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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第719回:不死鳥の都市 - フェニックス田原町ライン -

更新日2020/07/30




えちぜん鉄道のLRT車両「キーボ」は丸みを帯びて愛嬌がある。欧風のデザインはもはや新型路面電車の定番かもしれない。近づいて見ると、フロントガラスの下がなんとなく顔に見える。ふたつの丸いヘッドライトが目で、口に当たる部分に楕円形の線が入る。これはたぶん、非常時に使う連結器の収納部だろう。確かにこれは「キー坊」だ。

01
黄色いキーボと和風のプラットホーム

行先表示器はLEDで「ワンマン 急行 越前武生」とある。えちぜん鉄道三国芦原線には快速列車を朝の上り1便だけ設定されていた。しかし急行という種別はなかった。福井鉄道には直通以前からあって、途中駅をいくつか通過する。しかし先行する各駅停車の追い抜きはしない。なるべく乗車時間を短くしたい人が乗る列車だ。そうはいっても所要時間の差は10分ほど。所要時間の短さを宣伝するために走っているような列車だ。

02
車内はクロスシート中心

えちぜん鉄道の快速は活性化策のひとつ。福井鉄道の急行も活性化策。既存の設備を使って、できることをやりましょうという努力である。直通運転のおかげでえちぜん鉄道も急行が走り出した。しかし通過駅はただひとつ。鷲塚針原駅の次、中角(なかつの)駅だ。鷲塚針原~田原町間には五つの駅があるなかで、中角駅だけは低床プラットホームが作られなかった。もともと快速列車も通過していたほどの駅である。かつては九頭竜川で採取した貨物線が分岐していたらしい。いまはその役目も終わり、わずかな乗降客のために残しているようだ。

キーボの車内は狭いながらも機能的で、デザインも近代的だ。座席は二人掛けクロスシートが並び、ドア付近だけロングシートで床を広く取っている。室内を窮屈に見せないように窓は大きく、車窓を楽しむ都合に良い。乗客は私のほかに一人だけで、私は後ろの車両の席に座った。運転席の後ろで前面展望を眺めたいところだけど、ワンマン運転のドアのそばに立つと運転士は乗降客の扱いも行うため邪魔になる。

03
幻の仮駅

そこで後部車両に乗り、後ろ向きの展望を楽しむ。鷲塚針原駅の次は中角駅だけど、じつはこの間に臨時駅「仁愛グラウンド前」がある。駅名ととおり仁愛学園という学校のグラウンドの最寄り駅で、この学校の体育祭の時だけ使われるという。体育の授業や部活で使う時は学校のバスを使い、家族が応援にくるときだけの駅らしい。とても珍しい駅だけど、以前乗った時も、今日の往路も見逃して、さっき思い出した。前方を見て、それらしきプラットホームを見かけたら後方の運転席越しに見る。工事現場の足場のような質素さで錆色をしていた。

04
雪景色がまぶしくない

田畑は白い雪で覆われている。こんな車窓は照り返しがまぶしくて、私はときどきサングラスを使う。しかしキーボは紫外線カットガラスを使っているから目に優しい。車窓が色つきになってしまうから好きではないけれど、こんな雪の日はありがたい。九頭竜川を渡ると市街地で、雪の量は減る。建物に日が当たり、周辺の気温が上がるからだろう。こうなると勝手ながら紫外線ガラスが恨めしくなる。

05
九頭竜川を渡る

06
鉄道用プラットホームより低い座席

次はいよいよ田原町駅だ。私はこの時だけは先頭車両に移り前方を眺めた。福井鉄道の留置線に古いタイプの路面電車がいて、その後ろから田原町駅のプラットホームが現れた。あの分岐を右へ。やっとここを通過した。今回の鉄道旅の目的を達成だ。そしてここから福井鉄道の線路になる。市街地を進む。道路は広く、複線の線路の両側に片側2車線ずつの道路がある。だけど、最新式のLRT車両はクルマやバスに左から抜かれた。

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田原町で分岐点を通過

道路の制限速度は時速50キロ。しかし軌道法で路面電車の最高速度は時速40キロだ。クルマやバスでさえ制限速度を上回る中で、路面電車は速度遵守。車両の加速、ブレーキの性能は昔よりずっと良いはずで、改正してもらいたい。このままでは公共交通機関として競争力を失う。鉄輪が足かせになってはいけない。

08
ヒゲ線はフクラムで

急行電車に乗って武生まで生きたい気持ちをこらえて、また市役所前で降り、福井駅行きに乗り換える。福井鉄道のLRT車両にも乗ってみたい。何本か待てば来るだろうと待っていたら、1本目の青いLRT車両は越前武生行き。2本目で赤いLRTの福井駅行きが来た。車内のレイアウトはキーボとほぼ同じ。シート時は青だ。キーボが黄色だから、赤いLRTのシートは赤だと思ったら違った。

09
車内はブルー

福井鉄道のLRT車両は「フクラム」という愛称がある。「フクイ」と「トラム」を合わせて「フクラム」。これに合わせてえちぜん鉄道が「キーボ」を導入し、二つを合わせて「希望ふくらむ」と読んでほしいようだ。なるほど、語呂合せとして上手く収まっている。

ちなみに、「フェニックス田原町ライン」という愛称は直通運転の線路の形が「飛躍する火の鳥」に見えるから、と自治体のサイトで紹介されていた。それをそのままコラムに書いたら、Sさんが「もともと福井市は戦災や震災から何度も立ち上がった歴史を不死鳥になぞらえていたんですよ」と教えてくれた。福井市市民憲章のシンボルマークもフェニックス。国道8号の福井市内もフェニックス通りだという。

10
福井駅に到着!

そう言われてみれば、えちぜん鉄道は京福電鉄時代の衝突事故で廃線危機から立ち直った。福井鉄道も名古屋鉄道が資本撤退後、沿線自治体が再生させようと国に働きかけて「鉄道事業再構築実施計画」の第1号となった。フェニックス田原町ラインはまさに不死鳥のシンボルといえそうだ。

さて、無事に福井駅に戻って、まだ昼前だ。夕刻の約束の前に、勝山の恐竜博物館を見てこよう。そうだ、勝山駅の珈琲も飲みたい。

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恐竜博物館へ

12
世界有数の恐竜研究施設でもある

13
勝山駅のカフェコーナー

14
発車までのひとときを過ごす


-…つづく

 



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

<<杉山淳一の著書>>

■連載完了コラム
感性工学的テキスト商品学
~書き言葉のマーケティング
 
[全24回] 
デジタル時事放談
~コンピュータ社会の理想と現実
 
[全15回]

■鉄道ニュース(レポーター)
マイナビニュース
ライフ>> 「鉄道」
発行:マイナビ

 

■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

ぼくは乗り鉄、おでかけ日和
杉山淳一 著


『みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック (LOGiN BOOKS)』

みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック
杉山淳一 著


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