第2回:スペイン万博公団も私も気合い十分
更新日2004/09/02
▽パビリオンで、アミーゴ!
アテネ・オリンピックが終わった、ね。私はスペイン国営放送で、中継を見ていた。時差が1時間なのはよかったが、スペイン人の関心の高い競技を中心に放送するため、やたらとヨットやハンドボールや水球や自転車競技の中継が多かったのにはまいった。野球とか、見たかったなぁ。谷選手の涙、とか。海外暮らしなので、仕方ないが。
さて、オリンピックが終わったからってがっかりすることないぜ読者諸兄諸姉。だって来年も、世界中のひとびとが参加するイベントがあるのだから。しかも舞台は日本。そう、愛知万博だ。……って、ちょっとあざとい展開だったか? まぁでも、テーマなどはなかなか素敵でありますよ。
愛知万博のメイン・テーマは、「自然の叡智」。これに基づいて、「宇宙、生命と情報」、「人生の“わざ”と智恵」、「循環型社会」という3つのサブ・テーマが用意されている。スペイン・パビリオンはそのなかの2つめのテーマ、「人生の“わざ”と智恵」を軸に展開することにした。ただ、そのままではなく、アレンジを加えて。
というわけで、ジャジャーン。スペイン・パビリオンのテーマを発表。それは、"Compartir
el arte de la vida"――長い歴史の中で育んできた「人生の“わざ”と智恵」を、みんなで分かち合うこと。どういうことかというと……。
スペインには、人類最初の芸術と呼ばれるアルタミラの洞窟壁画に遡る、長い長い歴史がある。しかもイベリア半島は、古代ローマ帝国の辺境領となったかと思えば、ゲルマン民族大移動のあおりをうけて西ゴート族が流入してきて建国、かと思えばアフリカからイスラム教徒がわんさかわたってきて瞬く間にほぼ全土を支配し、やがてそれに対抗するキリスト教徒が北から南に向かってレコンキスタ(国土再征服運動)を行い……と、とにかくややこしいというか、賑やかというか。
このように複雑に展開する歴史を背景に、スペインでは様々な文化が生まれ、今日まで伝えられてきた。ヨーロッパ諸国の中で、8世紀もイスラムの支配を受けた国はない、はず。しかもその反動でカトリックの牙城となり、新大陸発見で得た巨万の富のほとんどすべてを外国のプロテスタントに対する宗教戦争に使い切ってしまい、挙句に国が破産したりしている。なんのこっちゃ。というわけで、今日でもコルドバに行けば、シンプルで美しい回教寺院の真ん中をぶち抜いて、金銀キラキラの豪奢なカトリック教会が建っていたりする。この文化の独特さは、一見の価値があると思う、ほんと。
そんなおかしな、もとい独自の文化を有するスペインのあれやこれに、万博のスペイン・パビリオンで出逢ってほしい。ポイントは、スペインのオリジナル・アイディアの「共有」。スペインの文化もすごいが、日本の文化、たとえばパビリオンを訪れるひとのひとりひとりに流れる日本の歴史や文化だって、ものすごく素晴らしい。せっかくだから、それを分かち合おうぜ、と。平たく言うと、アミーゴになりましょうぜ! ってことさ!
▽これがスペイン発天才の建築
スペインは、ご存知のように、不思議と天才を生む国である。ピカソもダリもミロもガウディも、スペイン人だ。バルセロナの街をちょっと歩けば、有名なサグラダ・ファミリア(聖家族)教会をはじめとしてニョキニョキ現れるモデルニスモ建築物の数々に、おいおいここは現実の世界かい? と目を疑いたくなるほど。
そんなスペインなので、パビリオンのデザインもとても重視している。国内で何ヶ月にもわたるコンペを行った結果、採用されたのはアレハンドロ・ザエラ・ポロ(Aljendro
Zaera Polo)さんのデザイン。ひょっとしたらこの名前、建築関係の方や横浜近郊在住の方は聞き覚えがあるかもしれない。マドリード出身の建築家である彼、実は2002年に完成した横浜港大さん橋国際客船ターミナルの設計も担当したのだ。
彼が横浜のフェリーターミナルの国際コンペで優勝したときには、まだ30代前半という若さ。それ以来、斬新なデザインと大きなスケール感などで、世界で熱い注目を浴びている。ちなみに彼が奥さんのファシッド・ムサヴィさんとともにこれまで手掛けてきた作品は、ふたりの事務所フォーリン・オフィス・アーキテクツのサイトで見ることができる。
というわけで、そんな現代スペインの天才建築家アレハンドロ・ザエラ・ポロさんによるスペイン・パビリオンの完成予想図が、こちら。
カラフルな外壁は、一定の間隔を保ちつつ、建物の外を覆うようにして作られる予定。この外壁と建物の間のスペースは、入場待ちのお客さんたちを雨や風や強い陽射しなどから守ってくれるという役目を果たす。……という説明を聞いたとき、私はちょっと感動した。だって、外で並ぶのって、しんどいじゃない。そのためにツレアイと私は、空想麻雀というゲームを編み出したほどだ。これならディズニーランドの2時間待ちもへっちゃら。いや、そうじゃなくて。
この奇抜なデザイン、よく見ると分かるのだが、不規則な六角形をした色鮮やかな陶器を組み合わせたものになっている。このような透かし模様を用いるスタイルは、スペインの伝統的な建築技法とか。そして抽象的な図形の繰り返しは、イスラム建築のアラベスクを思い出させ……ない? 実はデザインのモチーフは、ロマネスク様式・ゴシック様式・イスラム様式の融合。つまり、スペインの歴史と文化そのもの、なのだ。
しかも、スペインでスペイン人(日本人の私もだけど)が実際に生きる大地、その土に、日本のひとびとに実際に触れてもらおうということで、建築素材となる陶器はすべてスペインで作ったものを運ぶ予定とか。そうそう、なぜ素材を陶器にしたかというと、会場の一部が瀬戸物で有名な瀬戸になるからなのだ。身近な素材から文化交流、というわけ。
なんかさ、実はこうやって、けっこう繊細な心配りもするのだよね、スペイン人。それもまたスペインの、たまらない魅力のひとつなのです。
日本で有名なスペイン人、アンケート結果発表(1)