第404回:アメリカ人、2億総鬱病
私の周囲には鬱病の人が沢山います。家族でも、私の妹、義理の妹、そして彼女の息子(私の甥)二人はもう何年も、何十年も、鬱病を抑える薬を飲み続けています。高校時代からの親友も、薬を手放せません。大学の同僚の先生や生徒さんも、鬱病の薬を飲み続けている人があまりに多いのはショックです。
何でも、アメリカ人の20%の人たちが、何らかの精神的、心理的なヤマイ(病)を持っていて、それを抑えるため、お医者さんが出す処方箋の薬を飲んでいます(アメリカの場合、薬はとても高価です)。加えて、睡眠薬、頭痛、神経や筋肉痛など鎮痛剤、市販の薬を常用している人は膨大な数に上ることでしょう。
一時期、日本でよく『1億総ナントカ』という言い方が流行りましたが、今のアメリカでは『アメリカ人、2億総鬱病』と呼びたいくらいです。
確かに、鬱病は自殺につながる本当に怖い病気です。脳の中の化学物質を変える薬が必要なケースもあるでしょう。でも、でもなのです。その薬の大半が常用性、中毒性があり、しかも肝臓、心臓に悪影響を及ぼす可能性が高いことは、どんな医療雑誌にも書いてあります。
私がニワカ知識でインターネットをチョット覗いただけでも、あきれるくらい副作用で死んだり、本格的な肝臓、心臓の病気になっている例が多いことに驚かされます。製薬会社がそれらの薬の入れ物に、虫眼鏡でしか読めない小さな字で印刷している『注意事項』など、誰がイチイチ読むものですか。あれは裁判に訴えられた時に、服用する際の注意事項はチャント書いてあるから、会社の責任でない…と、言い逃れるためのものです。
鬱病を抑える薬を長年飲み続けている、ごく親しい友達に、もし薬を飲まなかったらどうなるの? と思い切って訊いてみたところ、一切体を動かす気力がなくなり、落ち込み、意味もなく涙が出て、自分の人生、生きることが無意味に思えてくる…と言うのです。さらに、薬を呑んだらどうなると尋ねたところ、そのように落ち込むことはなくなるけど、昔持っていた感情の高まり、嬉しいことを全身で感じる高揚感もなくなる、感情の上と下の部分をなくし、ぼんやりした真ん中のところだけになる…と言うのです。
これは、考えてみるまでもなく恐ろしいことです。私たちが社会で他の人間に関わって生きている以上、ストレスは付き物です。自然相手のお百姓さんや牧場で働いている人も、天候や動物の疫病、害虫などのストレスは付いて回るでしょう。そんな中で、憤り、泣き、喜んだりするのが生きている価値だと思うのですが、そんな感情の上と下を切り取られてしまっては、なんと味気のない人生になってしまうことでしょう。
鬱病に一番効果があるのは、生活態度、言ってみれば、運動、労働、そして食事だというのは、どこにでも書いてあります。私の周りにいるウツの人たちに、はっきりとした特徴があります。まず、皆が皆、デブなのです。そして、生活に困っていない、いわば暇が有り余っている人で、そうかといって、その時間を使って自分のやりたいことに打ち込むこともありません。そして、体を動かすことをほとんどしません。いつも時間に追いまくられている私から見れば、とんでもなく贅沢、豪華で豊かな人生を送れる条件を両手に持っている人たちなのです。
うちのダンナさんは、"歯磨き粉で結核が治るような体、正露丸でガンが治る体質"づくりをモットーにしているようで、まず薬を飲みません。一度、急性肺炎で救急病院へ運び込みましたが、その時、生涯で初めて抗生物質を摂ったのではないかしら、その効き目は魔法の杖で触れられたように素晴らしいものでした。
そんなダンナさんの意見ですから、かなり割引しなければなりませんが、アメリカ人の大半の鬱病患者は、「ありゃ、贅沢病だな。常に飢えと隣り合わせのアフリカやインド、東南アジアのお百姓さんに鬱病患者がいると思うか?」とノタマッテいます。
鬱病の人に有効な対処法?として多くの心理学者は、ペットを飼うことを薦めています。ところが、そのペットも飼い主に似るのでしょう、鬱病になり、逆に急に人を咬んだりする例がよくあるのだそうです。そこで、いかにもアメリカ的な『動物心療内科』なるものが繁盛しています。知り合いにも、そんな動物病院で処方された鬱病の薬を自分のペットに飲ませたりしています。
アメリカ欝病、ここに極めり…。 アメリカ人、2億総鬱病にプラスして、アメリカ犬猫、5千万総鬱病にゼンシンしつつあります。こんなことをうちのダンナさん言ったら、"そんなペットはすぐに殺して、動物園の餌にしろ"ぐらいのことは言いかねません。
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