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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第708回:東海道新幹線と並んで - 近江鉄道本線 米原駅~彦根駅 -

更新日2020/04/09



2017年末、東京から神奈川へ転居した。高齢の母が住む実家に戻り、そのうちに始まる老人介護、老犬介護に備えるためだ。最寄り駅がJR京浜東北線の大森から、東急田園都市線のたまプラーザ、またはあざみ野になった。駅から徒歩40分、バス15分だから、最寄りと言うにはおこがましいけれども。

東海道新幹線の最寄り駅は品川から新横浜になった。あざみ野から横浜市営地下鉄で直行できる。あるいは、田園都市線で長津田に出てJR横浜線だ。クルマで新横浜駅まで行き、駅のウラの駐車場に駐めてもいい。駐車料金の1日上限金額はバスと電車の往復運賃より安い。これは意外な穴場で、東京駅や品川駅ではこうはいかない。どれも面白そうだから、いろいろ試してみようと思う。

01
新幹線車内で朝食「東海道肉づくし」

2018年2月24日土曜日。米原へ向かうため、07時52分発の「ひかり503号」に乗るつもりで新横浜駅へ。今回は素直に、乗り換え検索アプリに従って横浜市営地下鉄を使った。乗り継ぎ時間は十分と思っていたけれども、指定席券の購入に手間取った。自由席に切り替えてプラットホームに上がったら間に合わず。次に来た「のぞみ101号」で名古屋へ。土曜日の朝、遊びに行く人が多いようで、指定席より自由席のほうが混んでいる。

指定席車両に乗って自由席車両へ移動したら空気が変わった。人が多いから室温が高い気がするし、話し声もある。酒や菓子、弁当の臭いが漂う。座席に荷物を置く人が多い。空席を探して歩いたら、窓側A席の美女がC席の荷物をB席に移して席を空けてくれた。ありがたいけれど、この女は一人で3席も使うつもりだったか。どうも自由席と指定席では文化が違うようだ。

名古屋駅09時21分着。46分発の「こだま633号」に乗り継ぐ。こちらも混んでいた。しかし通路側に空席がある。東京から乗った人たちは静岡県内で降りて、静岡県から乗った人は名古屋でのぞみに乗り換える。各駅に停まる列車のほうが空席を見つけやすいかもしれない。私が見つけたC席の隣は40代くらいの夫婦が座っていた。B席の男性はビールを飲みつつスマホを触っている。A席の女性は眠っている。

02
米原駅東口の階段を降りると近江鉄道の駅がある

10時12分に米原駅に着いた。橋上駅舎の改札口を出て、在来線プラットホームをまたいで東口のエスカレーターを降りると近江鉄道の改札口が見えた。次の発車は10時19分。ちょうど良い接続だ。駅舎の写真を撮り、フリーきっぷの「1デイスマイルチケット」を買っても間に合う。プラットホームで電車の写真を撮る時間もあった。ロングシートに座り、息を整えていると、車窓左手に新幹線試験車が通り過ぎた。しまった。ここに東海道新幹線の歴代高速試験車両が展示されている。うっかりしていた。カメラを取り出したけれど、もう遅い。

03
中央の三角屋根が米原駅入口。東海道新幹線50周年の装飾があった

04
米原湊跡の碑
琵琶湖からここまで開削して作られ、大津、長浜と並ぶ湖上交通の要所だったという

右手の車窓は米原駅の構内だ。線路がたくさん並び、電車や機関車が動く。こちらに注目していると新幹線試験車の存在を忘れてしまう。米原駅は北陸本線の起点であり、東海道本線としても関ヶ原越えの補助機関車の基地であった。二つの本線にまたがる貨車の入れ替えも多かったという。その米原駅の線路群が途切れ、東海道本線が右に曲がって分かれていく。

05
1日全線有効、880円のスマイルチケット

東海道本線の線路を乗り越えて、東海道新幹線の線路が直進する。広い畑の向こう側で、こちらの線路と平行した。大阪方面へ東海道新幹線の16両編成が走り去っていく。畑越しに東海道新幹線の編成を車窓から一望できる。こんな鉄道路線はほかにないかもしれない。近江鉄道の車窓は油断できない。

06
近江鉄道の800系電車。元は西武鉄道の401系電車だ

新横浜で「ひかり」に間に合えば米原駅まで乗り換えなし。しかし、その後「のぞみ」と「こだま」に乗り継ぐと、良いタイミングで乗り換えができた。いや、待てよ、「ひかり」の米原着は09時44分で、そこから乗り継ぐ近江鉄道の米原発の電車は10時19分。なんだ。この電車だ。近江鉄道の米原発の電車は1時間に1本だ。「ひかり」ではなく「こだま」に接続するダイヤを組んでいるようだ。

それにしても、新幹線に接続する駅で1時間に1本とは、いくら何でも運行本数が少なすぎる。東海道新幹線で米原に停まる列車は少ないけれども、東海道本線や北陸本線もあるだろうに。そんなに人気のない路線だろうか。

今回、近江鉄道に乗ろうと思ったきっかけは、2017年12月に経営危機が報じられたからだ。沿線自治体に対して、単独の事業継続が難しいと伝えたという。まさかすぐに廃止されるとは思わないけれども、東海道本線と並んで走る路線である。万が一ということもあるかもしれない。早めに乗っておきたいと思っていた。

07
フジテックの工場を望む。エレベーター実験棟が見えた

米原駅の次はフジテック前駅。フジテック前と言うけれど、フジテックの事業所は新幹線の線路の向こう側だ。フジテックはエレベーターの製造を手がける。野煙突のように背の高く細い建物あって、あれがエレベータの実験棟だろう。この駅は2006年に作られた。赤字転落した近江鉄道がフジテックへの通勤需要を見込み、増収策として建設したという。今日は土曜日だし、昼前だから乗降客はナシ。集客効果は効果はわからない。

08
土曜日午前の車内。乗客は少ない

単線を行く電車は新幹線の線路に近づいている。いくつか建物に遮られて、鳥居本という駅に着いた。この駅は1931年開業と古く、駅の周辺に建物が多い。線路とプラットホームはすれ違いができる構造になっている。わが電車は相手を待たずに発車する。線路はゆるくカーブして、東海道新幹線を潜った。畑の景色。前方に山。長いトンネルを通り抜けると彦根駅に着いた。

09
彦根駅に到着。近江鉄道の拠点。右奥は東海道本線の駅

-…つづく

 



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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