第356回:アメリカ合衆国政府の無駄使い
どこの国の政府でも、議員さんやお役人は、自分の懐(フトコロ)が痛まない無駄使いを盛大にするものです。民間企業ではとても想像できない、無駄が平然とまかり通っています。
アメリカ合衆国政府は予算の規模はもちろん世界一巨額ですから、その無駄使いのスケールも小さな国の国家予算くらいになります。合衆国政府が所有するカラのビルディングだけで7万7,000棟もあるのです。全く使われていない空きビルの維持費だけで、年に1.5ビリヨンドル(1,500億円くらいでしょうか)も使っているというのです。これを無駄使いと言わずに何と言ったらよいのでしょうか。
このような政府所有の空きビルは、土地の値段がバカ高いワシントン周辺に集まっています。壮麗な旧郵便局展示場(Old
Post Office Pavilion)は、億万長者のドナルド・トランプが買い取り、その名もホテル・トランプとしてリフォームさせています。
しかし、昨年1年間で550棟の建物が売れただけです。インターネットのオークションでも売り出しているそうですから、日本からも入札してみてはどうでしょうか。
私のお姑さんがグループホームに入りました。日本でのことです。建物は元小学校で、内部をすっかり改装して、それはそれは綺麗で広々とした素晴らしい施設になりました。少子化の影響で、学校がどんどん閉鎖されるなか、老人ばかりが増えていますから、小学校を老人ホームに変身させるのはとても理にかなったことです。そのように、政府のビルディングも、その気になりさすればいくらでも利用法があると思うのですが…。
小さなことですが、お役所の無駄を抑える簡単で意表をついたアイデアを14歳の中学生が提案しました。
私の大学でも、プリンターは白黒のみ、しかもリサイクルの薄い紙に裏表両面印刷になりました。自分で印字、印刷するとき、カートリッジのインクの減りの早さに驚き、さらにインクの値段の高さにショックを受けるほどです。
プリンター本体は安く買えるのに、インクカートリッジは暴利と呼びたくなるほどの値段です。でも、一度買ってしまったプリンターはどうしても使いますから、天文学的な値段だと愚痴をこぼしながらも、使い続けることになります。
何でも、フランス香水の花といわれる『シャネルの5番』が1オンスで38ドルなのに比べ、HPのインクカートリッジのインクは、1オンスが75ドル相当になります。ほとんど倍の値段です。
そこで、ピッツバーグの中学生、スヴィール君(Suvir Mirchandani)はいかにしてプリンターのインクを少なく使うかを、実に明快に調べたのです。彼はまず、アメリカで最もポピュラーな書体を四つを選び、インクの消費量を正確に、細かく調べたのです。そして、人気のある書体、"Time
New Roman、"Century Gothic"、"Comic Sans"で印刷するのを"Garamond"の細い書体を使うとインク代が4分の3に減らすことができると…計算したのです。
それを彼の学校で実際に試したところ、本当に1年間で24%もインク代が節約でき、2万1,000ドル(210万円ほど)浮いたというのです。
アメリカ政府がプリンターで紙とインクに使うお金は、年に1億8,000万円相当になり、その内4,670万円相当がインク代なので、単純計算で行くと、公文書の書体を変えるだけで1,300万円相当を節約できるのです。
彼の研究?結果は、ハーバード大学の『技術調査ジャーナル』(Journal for Emerging Investigation)の編集者の目に止まり、しっかりとしたデーターに裏打ちされ、調査と太鼓判を押され掲載されました。
いままでプリンターのメーカーが印刷の速さと、仕上がりのきれいさ、本体の価格だけしか眼中になく、たとえ製造原価を割っても、インクカートリッジで儲かれば良いという考え方を、14歳の少年が本当に使用者の立場から調べたことにショックを受けたほどです。メーカーの放漫な態度を指摘した…と言ってよいでしょう。
私も、ついつい慣れた書体を使ってパソコンを打ちますし、そのまま印刷してしまいます。これから印刷する時には"Garamond"に変えることにします。しかし、これは言うが安し、行うが難しで、いみじくもスヴィール君、「人間の習慣を変えることはとてもムズカシイ」と言っています。
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