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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第707回:陽が沈む前に - 山陰本線 仙崎駅~益田駅 -

更新日2020/03/26



旧美禰線、いまは山陰本線の仙崎支線は、長門市と仙崎を結ぶ2.2キロ。建設時は仙崎港からの貨物列車が見込めけれど、現在は1日6往復のローカル線だ。鉄道過ぎの私から見ても、なぜ残っているか不思議だ。線路の先の仙崎港は青海島へ向かう船が出ていた。しかし半世紀も前に橋ができて路線バスが走り、仙崎港は漁船と観光船の拠点となっているという。地図によれば港のそばに山口県立大津緑洋高校の海洋学科があるから、通学路線として機能しているようだ。

JR西日本が公開するデータによると、仙崎支線は山陰本線の長門市~小串間と合わせて区分されている。小串~長門市~仙崎が通学ルートだろうか。2015年度の平均通過人員は412人/日だ。少ないけれども、意外にも益田~長門市より多い。

01
直進方向が山陰本線。分岐は藪の中へ向いていた

私が長門市まで乗ってきた1両のディーゼルカーが仙崎行きになる。16時16分に発車、駅構内を進むと、左へ分岐する線路がある。草に覆われているから廃線跡かと思ったら、それが仙崎支線であった。分岐器は草むらへ向けて開いており、気動車は疑いなく進んでいく。進行方向の左に海が近いと思ったけれど、民家が並んでおり海を望む隙間がなかった。

02
仙崎まではほぼ直線区間だ

線路の先にはこんもりと緑を茂らせた小さな山がある。あれが青海島である。線路のそばまで民家が建ち、軒をかすめるように走っている。仙崎駅に到着する手前で右にカーブし、別の山が見える。あれは三隅と呼ばれるあたり。湾の向こう側だ。

03
仙崎駅に到着

仙崎駅の近くに金子みすゞの記念館がある。海外引揚げ上陸跡地の記念碑もある。戦後、海外から日本に帰還する人々がこの港に帰ってきた。また、台湾や朝鮮半島へ帰る人々も仙崎港から旅立った。日本政府はかつて外国航路があった下関港を使うつもりだった。しかし、付近の海域に沈没船が多く、戦時中に米軍が落とした機雷も残っていたため、仙崎港が代用された。ここに帰った日本人は40万人以上もいて、博多、佐世保、舞鶴、浦賀に次ぐ規模。小さな港町だけに受け入れ施設が足りず、民家も引き揚げ者を受け入れたそうだ。そこから長きにわたって交流が続いている人もいるらしい。

04
短い折り返し時間で列車を撮る

そんな街を歩いてみたいし、青海島も見てみたい。しかし不本意ながら7分後に折り返す列車に戻った。せめて駅舎の写真を撮っていたら、似たような行動をする少女がいる。鉄子さんも折り返し列車に乗った。それでいいのかい、金子みすゞは興味ないかい? 自分を棚に上げて思いやる。表情を読み取れないし、声をかければ誤解されそうだし、なんともむずがゆい。

05
駅舎も撮る。なかなか趣がある建物だ

16時31分、長門市駅に到着。この列車はそのまま美祢線に入って厚狭へ戻る。私はここで山陰本線の益田行きに乗り換える。仙崎駅で見かけた少女も降りてきた。前後して跨線橋を渡り、私は改札を出て、彼女は1番のりばに停車中の小串行きに乗った。あちらは16時34分発。ちょうど良い乗り継ぎだ。やはり仙崎~長門市~小串の乗客の流れはあるようだ。私が乗る列車は17時36分発だから1時間もある。街を散歩しよう。その前にトイレに行き、戻ってくると、あれ、まだ小串行きが発車していない。

06
長門市駅に戻って駅前散歩。ドラッグストアがあった

駅事務室を伺うと、ふだんとは違うことが起きている様子だ。そして構内放送が始まる。山陰本線の伊上と長門粟野の間の踏切でクルマが脱輪したという。駅名を聞いてもどこだかわからない。時刻表を開くと、長門市から小串へ行く途中の駅だ。運転再開は17時30分の見込みだという。彼女は気の毒だなと思う。しかし自分の心配もしなくてはいけない。私が乗る列車は事故現場とは逆方向だし、長門市駅が始発だ。影響はないだろう。私は今夜中に木次に行きたい。線路の距離で250キロ以上も離れた駅だ。

07
益田行きが入線。到着列車を待つ

駅に張り付いたところでどうにもならないから、予定の発車時刻まで街を散歩した。観光客相手の店はなく、少し歩くとドラッグストアがあった。薬屋は薬しか売らないけれど、ドラッグストアは缶ジュースや菓子など、身体に悪いものも売っていて嬉しい。飲み物と菓子パンの非常食を仕入れた。約30分後に戻ると、まだ小串行きは停まっていた。缶コーヒーを飲みつつ様子を見ていたら事故の処理が終わったようで、17時20分に小串行きが発車していった。やれやれこちらは予定通りと思ったら、小串発長門市止まりの列車の到着を待つという。発車は18時20分の予定。ん、いや、それは困る。この列車に乗れば益田発米子行きの最終便に乗り継げる。次の列車だと浜田止まりの最終便だ。

08
車窓から久々に日本海を望む

待機中の列車に乗り込み、ワンマンカーの運転士さんに事情を話す。長門市で乗り継ぐ客に配慮するなら、益田で乗り継ぐ私にも配慮してもらえないだろうか。なにしろ今夜は木次のホテルを予約済みだ。運転士さんは、要望は伝えるけれど、難しいだろうという。私にも弱みはある。青春18きっぷは無保証だから安いという仕組みだ。旅客営業規則は、目的地まできっぷを買ったお客様のみ補償している。青春18きっぷは目的地が明示されていない。

席に座って運命を待つ。運転士さんがわざわざ来てくれて、下関からのお客様のうち、益田で乗り継ぐ人がいる。だから益田から先、おそらく浜田まではいけるだろう。しかしその先はわからない、と教えてくれた。たぶん、運輸指令の扱い範囲の境界なのだろう。

09
小さな漁村が通り過ぎた

17時55分。小串からここまでの普通列車が到着した。高校生が10人以上乗ってきた。そうか……この列車は君たちを待っていたのか。こちらは3分後の17時58分に発車する。22分遅れである。スピードを上げてダイヤを回復してほしい。しかし、もうムリだろう。なるようにしかならない。それより、この列車の長門市~益田間も未乗区間である。今は景色を楽しもうではないか。まだ車窓は明るい。ときどき海を見下ろす場所がある。ここからは入江と山中を繰り返す景色になるようだ。浜田から先の乗り継ぎよりも、益田までは明るいうちにゴールしてもらいたい。

10
そして陽が沈む

-…つづく

 


第707回の行程地図
 

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2017年08月23-24日の新規乗車線区
JR:224.1Km
私鉄: 32.7Km

累計乗車線区(達成率 94.33%)
JR(JNR):21,589.8Km (95.02%)
私鉄: 6,432.5km (90.90%)

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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