第827回:よそのことを知らないアメリカ人
どこの国の人でも自分の国のことを中心に考えます。それは当然のことで、自分が生活しているところですから、よく知っており、関心の中心が自分の国に偏るのは自然なかもしれません。それが国際感覚をなくするボケにつながるのはもっともことなんでしょうね。
大国になればなるほどその傾向が強くなるような気がします。第一、私も小中高学校で世界史、中国史、インド史、ローマ史なんて習ったことがありません。歴史はアメリカの独立戦争、そして南北戦争、西部開拓の先駆者ルイスとクラークのことだけです。それに加えて、外国文学なんてその存在すら知らなくても当たり前です。英語、米語以外で詩や文学が書かれているなんて想像外のことなのです。
ペルシャやアラブ、ついでに日本に偉大な詩人がたくさんいて、それもアメリカという国ができる遥か昔に文学が栄えたなんて想像外のことなのです。ですから、アメリカ以外のよその国の情勢には、自分の利益が絡まない限り関心がなく、全く無知で通してきたのです。
シアトルのあるアメリカ北西部のワシントン州選出の上院議会議員、ジェフ・ウイルソンが香港で逮捕されました。香港の法律で禁止されているピストルを持ち込もうした容疑です。本人はついうっかりしていた、と素直に弁明していますが、ジェフ・ウイルソン議員、アメリカ国内のどこへ行くにも議員の立場を利用してピストルを持ち歩いていたようなのです。一歩アメリカを離れ外国に行くと、銃規制が厳しいことを失念していたのです。
アメリカでは実質的に銃は野放しです。州によっては、ある程度の規制を設けていることもありますが、隣の州に行けばスーパーや通販で買うことができるのですから、あまり意味がありません。香港の政庁が香港の法律に則って、国際感覚のボケたジェフ・ウイルソン議員を厳しく罰してくれることを期待しています。
と書いていたら、またまた集団殺戮事件が起こってしまいました。カナダと国境を接している北東部のメイン州で、予備役の軍人が18人射殺し、13人に重軽傷を負わせたのです。きっと日本のニュースでも取り上げられたことでしょう。その町ルイストンは、内陸にある人口3万7,000人ほどの静かな田舎町で、町の人は銃による殺戮などは、フロリダ、テキサスなど南部の他の州の出来事で、北ハズレにあるこの町とは関係ない出来事だと信じ切っていたようです。スワッとばかり詰めかけた報道陣に対して、町の人は今まで家のドアに鍵をかけたことがない、と答える町民が圧倒的でした。でも、これからは施錠すると言っていますが…。
犯人はロバート・カードという40歳の男で、軍隊の射撃のインストラクターを務めたこともある、いわば銃火器の扱いに長けたプロで、殺傷力が大きく、連発が効く、短機関銃と予備の弾倉そしてピストルを身に付けていました。監視カメラに映った映像では、彼、まるでハリウッドのアクション映画よろしく短機関銃の構え方など決まっているのです。もっとも、彼、ロバートがハリウッドのアクション映画にあてられのではなく、ハリウッドの方が彼のようなプロの動きを学んだのでしょうけど…。
今回のような大量殺戮には至らなかった銃撃殺傷事件は、今年に入ってからすでに540件も起こっています(大量殺戮、mass murderという表現は一度に4人以上の即死者が出た場合にのみ使われます)。それに対し、銃規制反対派、鉄砲、ピストル万歳の右寄り議員は、例により「銃に罪はない、それを使う人間の方に問題がある」式の詭弁を弄しています。
多くの州では、銃を購入する際、一応の建前として前歴、犯罪歴、その時点で逮捕状が出ているかなどの調査をし、精神鑑定を義務付けています。
私たちが住んでいる台地へ、狩猟シーズン解禁に伴い、ワンサとハンターたちが押し寄せてきます。近所の住人で、家に猟銃、ライフルを置いていない家は私たちだけではないかしら。隣近所の知り合い3、4軒のハンターから判断するのは少し話を広げすぎるかもしれませんが、彼らは鍵の掛かる大型の金庫のようなガンケースに猟銃と弾薬を仕舞い込み、相当気を使って、鉄砲を保管しています。もちろん、M-16 やAR-15のような元々市街戦用の短機関銃などは持っていません。ありゃ、シティー・スリッカー(町の住人を皮肉を込めて呼ぶ蔑称)が弄ぶ、危険なオモチャだと切り捨てています。狩猟のための銃と戦争用の短機関銃とは全く別物だと言うのです。
今回のメイン州の大量殺戮でも、ロバート・カードがストレス過多で、精神医を訪問している事実はあります。でも、だからと言って、彼から銃火器を取り上げる法的処置など何もなく、できないのです。これをもって、事前に精神鑑定を徹底させればこんな悲劇は起こらなかったとは言えない筋のものです。チマタにこんな市街戦用の機関銃があるかぎり、今回のような集団殺戮は続くのでしょう。
全米ライフル協会(NRA;National Rifle Association:アメリカで一番大きな圧力団体で銃規制に反対している)が大量の政治献金をばら撒き、その恩恵に預かっている議員が多数を占めている限り、銃による大量殺戮はなくならないでしょう。
チョット視野を広げ、お隣のカナダ、ヨーロッパの国々、そして日本を観れば、銃を規制することでどれだけ殺人、自殺がなくなるか、激減できるのか、明らかなのですが、そんなことは知ろうともしないのです。これだけ世界の情報が溢れている時代なのに、隣の国々のことを知ろうとも、学ぼうともしないのは犯罪に近い行為だと思うのです。
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