■くらり、スペイン〜イベリア半島ふらりジカタビ、の巻

湯川カナ
(ゆかわ・かな)


1973年、長崎生まれ。受験戦争→学生起業→Yahoo! JAPAN第一号サーファーと、お調子者系ベビーブーマー人生まっしぐら。のはずが、ITバブル長者のチャンスもフイにして、「太陽が呼んでいた」とウソぶきながらスペインへ移住。昼からワイン飲んでシエスタする、スロウな生活実践中。ほぼ日刊イトイ新聞の連載もよろしく! 著書『カナ式ラテン生活』。


■移住を選んだ12人のアミーガたち、の巻(連載完了分)

■イベリア半島ふらりジカタビ、の巻
第1回:旅立ち、0キロメートル地点にて
第2回:移動遊園地で、命を惜しむ
第3回:佐賀的な町でジョン・レノンを探す(1)

■更新予定日:毎週木曜日




第4回:佐賀的な町でジョン・レノンを探す(2)

更新日2002/11/14


スペインでは、天気予報がちっともあてにならない。だいたいテレビでは、チャンネルによって、現在の時間表示すらマチマチなのだ。いわんや翌日の天気をや、である。国営放送なんて、最低及び最高気温が5度刻みだし。んなアバウトな。

さすれば当然の帰結として、前夜は確かに曇りと予想されていたメリダの天気が、翌朝の予報では快晴となっていた。しかもその後は、しばらくまた雨が続くという。時刻は、10時。バス会社に問い合わせると、次のバスは12時発とのこと。よし、行くか! 毎日昼食に帰宅するダンナの勤務先に「いまからメリダ行くけんが、食事は適当に済ませてくれろ」と電話を入れ、かばんをひっつかんで地下鉄の駅へ。

いくら気が急いてもなんせ我が家はマドリードの成増、浜松町あたりのバス・ターミナルまでは片道1時間。しかも今回はじめて利用するところなので、駅で降りたもののどう行けば良いのかわからない。大きな荷物を提げ、いかにも長距離バスにのりそうな男性に「すみません、バス・ターミナルへ行きたいんですけど」と声を掛けると、自分も行くからついておいでとのこと。よし、正解。彼の後ろを歩くこと5分で到着。並んでチケットを買う。行きは特急、帰りは普通で、往復35.35ユーロ(約4300円)。


時刻は11時15分。なにも食べていなかったので、カフェテリアへ行くことに。案内してくれた男性も出発が12時の便で、付き合おうかなと言う。ふたりでカウンターに立ち、私はカフェ・コン・レチェ(カフェ・オ・レ)とクロワッサンを、彼はスペインでは珍しくアメリカン・コーヒーを頼む。といっても、エスプレッソをお湯で割るだけなのだけど。代金を払おうとしたら、彼が奢ってくれるという。こちらではカフェ一杯の奢り、奢られは当たり前。下心があるわけではない。ありがとうと言って、素直にご馳走になる。

クロワッサンをフォークとナイフで切っては(これ、どうしても慣れない。かぶりつきたいけど、それは下品らしい)、カフェに浸して食べながら(これも上品ではないが)聞いた話。彼、ロドリゴはコロンビア人。今日はバレンシアにいる兄弟の家へ行くのだという。週末を甥と姪とみんなで釣りなんかして楽しんでくるらしい。荷物の中には、ちびっこたちへのプレゼントが詰まっていた。コロンビア産コーヒー、コロンビア出身の人気シンガーSHAKIRA、それに腰痛や釣りの話などをするうちに、出発時間になる。

またどこかで、チャオ。ごく軽く、おそらく永遠の別れ。一期一会、そんな『フォレスト・ガンプ』以来の言葉が胸をよぎる。ありがとう。んまかったよ、今朝のカフェ。


バスはさすが特急、通路を挟んで2列と1列という、ゆったりした座席配置。しかもシートは革張り。高級感にあふれてもよさそうなのだけど、どこか違う。ほの暗い照明といい、えんじ色の古ぼけた革シートといい……あ、場末のナイトクラブ風なんだ! このうらぶれた雰囲気が、すでにエストレマドゥラである。ううむ恐るべし。勝手に感銘を受ける私をよそに、12時ちょうど、バスはターミナルを出た。

本日のルートは、マドリードから南西へ下る国道5号線。そのまま進めば、ポルトガルの首都リスボンへと着く、通称「バダホス街道」。その340km地点に、メリダの町がある。東京からだと、だいたい愛知県小牧市あたり。

20分も走ると、景色はすっかり地平線になってしまう。小高い丘をブッダのヘアースタイルのようにモコモコ覆うのは、オリーブの樹々。スペイン中央南部のラ・マンチャ地方も似たような光景だが、違うのは潤いの量か。ラ・マンチャでは赤土の荒野が延々と続くのに対して、このバダホス街道沿いの景色はもう少し優しい。わりと開墾されているし、よく羊や牛、豚が放牧されているのを見かける。そういえばエストレマドゥラは、高級生ハムの産地としても有名なのだった。黒色の爪したイベリコ豚ちゃん、早く美味しい生ハムになーれ、などと残酷な願いを唱えているうちに、ふと眠ってしまった。

バスが減速した気配で、目を覚ます。なんせ走行中の数時間、信号もないしほとんど速度が変わらないのだ。トゥルヒージョという、人口一万人の小さな町で20分の停車。そういえばこここそ、インカ帝国を滅ぼしたピサロの出身地なのだ。カメラを片手にバスを飛び出しかけるが、いまのうちトイレしとかなきゃそっちが大事だと引き返す。いつものようにトイレットペーパーのないトイレで用を足すと、もう時間。再び動き出したバスの窓から、てっぺんにコウノトリが巣を作った古い教会と、丘の上にぽつんと建つ、中世の古城あるいはその廃墟が見える。目的地までは、あと90km。


予定より20分遅れて午後4時15分、メリダに到着。ひとまず町の中心のローマ遺跡までタクシーを拾うことに。あまり遠くないので運転手さんに「行ってくれる?」と聞くと、もちろんさ乗りなよ、と快諾してくれる。彼はバルセロナ生まれだけど、彼の両親がこの近郊の出身だとのこと。来年、両親も定年を迎えたら、バルセロナを引き払ってここへ戻ってくる予定だとか。

「僕も、バルセロナのような都会的生活はあまり好きじゃなかったからね。とにかくせわしないだろ? ここはいいよ、時間がゆっくり流れている」 チェックのシャツに手編み風チョッキな、若き羊飼いスタイルの彼に見送られ、入場券売り場へ。

入場料は、ローマ劇場と円形演技場、ローマ博物館、アラブ時代の城塞、キリスト教教会堂など町のみどころがぜんぶセットになって7.2ユーロ(約870円)。入場した場所には、パンチで穴を開けるようになっている。列の前のおばちゃんが「これ、明日も使えるのよね?」と訊くと、「あぁ、期限なんて書いてないだろ。死ぬまで有効だよ」との答え。なめ猫定期券以来の、太っ腹チケットなのである。

鉄の大きな門をくぐり、手入れされた庭園を抜けるとそこは……。円形演技場だ!

紀元前8年に作られた、1万4千の観客を収容する演技場。ここで、剣闘士(グラディエーター)と野獣が戦った。その日も、こんな青空だったのだろうか。観客は、どんな服を着て集まったのだろう。ほとばしる血に、悲鳴を上げたろうか。可憐なお嬢さんは、恋人の胸に顔をうずめたりしたのだろうか。……まさか2千年後、ここにいろんな肌の色の観光客がやってくるとは思わなかっただろうなぁ。彼らは、どこへ行ったのだろう?

ほけーっとそんなことを考えながら振り返ると、強い逆光のなかに浮かび上がる廃墟がもうひとつ。

えっ、ローマ劇場? こんな近くにあるんだ。

 

換算レート:1ユーロ=120円ちょっと

 

 

第5回:佐賀的な町でジョン・レノンを探す(3)

 
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