サラセンとキリスト教徒軍騎士たちが入り乱れ
絶世の美女、麗しのアンジェリーカを巡って繰り広げる
イタリアルネサンス文学を代表する大冒険ロマンを
ギュスターヴ・ドレの絵と共に楽しむ
谷口 江里也 文
ルドヴィコ・アリオスト 原作
ギュスターヴ・ドレ 絵
第 9 歌 旅に出たオルランドの冒険
第 4 話:比類なき勇者オルランドの活躍
さて前回は、残虐王チモスが、オルランドのあまりの強さに恐れをなして逃げ出し、その様子を城壁からみた門兵たちが、慌ててチモス特性の、どんなものでも吹き飛ばす火筒を持ってチモスのもとに走る。
そうとも知らず、オルランドがまっしぐらに城門を目指す間に、火筒を手にしたチモスコが岩陰に隠れ、火筒を構えてオルランドを待つ。そしてオルランドの姿が目に入った瞬間、チモスコの武器が火を吹き、雷のような轟音とともに弾丸が稲妻のようにオルランドめがけて一直線。
ところが、チモスコが慌てて撃ったせいか、幸いなことに弾はオルランドではなく、馬の首にあたり、その瞬間に馬はオルランドを地上に投げ出してどうと倒れた。騎士に向かって剣でも槍でもなく、卑怯な飛び道具を使われたオルランドは、雷神のように怒り、すぐに立ち上がるとチモスコめがけて放たれた矢のような速さで突進し、岩陰から逃げ去ろうとするチモスコにあっという間に追いつくと、剣を大きく振りかざし大地を蹴ってジャンプし、まるで神が鉄槌を下すかのように渾身の力で剣をチモスコめがけて振り下ろした。
哀れチモスコ、パラディンの騎士の怒り心頭の一撃に兜もろとも頭を真っ二つにされてしまった。そのままオルランドは鬼神のような形相で城をめがけて突進し、それを見たフリジアの兵たちは、迎え撃つことも忘れ、オルランドの前にひれ伏して降参し許しを乞うたのだった。
こうして青年騎士ビレーノは無事救出され、オルランドとともにオリンピアのもとに向かった。その凱旋を、優しい王をなくしたオランダ公国の民は喜びの涙を流して歓迎し、野蛮な武装国家フリジアの残忍非道の王を討った比類なき勇者オルランドを讃えた。
もちろんすぐにオリンピア姫と青年騎士ビレーノとの婚礼の式が執り行われ、同時にオリンピアが王の遺志を継いで王女となった。オランダ公国は、国を救ったオルランドに対して、どんなお礼もいたしますと申し出たが、それではとオルランドが要求したのは、かの火筒のみだった。そして、それを手にしたオルランドはその火筒を民の前で海に捨ててこう言った。
勇気ある騎士を礼を無視して殺す武器など
この世にあっていいはずがない。
もう二度とこの世に現れてはならぬ
海の底に沈んで悪魔とともに
朽ち果てるが良い。
さて、こうしてオルランドが奇妙な冒険をしている間、すっかり忘れられていた感のある麗しのアンジェリーカは、一体全体、どこでどうしていたのか?
そのことについては第10歌にて。
-…つづく