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■フロンティア時代のアンチヒーローたち〜西部女傑列伝 2
 
西部女傑列伝 2


住んでいる山から降り、スーパーで食料を買ったり、郵便物を受け取ったりの小用を足す町に週に1、2度行く。その町から70キロばかり南に下ったところに"デルタ"という田舎町がある。メインストリート一本に商店、銀行、ドラッグストアが並んだだけの典型的な中西部の町だ。そのデルタに分不相応なパイオニア博物館があり、親類の人が来た時など、そこに連れて行くことにしている。展示物が寄贈されたものばかりなのは田舎の博物館どこでも同じだが、うまく陳列されていている。ボランティアの館員たちの苦労が偲ばれる。

ブッチ・キャサディーのサイドストーリーとして、デルタの町で失敗した銀行強盗事件を調べるために、再三その博物館を訪れているうちに、館員のおばさんと懇意になった。彼女は小学校の先生を退職した後、この博物館にボランティアとして詰めるようになった。小柄で小太りの身体をエネルギッシュに動かし、白の勝ったおかっぱ頭もいかにも回転が速そうだった。

世間話のついでに、当時、その町で何年に一度起こるかどうかの殺人事件のことが話題になった。20歳前の兄弟が知人の老父婦を殺害した事件で、デルタの町はその事件で沸いていた。彼女は小学校でその兄弟を教えたことがあった。そして、あの兄弟が遅かれ早かれこんな事件を起こすのは見えていた、小学生の時から、犯罪者の強いDNAをはっきり見て取ることができた、音楽や絵画に生まれつきの天才がいるように、彼らは犯罪者として生まれついていた…とキッパリと断言したのだ。"栴檀(せんだん=白檀)は双葉より芳し"(大成する者は、幼い時から人並み外れて優れていることのたとえ)の逆もありで、双葉の時から異臭を放つ樹木もある…というわけだ。

犯罪を犯した人に対して、育った環境の犠牲者とか、戦争のせいとみなす傾向がある。もし、彼、彼女が異なった時代に生まれ、全く違う環境で育ったなら、犯罪に走らずに済んだのではないかと、私自身も含めてだが、安易な人間性善説に組してしまうのだ。だから、彼らに更正のチャンスを与えるべきだ…と根拠の薄い人道主義に陥ることになる。

アメリカの南北戦争は、たくさんの落とし子を産んだ。人間に内在していた暴虐性が表面に飛び出し、それがその人の性格全体を支配してしまうのだ。南軍崩れのアウトローが無数に出没し、その中の幾人かは残虐な殺しを楽しむかのように犯罪を繰り返した。デルタの元教師が言うように、彼らは殺人狂と生まれついていたのでは…と信じたくなる。

生まれついての犯罪者と環境が作り上げた犯罪者の間に一線を引くことは不可能であるにしろ、最後まで"更正"など鼻にもかけずアウトローとして生涯を過ごし、アウトローらしく殺された女性がいた。ベラ・スター(BelleともBellaとも綴られているが、どちらにせよ、ニックネームだ)は、思春期から死ぬまで犯罪者であり続けた。

 

 


第1回:ベラ・スター 〜生まれついての犯罪者はいるか

更新日2016/05/05

 


ベラ・スター(Belle Starr)は、犯罪者にならなければならない環境に育ってはいない。当時としては、むしろ金銭的に恵まれた家で、中流以上の家庭で養育され、その上、両親とも教養があった。 

運命的な出会い…と、後の人が語る出会いがあることにはあった。だが、その出会いが彼女の一生を支配したとまでは言い切れない。ベラの中に煮えたぎるような情熱、一日でも早く堅苦しい家を出たいという要求があったのは間違いない。彼女は、コール・ヤンガー(Cole Younger)に一目惚れしたのだ。

ベラ、16歳、コールも若さのほとばしる21歳だった。コールはその歳ですでにジェームス・ヤンガー・ギャング団の首長として高名を馳せていた。出会った場所は、オクラホマのヤンガーズ・ベンドだと言われている(テキサスだという説もあるが…)。 

ヤンガーズ・ベンドは、南軍シンパの溜まり場になっていた上、一仕事終えたギャングたちがホトボリを冷まし、次の仕事の作戦を練る隠れ家になっていた。ベラの父親ジョン・シャーリーは自分で参戦こそしなかったが、強い南軍支持者で、南北戦争後も南軍崩れのアウトローたちを助けていたから、そんな関係でベラはコール知ったのだろう。


16、17歳のベラ・スター。
秀でた額に大きな目、軽く結んだ唇、自然に構えていても若さの持つはちきれんばかりの美しさがある。
実際、ベラはとても感情の起伏が激しかった。ベラをコントロールできるのはコールだけだと言われた。


コール・ヤンガーの若い時の写真(撮影年不明)。

この二人が衝撃的な一目惚れ、そして肉体関係を持ったのは自然の成り行きだったことだろう。コールは20歳を過ぎたばかりなのに、経験をフンダンに積んだ南軍テロリスト転じて筋金入りのアウトローになっていた。彼こそ男の中の男だった。コールはいかにベラに惚れていようとベラに縛られなかった。自分の仲間である弟たち、ジム、ボブ、ジョン、それにまだヒヨコだったジェッシー・ジェイムス、兄のフランク・ジェイムスとの結束と仕事の方をはるかに重く見ていた。

ベラはコールたちが何をやっているか十分承知していた。ジェッシー・ジェイムスの妻ジー(Zerelda Mimms)のように、あえて自分の夫が外で何をやっているか知ろうとしない、家庭に収まっているだけの当時の女性とベラは全く違っていた。また、コールも自分たちがこなしているシゴトを彼女に隠そうとしなかったのだろう。 

コールとの出会いがベラの一生を決定付けたのは確かだが、デルタの博物館の職員、元小学校の先生が言うように、ベラが少女の時から反社会的な性格、アウトローになるべくしてなったのか、コール・ヤンガーが思春期のベラに彼女の生涯を決定付けるほど強い影を落としたのかは分からない。

ベラ・スターはその時からアウトローの生活に入り、多くのアウトローたちが彼らの生涯において一度や二度は更正しようと変身を図るなか、そんな気配さえ見せずに生涯アウトローとして過ごしたのだ。

…つづく

 

 

第2回:ベラ・スター 〜 マイラ・マベルの生い立ち

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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