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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第701回:黄色の国電 - 宇部線 宇部~宇部新川 -

更新日2019/10/24



昨夜は19時過ぎに新山口の駅前ホテルにチェックインした。昼に食べ過ぎたせいで腹も減らず、夕食はコンビニのおにぎり一つ。ポメラで原稿を1本書いて、21時過ぎに就寝。したがって5時起床は苦にならない。むしろふだんよりよく眠れた。幼い頃、ふだん遅起きの父が、接待ゴルフのときだけは日の出と同時に出かけた。ゴルフ好きと仕事好きの両方だと呆れたけれど、いまの私は父を笑えない。乗り鉄も日の出に出発し、日没にプレー終了だ。

01
新造された旧型客車

夜明け前の新山口駅、構内に旧型客車が停まっている。珍しいなと観察したらピカピカの新車だ。来月からSLやまぐち号に使われる車両で、オハ35系の形式を残して4000番台とした。茶色い車体が懐かしい。しかし耐火基準などが変わり、古い規格のままでは作れないから、新設計、新素材を使っている。新技術を活用して、わざと古めかしい車両を作る。銀河鉄道スリーナインのようだ。もう戻らない旅人のために、こんな懐かしい列車にしたとメーテルは言う。今回の旅では山口線に乗らないけれど、山口線に初乗りするときはSLやまぐち号にしよう。

02
黄色の115系

03
後付けの運転台

05時39分発の山陽本線下り電車で宇部駅に向かう。黄色の115系2両編成、片方の運転台は中間車改造の平面顔だった。朝霞の向こうから日が昇る。海からは遠いけれど、向こうの山が島に見えて、瀬戸内のような風景だ。乗客は高校生が数人。朝練だろうか。8月24日、まだ夏休みのはずだ。

04
朝靄から日の出

今日はまず、宇部線と小野田線を踏破する。宇部線は新山口駅から海沿いを巡って宇部に至る路線だけど、新山口から乗らずに、あえて宇部から乗る。その理由は小野田線の独特の路線配置と運行本数だ。宇部線は新山口から宇部まで「U」字を描く。小野田線は山陽本線小野田駅から南下し「人」形を描く。右足が宇部線の途中駅、居能に接する。左足は長門本山駅、行き止まりである。

素直に乗り継ぐと、新山口から宇部線で宇部まで乗り通し、山陽本線で隣の小野田駅に行き、小野田線で居能まで乗り通し、折り返して長門本山へ行き、また折り返して雀田で乗り換えて小野田に出る、という道順になる。これを第1案として、第2案は宇部線で居能、居能から長門本山、折り返して雀田から小野田、山陽本線で宇部に出て宇部線で居能まで。そこから戻るか新山口へ進む。第3案は長門本山から折り返した後、宇部線を乗り通して新山口に行き、小野田から小野田線を雀田まで往復する。

05
宇部線と小野田線の関係(地理院地図を加工)

問題は、小野田の支線、雀田と長門本山の間だ。7時台に2往復、18時台に1往復の3往復しかない。第1案だと長門本山行きの朝の便に間に合わない。第2案、第3案だとすべて巡って、小野田着09時56分、または宇部着09時30分だ。しかし、長門本山駅でとんぼ返り。6分間しか滞在できない。なんとかして長門本山行きの始発に乗れば、次の便まで30分ほど滞在できる。時刻表をめくり巡って、宇部から宇部線の始発に乗る経路を探し出した。

宇部駅で20分の待ち時間があり、いったん改札を出て宇部駅の駅舎を撮った。ブルートレインブームの頃、時刻表をたどると、九州行きのほとんどが早朝の宇部駅に停まった。重要な駅だと思っていたけれど、意外にも駅舎はこぢんまりとしていた。国鉄時代末期に建て替えられた。壁はタイル張り。出入り口はガラスタイル。銭湯みたいだ。

06
105系の初仕事は宇部線、小野田線だった

山陽本線を長編成の貨物列車が通過していく。山陽路らしい風景である。宇部線の電車はすでに入線している。黄色い105系の2両編成だ。たしか呉線で乗ったことがある。懐かしい。この電車は国鉄末期、全国の地方電化路線に残っていた茶色い旧型国電を置き換えるために作られた。ああ、そういえば宇部線、小野田線は、関東の鶴見線と同様に、旧型国電が最後まで残った路線だった。

電車の行先は新山口と表示されている。逆戻りするかと迷いそうだけど、この電車は海寄りを迂回する。車内は冷房が効いている。旧型国電の姿も見たかったけれど、冷房付きの電車のほうが嬉しい。ふだんこの路線を使う人も同じ気持ちだろう。通勤時間帯の下りだからか、乗客は今のところ私だけだ。無人のロングシートを眺めると、寝そべらないかと誘われているような気がする。しかし車窓を眺めたい。ご厚意だけ頂戴する。

07
太陽がない側の車窓が明るい

景色がだいぶ明るくなった。田畑の向こうに民家が並ぶ。進行方向右側の民家はこちらの面に陽が当たり、輝くような明るさだ。左側は何もかも影となって暗い。お日様のある側の車窓が明るいとは限らない。広い川を渡った。厚東川と書いて「ことうがわ」と読む。その水面もまだ眠っているかのように静かだ。

08
厚東川を渡る

最初の駅、岩鼻で対向列車とすれ違う。同じ黄色だけど、この電車より顔つきがいかつい。貫通幌がむき出しの電車だから、なおのこと古めかしい。旧型国電ではないけれど、かなり古い電車だろう。

岩鼻駅を出ると、車窓に建物が増えてきた。宇部駅周辺よりも住宅が多い。居能駅に到着。小野田線との分岐駅である。ここで長門本山行きの一番列車に乗り換えられる。その列車は次の宇部新川駅が始発で、この列車が先に到着するから、そのまま乗り越して宇部新川まで行くとしよう。経路が重複しても、青春18きっぷだから問題ない。冷房があるから窓は締め切っている。それでもセミの声が届く。ようこそ真夏の宇部へと歓待されているらしい。

09
いかつい顔の電車

車窓に一瞬、工場が通り過ぎた。宇部と言えば宇部興産。このあたりは宇部興産で栄えた町、宇部新川は宇部市の中心にある。宇部興産は厚東川河口にあった沖の山炭鉱の共働組合が発祥だ。そして宇部新川で鉄工所がする大正3年に宇部軽便鉄道が開業。宇部と宇部新川を結んだ。後に沖の山炭鉱への支線も開通している。

10
宇部興産の工場かな

宇部軽便鉄道は後に宇部鉄道となり、炭鉱と鉄工を国力と考えた国により国有化された。美祢から宇部新川まで貨物列車が運行され、宇部興産にとって重要な路線になった。しかし、国鉄が不安定な時期に貨物列車の運休が続くなどで、宇部興産は鉄道に見切りをつけて、トラック輸送に切り替えた。さらに輸送の安定化、トラックの大型化に対応するため、宇部と美祢を結ぶ約32kmの専用道路を作った。宇部興産の国鉄に対する不信感の大きさが解るけれども、宇部興産だけではなく、多くの荷主たちが鉄道貨物に見切りを付け、国鉄はますます経営不安定になっていった。

宇部新川駅の乗り換え時間は約7分。長門本山行きは1番のりばから。跨線橋を渡り窓から見下ろすと、1両の電車が停まっている。岩鼻ですれ違った電車と同型だ。1両と2両編成の黄色い電車が並ぶ様子は、まるでJRらしくない。地元の電鉄会社の風景のようだ。若い頃は3分もあれば改札口を出て駅舎を撮りに行ったけれど、もうそんな気力はない。それは暑さのせいか、体力の低下か、高齢か。いずれにしても嘆かわしい。

11
宇部新川駅で黄色が並ぶ

-…つづく


第701回の行程地図
 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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