■くらり、スペイン~イベリア半島ふらりジカタビ、の巻

湯川 カナ
(ゆかわ・かな)


1973年、長崎生まれ。受験戦争→学生起業→Yahoo! JAPAN第一号サーファーと、お調子者系ベビーブーマー人生まっしぐら。のはずが、ITバブル長者のチャンスもフイにして、「太陽が呼んでいた」とウソぶきながらスペインへ移住。昼からワイン飲んでシエスタする、スロウな生活実践中。ほぼ日刊イトイ新聞の連載もよろしく! 著書『カナ式ラテン生活』。


番外編:もろモロッコ!(1)

 

■移住を選んだ12人のアミーガたち、の巻(連載完了分)

■イベリア半島ふらりジカタビ、の巻(連載完了分)

■更新予定日:毎週木曜日

番外編:もろモロッコ!(2)

更新日2004/02/19

12月27日

午前8時前、空港へ行くため万年路上駐車の車に乗り込んだら、気温は氷点下0.5度と表示されていた。年中温暖なカリフォルニアの気候に慣れているコータローとキャリーが、「くそ寒かー!」と大騒ぎ。ちなみに長崎に8年住んでいたキャリーの日本語は、きっちり長崎弁になっている。札幌にスキーへ行った折も空港で「くそ寒かー!」と叫んだというのは、知人の間ではとても有名な話だ。広めたのは、私だが。

そんなカリフォルニア在住長崎弁のふたりは、それから、前後に数センチしか隙間のないスペイン式縦列駐車に驚愕し、さらに前後の車をぐいぐい押しながら車を出すダンナの運転技術を見て「アメリカやったら他人の車ばそげんバリバリ押したら撃ち殺さるっぞ」などと言いつつ大喜び。「これを見ただけでもスペインに来た甲斐あったばい」と、ふたりともすでに満足げな様子だった。えぇーっ!


マドリードから、飛行機はまずカサブランカへ。所要時間、1時間45分。ちなみに今回のスペイン-モロッコ間の往復航空運賃は、ひとり428.52ユーロ(約57,000円、空港税込み)。フェリーでジブラルタル海峡を渡ればひとり20ユーロくらいで、いまは四十路のコータローが20年前にロンドン留学を終えてヨーロッパをまわったときも、そしてコータローとキャリーが10年前にバックパックを背負って世界一周貧乏旅行したときも、もちろんこのフェリーを利用している。

カサブランカは、20年前のコータロー到達最南端、だ。大学を休学し、ロンドンで半年左官をしながら貯めた資金で半年のヨーロッパ旅行に出て、最後に憧れのマラケシュまで行こうとスペインはアルヘシラスのターミナルの床に一泊してから翌朝のフェリーで意気揚々とタンジェに渡り、それからバスでカサブランカまで来たものの、ここでトラブルに巻き込まれた。具体的にはナイフで脅されて、消しゴムを握らされて、金を巻き上げられたらしい。それですっかり意気消沈してマラケシュを前に無念の帰途についた、という思い出の町なんだそうな。ちくしょう、これだけで充分におもしろい。


カサブランカからはロイヤルエアーモロッコで、マラケシュへ。3列の座席の真ん中に座ったキャリーが「アラ、アララ、ヘイヘイ」と言うからなにかと思えば、シートが前後にものすごくスライドするのだ。もちろんビジネスクラスのフラット・シートではなく、ただどこかが確実に壊れているだけなのだが。うーん早速モロッコっぽくなってきたぜ、と、内心ほくほく。

やがて飛行機は海を背にどんどん南下し、40分後にはマラケシュに着いた。上空から見ると、土と、土と同じ色の建物と、土と……、まるで洪水の濁流に呑まれた町のような色合い。時折緑が、固まって見える。

飛行機のタラップを降り、てっくてく歩いて空港に入る。と、いきなり美しい女性がふたり、セロファンに包まれた菓子を山盛りにしたカゴを差し出してくる。もちろんさっそく食べる。ジンジャー風味の、トレド名物マサパンといったところか。ってわかりにくいか? しっとりほろほろしたクッキーというか、かるかんというか(やっぱりわかりにくいか)。ちなみにトレドのマサパンはアラビア伝来だから、こっちが本家だ。

その後、異様にていねいなパスポートコントロールでしばらく足止めをくう。隣のフランス人らしい一家のバカぼんも、こっちを見上げたりお菓子をちょっとかじっては親に返したり鼻くそほじりながらこっちをまたじろじろ見たりと退屈そうだ。旅客は、フランス人(たぶん)が多い。言葉が通じるし物価が安いということで、バカンス客が多いのだという。セレブもいたく愛しているらしい、というネタ元はフィガロ・ジャポン誌(日本帰国時に買って読んだ)。

無事に入国が認められると、まず空港内の両替窓口へ。モロッコは銀行もホテルもどこも両替のレートは同じだそうで、これは便利。窓口の男性は、掲示のレート通りに計算した額を領収書に記し、確認を求める。あぁちゃんとしてんじゃん、と安心したが、その後「はい、これで100DH(ディラハム)、これで200……」と数えていって、あと8.3DH足りないところで手を止めた。「おしまい?」と訊くとそうだ、とニコニコ頷く。

あまりに自然なのでつい引き下がりかけたが「ほら、足りないけど」と領収書を見せると、笑顔で5DH出してきた。「まだ足りないよ」と言うと、笑顔でもう3DH。なんなんだ。あとの0.3は面倒になって窓口を離れた。値段の交渉するのはマーケットだけかと思ってたら、空港の両替窓口から始まるのだ、ぜ! ちなみに1DHは約12.4円。


3人はタクシー乗り場へ。左手は乗り合いのグランタクシー、右手はいわゆるタクシーで名前はプチタクシー。空港内で訊いたところ、市内までの相場は120DHということ。荷物も大きいのでプチタクシーにすることにし、交渉開始。「ハァイ、ウィウォンゴートゥーディスホテェル、」かなんか、キャリーが流暢な英語で喋る。うっかり忘れがちだが、キャリーは日本語だけじゃなくて、英語もとても上手なのだった。

いくらかと訊くと、120DHとのこと。まぁものは試しと100DHと言ってみると、それでいいと言う。すかさずコータローが、「それは3人全員で、荷物もぜんぶでまとめて100DHということで間違いないか」、と確認した。なるほど、あとから「ひとり100DHで、荷物は別料金のつもりだった」と言われる可能性もあるのか、と、モロッコ交渉ルールを頭に叩き込む。こういうとき、貧乏旅行経験者と一緒なのは心強い。

バイクと自転車とロバと歩行者と車が縦横無尽に行き交う冗談のような道路を、タクシーはかっ飛ばす。やがてメディナ(旧市街)に入って迷路のような道をしばらく進むと車を停め、この先だから歩いてちょうだい、と言った。なるほど道が狭い。ホテルの前までついてきてくれた運転手に100DH渡すと、「違う、120DH」と首を振る。「だって100DHって言ったろもん」みたいに3人でガァガァ言うと、あぁダメかぁ、と、わりとあっさり諦めた。なんか、「言ってみるだけ言ってみただけぇー」というかんじ。


ホテルに荷物を置き、町に出る。すぐに屋根のある細い道になる。両側にはぎっしりと小さな店が並んでいる。ランプ、香辛料、革製品、シューズ、織物、木工品、陶器、ガラスの茶器、オリーブ……あぁ、これが、スークかぁ! うー、モロッコっぽいぞーっ!!


モロッコのシューズ「バブーシュ」屋さん。
奥はラコステ、らしい……。

…つづく

 

 

番外編:もろモロッコ!(3)