプ大統領、盛んに大統領政令を出しています。その中で面白いと言って良いのかしら、奇妙なのはアメリカを米語オンリーの国にする、言い換えれば多彩なエスニックの言葉を認めないと言い出し、その上、“メキシコ湾”を“アメリカ湾”と呼ぶ、エスキモー土着の名称、アメリカの最高峰を“デナリ”に変え、ようよう馴染んできた今になって、また元の“マッキレー”に戻すとか、トランプさん、やることがどこか子供じみているように思えます。
 
今ではエベレストをチョモランマと呼ぶのが一般的になってきている時代に、奇妙に矮小化されたナショナリズムを振り回し始めたのです。

早く言えば、アメリカで次第に増え続けているヒスパニック系、そして彼らが使うスペイン語を抑えようとしているのでしょう、でも歴史的に現在のアメリカ合衆国の半分以上は元スペイン、メキシコ領でしたから、西半分の地名はスペイン語が圧倒的に多く、それをすべて英語に(米語ですが…)に変えるのは不可能なことです。
 
ロッキーの東麓にある大学町ボルダーに住んでいた時、交通量の多いメインストリートの一つが“テーブル・メサ(Table Mesa)”で、初めてスペイン語圏のプエルトリコからボルダーに着いた時、アレ?“テーブル・テーブル”とは変な名前だなと思ったことです。Mesaとはスペイン語でテーブルの意味なのです。

私が元働いていた大学の学生新聞でも、トランプの米語だけを公式言語にする、外国語の地名などはすべて米語に移し替える法令を揶揄し、この大学の名称は“コロラド・メサ大学”と言うのですが、それも“コロラド・テーブル大学”に変えなきゃいけないのか?とか、この町の東側を遮るように聳えている連山、森があり、湖があり、スキー場がある天辺が平らな山が広がっていますが、そこを“グランド・メサ”ともう200年以上呼び習わしていたのを、“ビッグ・テーブル”と呼ばなければいけないことになるのか、誰かにどこの大学に行っているの?と訊かれたら、“ビッグ・テーブル”の向こうの“コロラド・テーブル大学”と答えるしかない…と、面白おかしく記事にしていました。

コロラド州の南東に鋭く尖った連峰、“サングレ・デ・クリスト連山”があります。これなども“キリストの血連峰”と呼ばなくてはいけなくなるのでしょうか。

何百万とアメリカ国内にあるスペイン語の地名をすべて米語に変えることなど実質上不可能なことです。多くのアメリカ人もトランプさんが独りよがりで騒いでるわい、と本気になって地名を変えようとしていません。言うなれば、大人の態度で聞き流しているのです。

しかしトランプさん、“Voice of America”を鶴の一声で閉鎖してしまいました。こうなると、大人の態度などと言っていられません。報道、マスコミは戦々恐々のようで、トランプべったりのFoxテレビだけは万々歳ですが、他は自主規制と言うのかしら、ハッキリとした物言いが売りだったニュース・キャスターがいつの間にか姿を消し、未だに活躍している報道陣らの口調も奥歯にモノが挟まったような物言い、解説になってきました。

その上、ニュース種も故意に政治的、反政府的な報道を避け、どうでも良いようなゴシップ、ラップの歌手、プロモータのセクハラ、モータウン音楽の伝説人物のセクハラ、イギリス王室のスキャンダルなどを繰り返し、長時間流し、ほかにもっと大切なニュースがあるはずなのに、さっぱり報道してくれません。

どういう電波の悪戯(いたずら)からか、ここでメキシコのテレビが受信できます。今ではメキシコの報道の方を頼りにしています。ダンナさんも私も、ニュースのスペイン語が理解できるので、大助かりです。
 
それとラジオですが、夜中にイギリスのBBCを聞く習慣がついてしまいました。BBCがある限り、イギリスの報道の自由は守られているかな…と、高い信用度、点数を付けています。

翻って、今のトランプ政権のように、アメリカを米語だけにしようとする動きは、一種の報道管制、強いては言論の自由を犯す第一歩のように思えます。政権に追従するような自主規制はとても危険なことなのです。

忖度と言えば相手を思いやって、こちらが動くという、陰に篭った行動パターンで、早く言えばお上の顔色を伺いながら物事を進める、自分自信のない動きです。そこには、個人個人が考え、主張し、行動する理念がありません。
 
政府に遠慮している報道を続けているマスコミは自らの首を絞めていると言えます。
そして、スペイン語を追放しているのは、すでに始めているメキシコ人、中南米人の追放に繋がっているのです。
どうにもやり切れないことですが…。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えていました。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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