のらり 大好評連載中   
 
■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第686回:電飾のオーケストラ - 烏山線 宝積寺駅 -

更新日2019/05/23



郡山駅から乗った電車は、黒磯駅に14時53分についた。黒磯から南下する電車は4分後の14時57分発。こんどは余裕がない。そして相変わらず跨線橋の向こうのプラットホームだ。長距離客が少ないとはいえ、わざわざ不親切にしなくてもいいのに……。

仙台で初乗り区間を踏破して、トロトロと東北本線を南下している。青春18きっぷ利用だから、という理由もあるけれども、もうひとつ寄りたい路線があった。烏山線だ。

01
宇都宮行きは通勤電車。首都圏に近づいた

烏山線は宇都宮駅から北へ二つめの宝積寺駅を起点とし、東へ約16kmの烏山駅を結ぶ。路線距離は20.4kmで、直線距離との差を比較すれば素直なルートである。すべての列車は東北本線に直通し、宇都宮駅を発着する。

昭和40年代生まれの私にとって、烏山駅と言えばアニメ『銀河鉄道999』のアンドロメダ終着駅だ。私が12歳の頃。テレビアニメ『銀河鉄道999』の劇場版が公開された。その広告タイアップとして、上野発、行先不明のミステリー列車"スリーナイン号"が走った。団体旅行扱いで、きっぷは上野駅で発売。発売当日はきっぷを買うために長蛇の列となった。私も列に並び、残念ながら抽選に外れた。ミステリー列車の終着駅が烏山だったと報道で知った。

恨みの烏山線の乗車は、それから10年が過ぎた1983年9月3日だった。日光線と合わせて乗っている。どんないきさつかは記憶にない。誰かに青春18きっぷを譲ってもらったかもしれない。あの頃の青春18きっぷは4枚綴りで、切り離して使えた。

02
EV-E301系の模型があった

その烏山線が注目されている。2014年から蓄電池電車、EV-E301系が投入された。烏山駅の給電設備と、烏山線が乗り入れる東北本線区間で充電して、非電化区間を電車が走る。営業実験の意味合いもあっただろうけれども、それも成功と見えて、3月のダイヤ改正で全列車がEV-E301系に統一される。それがどんなものか見ておきたい。この技術が進化すれば、すべての電化区間で、あの煩わしい架線や架線柱が消える。

03
留置線のキハ40形。見納めかも?

宝積寺駅に15時36分に着いた。次の烏山行きは16時35分発だ。列車は宇都宮からやってくるわけで、1時間ほどの待ち時間だ。留置線にはキハ40というディーゼルカーが1台。3月には居場所を失う車両だ。古い国鉄型。このまま廃車。あるいは改造されて、流行りの観光列車に生まれ変わるか。

少し外を歩いてみよう。改札口のそばのテーブルに、EV-E301系の模型があった。銀色車体にグリーンの帯。車体長20メートル。片側3扉。模型を飾るケースに "sustina"のロゴがある。総合車両製作所、元東急車輌のステンレス車体のブランド名だ。もうすぐ実物を観られるから、気持ちが盛り上がってきた。

04
木製の天井が彫刻のよう

見上げれば天井の形が独特で、パイナップルの実、あるいは昆虫の巣のような造りになっている。この天井は駅の両側の出入り口階段まで続いている。宝積寺駅を橋上駅舎に改築するにあたり、建築家の隈研吾氏が手がけたそうだ。東口にある公共施設 "ちょっ蔵広場" と統一したデザインになっている。高根沢町の中心駅として整備されたらしい。

05
東口から見た駅舎

東口の "ちょっ蔵広場" には食堂と倉庫型の体育館かイベントホールのような建物がある。食堂にはビール、唐揚げ、うどん、そばのノボリがはためいているけれど、あいにく腹は減っていない。二つの建物に囲まれた広場にはオーケストラの人々を模したオブジェがある。電飾を仕込んでいるようだ。クリスマスや正月の飾りだろう。

06
"ちょっ蔵広場" の食堂

夕方の散歩だろうか。おじいさんと幼い女の子が佇んでいる。女の子は指揮台に上がり、タクトを振る真似をしている。それをなんとなく眺めていたけれど、女の子が振り返って、私と目が合ってしまった。女の子は照れくさいのか、おじいさんの元へ駆け寄った。いや、変質者だと思われ、怖かったのかな。夕方の寂しい駅前だからな。

07
電飾のオーケストラ

烏山線のプラットホームに戻る。こんど列車は蓄電池電車だ。時刻表で調べると、列車番号に電車を示すMという文字がついていた。しかし、自動音声放送が、今度の列車は二つドアという。あれ、さっき見た模型は三つドアだった。二つドアはディーゼルカーだ。放送が間違っているらしい。

08
西口から見た駅舎

しばらくして、本当にキハ40形がやってきた。オレンジ色の車体に、窓まわりをクリーム色の帯にしたディーゼルカーだ。放送が正しい。運転士さんに聞いたら、ダイヤ改正の全列車蓄電池列車化に対応するため、2月末まで現行の蓄電池電車も改装工事を実施しているとのこと。私はわざわざ蓄電池電車に乗るために、この列車を選んだ。それがディーゼルカーとはがっかりだ。

09
EV-E301系の愛称はACCUM(アキュム)

しかし、いつのまにか列車を撮影する人が増えている。それも熱心にキハ40形を撮っている。そうか、彼らにとっては、もうすぐお別れになるキハ40形の方が貴重だ。しかも、蓄電池電車が改造中で、ディーゼルカーの運行本数が増えている。彼らにとってはJR東日本からの粋なはからいになったわけだ。ああ、そういうことなら納得だ。私もディーゼルカーを撮影しよう。烏山線の最後のディーゼルカーの旅を楽しもう。

10
あら、DCがやってきた

-…つづく


第686回の行程地図

  

このコラムの感想を書く

 


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
著者にメールを送る

1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。月刊文藝春秋「乗り鉄うまい旅」連載。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

<<杉山淳一の著書>>

■連載完了コラム
感性工学的テキスト商品学
~書き言葉のマーケティング
 
[全24回] 
デジタル時事放談
~コンピュータ社会の理想と現実
 
[全15回]

■鉄道ニュース(レポーター)
マイナビニュース
ライフ>> 「鉄道」
発行:マイナビ

 

■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

ぼくは乗り鉄、おでかけ日和
杉山淳一 著


『みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック (LOGiN BOOKS)』

みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック
杉山淳一 著


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第101回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで
第401回~第450回まで
第451回~第500回まで
第501回~第550回まで
第551回~第600回まで
第601回~第650回まで

第651回:神話の里、ふたたび
- JAL285便 羽田~出雲 -

第652回:再訪は夏の景色
- 木次線 宍道駅~木次駅 -

第653回:満腹トロッコライン
- 奥出雲おろち号 1 -

第654回:木次線完走
- 奥出雲おろち号 2 -

第655回:乗り継ぎ遭難
- 芸備線 備後落合駅 -

第656回:谷間を東進
- 芸備線 備後落合~新見-

第657回:長距離鈍行と鬼伝説
- 伯備線・山陰本線 新見~西出雲 -
第658回:社殿駅の市民市場
- 一畑電車・大社駅 -

第659回:お上りさんが京を行く
-京都市営地下鉄東西線 六地蔵~御陵 -

第660回:スプリンクラーと併用軌道
- 京阪電鉄京津線 御陵~浜大津 -
第661回:石山寺ハイキング
- 京阪電鉄石山坂本線 浜大津駅~石山寺駅 -

第662回:隙間から琵琶湖
- 京阪電鉄石山坂本線 浜大津駅~坂本駅 -

第663回:婆さん、邪魔
- 坂本ケーブル-

第664回:比叡山横断
- 延暦寺~叡山ロープウェイ -

第665回:叡山と比叡山
- 叡山ケーブル-

第666回:長い寄り道の終わり
- 叡山電鉄叡山本線 八瀬比叡山口駅~出町柳 -

第667回:重い気分を軽くして
- 山陰本線・木次線 宍道~木次~出雲市~玉造温泉 -

第668回:レールとススキが光る道
- 芸備線 備後落合~三次 -

第669回:夜も閑散区間
- 芸備線 三次~備中神代~新見 -

第670回:朝の盆地
- 姫新線 新見~中国勝山 -

第671回:キリタロー、バイオマス、扇形機関庫
-姫新線 中国勝山~津山-

第672回:亀甲と美女
- 津山線 津山~岡山 -

第673回:川に沿い、山裾をなでる
- 姫新線 津山~佐用 -
第674回:智頭線の地図
- 智頭急行 佐用~智頭 -

第675回:3件目のスーパー
- 智頭急行 智頭~上郡 -
第676回:もうちょっと頑張ろうか
- 赤穂線 -

第677回:付け替え区間の旅
- 吾妻線 -

第678回:各駅停車で北上
- 東北本線 上野~仙台 -

第679回:短い新路線
- 仙石線・東北本線接続線 -

第680回:内陸移設区間
- 仙石線 高城町駅~石巻駅 -
第681回:復興の街
- 石巻線 石巻~女川 -

第682回:六丁の目のナゾ
- 仙台市営地下鉄東西線 仙台~荒井 -

第683回:日本一高い地下鉄駅
- 仙台市地下鉄東西線 仙台駅~八木山動物公園駅 -

第684回:地下鉄地上区間と駅前散歩
- 仙台市営地下鉄南北線 富沢~泉中央 -

第685回:新しいベルトと幸せな時間
- 東北本線 仙台~黒磯 -


■更新予定日:毎週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【イビサ物語
 【亜米利加よもやま通信 】 【ギュスターヴ・ドレとの対話 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
  [フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

    

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2019 Norari