音羽 信
第17回: 虹に目が眩んで(Blinded by Rainbows)
by ローリング・ストーンズ
十字架の上で彼が感じた痛みを
お前は一度だって感じたことがあるのか?
ナイフで柔らかな肉がスーッと切り裂かれるのを
一度だって感じたことがあるのか?
夜に触れたことが、一度だってあるのか?
その代償を考えてみたことが、一度だってあるのか?
楽園はもう失われてしまったという恐れを
胸に秘めた覚えが、一度だってあるのか?
なあ、お前
虹で目が眩んでいるんだろう。
何も見えなくなっているんだろう。
風が吹いているのはわかっても
虹で目が眩んでいるんだろう。
夜には夢を見るって?
ちゃんと眠れたって?
ホントかよ
俺には、そうは見えないね。
爆弾が炸裂した時の爆風を感じたことが
一度だってあるのか?
それで手足がもげてしまった人の悲鳴を聞いたことが
あるっていうのか?
父親が銃で撃たれるのを目撃した少年にキスをたことが
あるっていうのか?
戦争が際限なく続く中で涙を流したことが
あるっていうのか?
お前は夜に触れたことが、一度だってあるのか?
それとこれとは別だって?
楽園が失われていく
その最後の時を恐れたことが
あるっていうのか?
なあ、お前
虹で目が眩んでいるんだろう。
何も見えなくなっているんだろう。
窓ガラスにお前の顔が映ってる。
夜には夢を見るって?
ちゃんと眠れたって?
ホントかよ
俺には、そうは見えないね。
夜を恐れたことがあるって?
戦争に負けたかもしれないって?
最後の時を恐れたことがあるって?
十字架の前でひざまづいたことがあるって?
虹で目が眩んでいるんだろう。
何も見えなくなっているんだろう。
風が吹いているのはわかっても
虹で目が眩んでしまっているんだろう。
夜に夢を見るって?
夜中に叫んだことがあるって?
恐怖の匂いを嗅いだことがあるって?
良心には微塵も翳りがないって?
汗ビッショリだって?
着ているものもみんな汗ビッショリだって?
光を見たって?
消えゆく最後の光を見たって?
キリストの顔を見たって?
だから天国に行けるって?
ホントかよ
俺には、そうは見えないね。
“Blinded by Rainbows”- The Rolling Stones
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ローリングストーンズの面白さは、定番のロックナンバーを次から次へと披露して、大観衆を熱狂させる興行を繰り広げてみせる一方、時折、私たちが生きている時代の風を敏感に感じ取って、その風と呼応する真摯な歌を、同じ風を感じ取っている私たちに向かって歌ってくれることだ。例えば『アンジー』、例えば『ギミーシェルター』。そんな歌を聴くことで私(たち)は、自分が立っている場所を、見ているものが間違ってはいないことを、その確かさを信じて、とにもかくにも、そこから前に進むしかないと思えた。
それはストーンズが、ニール・ヤングと同じように、ロックを始めたその時の感覚をいつまでも大切にし続けていることの表れ。
私がストーンズを初めて見たのは、1976年の夏、バルセロナの闘牛場でのコンサートだった。ロキシー・ミュージックやピーター・トッシュなどが前座を務めるというとんでもないそのコンサートで、ストーンズはちょうど真夜中の12時に登場したが、それは長い間スペインに君臨した独裁者フランコが亡くなった翌年に行われたスペインで初めての大規模なロックコンサートだった。
今はもう信じられないことかもしれないが、独裁者にとってロックは危険な何かだった。まるで自分の死の道連れにするかのように、バルセロナでは多くの反体制的な若者たちが銃殺された。だからこそストーンズは、その翌年にバルセロナで、自ら先陣を切ってスペイン初のロックコンサートを行った。
『Blinded by Rainbow』が歌われたのは1994年、ベルリンの壁の崩壊、ソ連の崩壊以降、世界が好転するかと思いきや、資本主義国が大手を振り、新自由主義が世界の貧富の格差を拡大し始め、ネルソン・マンデラが大統領になった一方、ロシアがチェチェンに侵攻した。なんだか時代は訳のわからない状態になり始めていたが、そのような時にこそ、ストーンズは何かをする、ヒットしようとしまいと、こんな歌を歌ってみせる。
2005年、京都議定書が締結され、温暖化対策への道筋がなんとかついたかと思いきや、ロンドンの同時多発テロなどのテロ事件が相次ぎ、世界はますます分裂と混乱と混迷を深めていっているように感じられたその翌年、ストーンズはブラジルのコパカバーナの海岸でフリーコンサートを行い、なんと150万人もの観客が集まった。
そしてパリ同時多発テロを含め、ISが相次いでテロ事件を起こした翌年、2016年にストーンズは、54年ぶりに米国との国交が再開されたキューバのハバナで、120万人もの人を集めてフリーコンサートを行った。つまりストーンズは、明らかに時と場所を見つめて大コンサートを行っている。要するに、時代や社会と共に歩んでこそのロック、というより、それに対する思いを自らの行動や言葉で表明してこそロック。私がストーンズを好きな理由の一つもまたそこにある。
The Rolling Stones - Blinded By Rainbows
[Official LyricVideo]
https://www.youtube.com/watch?v=4VSqyfhFQ3M&list=RD4VSqyfhFQ3M&start_radio=1

The Rolling Stones
-…つづく