■拳銃稼業~西海岸修行編

中井クニヒコ
(なかい・くにひこ)


1966年大阪府生まれ。高校卒業後、陸上自衛隊中部方面隊第三師団入隊、レインジャー隊員陸士長で'90年除隊、その後米国に渡る。在米12年、射撃・銃器インストラクター。米国法人(株)デザート・シューティング・ツアー代表取締役。


第1回:日本脱出……南無八幡大菩薩
第2回:夢を紡ぎ出すマシーン
第3回:ストリート・ファイトの一夜
第4回: さらば、ロサンジェルス! その1

第5回: さらば、ロサンジェルス! その2

更新日2002/04/11 


サンタモニカの海岸でバイクを止めて昼寝をしていた。ビーチサイドでの海の風は、非常に心地よい。不思議とアメリカ西海岸の海は、磯の香りがしない。海岸付近は、サーフィンや自転車、そして当時出たばかりのローラーブレードを楽しむ若者たちが多く、海岸沿いは小洒落た店もたくさんある。桟橋で釣り糸を垂れているオヤジを見れば、情景は日本とそう変わらない。若い金髪の女性を見ると、日本のおっさんはやたら興味をそそられるようだが、意外とビーチでは、そんな絵に描いたような女性には出会わなかった。

どこでもやたらとアジア系、メキシコ系の人々が多い。都心部には、特に多いような気がした。だから、観光で来た日本人に道を聞かれるのも、不思議ではないのだろう。時間への概念が違うのか、街中で腕時計をしている人が非常に少ないので、時間を聞かれることも多かった。

有名人が多く住むという、高級住宅街で有名なビバリーヒルズまでは、サンタモニカからバイクで15分と比較的近いのだが、知り合いならともかく、赤の他人の豪邸を見るのは、あまり好きではなかった。成功者の夢を見るのは、いいことだか、「どうせ、ろくでもないことで、金を作ったんだろう」などと、つい冷めた目で見てしまうのだ。成功者のためにある地域。これは、アメリカでのステータス・シンボルではあるだろうが、今の私のように貧乏旅行で、金がなくても楽しい時期もあるのだから、金がすべてではない。幸福というか、人の価値観というものは、一概には分からないのだ。

日本から来た観光客を映画村に連れて行って、映画同様の夢を見せるかのようなユニバーサル・スタジオには、もちろん行かなかった。仮に行ってみたところで、自分自身が寒くなることは、百も承知だった。もっぱら、ダウン・タウンや郊外のスーパーマーケットなどの「現実」的な生活圏へ出かける方が数倍楽しかった。

アメリカでの昼飯は、ファーストフードのバーガーアンドコーラと相場が決まっていて、自分もそれに従うことにしていた。特に日本食に飢えることはないが、アメリカン・レストランでうまい物にありつきたいという思いは、上陸2週間の間に失せてしまった。たまにレストランで飯を食べるのは、イタリアンかメキシカン、中華、ベトナムに限定した。米国製食堂より、はるかにうまい。

自分の場合、夜は自炊と決めていたので、スーパーから買ってきた500g/$5のステーキを3つにスライスして、毎晩公園で食べた。「ステーキを腹一杯食べる」、それだけで当時の自分には充分満足だった。塩・コショウをタップリかけておけば、2、3日はもつので、カロリーは充分補給できる。最初は、まずかったA1印の酸っぱいステーキ・ソースの味にも次第に慣れてきた。

とにかく食材が安い。特に、肉、野菜、米、ビール、コーラ。スーパーで食材を買えば、大幅に経費の節約になった。1日の食費は、多くても$10以内に抑えないと予算が苦しいのだ。

日本にない珍しいものでは、ステーキを焼く際に使うラードで、スプレー式というやつがあり、これはかなり重宝した。使用するコンロは、コールマンのボンベ式で、これが日本の携帯コンロに比べてパワーがあるが、非常にデカイ! 実用重視ということか。当時、日本でコンパクト化していたウォークマンなども、米国製の物は弁当箱サイズに見えた。とにかく何でもダサかった。テクノロジーの先端を国民のために使わず、軍事力や宇宙開発に使いすぎじゃないの?

そんな訳で、当然テントを買うにも遊牧民ファミリーサイズしかない気がしたので、寝袋だけの野宿スタイルにすることに決めた。そう決めてしまうと、大きい買い物は小型の鍋くらい。他に何か買い込まなければ、という必要に迫られなかった。

リュックとキャンプ用品をシートに縛り付ける。とにかく基本は現地調達! これは海外の長旅の鉄則だ。明日は、2週間滞在したロスを出発して7,000マイル(11,200Km)先のニューヨークへ向かう。ニューヨークに着いた後は、どうするの? そんなことは念頭にもなかった。

 

第6回: オーシャン・ハイウエイ

 
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