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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第510回:実はハデ好きな日本人…

更新日2017/04/27



日本的な感覚として、主に私たち外国人向けに、ワビ、サビ、そして幽玄、静寂のことをよく聞かされますし、それに同調するかのように、禅に打ち込む外国人も少なくないようです。私も、外国人の前で途端に張り切るタイプ、およそ日本文化論とは縁もゆかりもなく、そのような知識をまるで持たない日本人から、ワビ、サビのことを説教されるように聴かされたものです。 あれは疲れます。

私の印象では、日本人はギンギラした派手ハデしいものがとても好きだと思います。どこからワビ、サビなどという感覚や言葉が出てきたのか不思議なほどに、すべてにギンギラなのです。挙げれば限がありませんが、まずテレビのバラエティーショーのバックは趣味の悪さを競っているかのようにドギついネオンカラーで埋め尽くされていますし、ニュースショーですら、背景にはわけの分からない似非日本風の建物や庭をあしらったりしてしてます。テレビのドギついハデハデしさは、一般的に派手好きだといわれるラテン系の国々、イタリア、スペイン、フランス、そしての南米の国々を日本ははるかに凌駕しています。

そして、一歩街に足を踏み入れると、アノ繁華街、商店街の看板、ネオンの節操のなさ、互いに自分だけ目立ちたがり、それが逆効果になり、宣伝効果は相殺され、減少しているのですが、これでもかというばかりにドギつく、醜い街になっています。一種、アジア的混沌と言えなくもありませんが、その先端を行っているのが日本の街なのだと思えます。

JRの乗り放題パス(Japan RailPass)を使って駆け足で日本一周をしましたが、その時どこに行っても、駅前の風景は同じで、また駅の裏小路、夜の街のネオン風景も同じなのに驚かされました。地方性がなく、ネオン、看板、幟の旗の行列が町の個性を奪っているのです。 お祭りの山車のような街をヨシとしているとしか思えません。

日本の町は条例で、醜い宣伝看板、ネオンを規制する力がないか、弱いのでしょうね。ヨーロッパだと、どこに行っても秋葉原、新宿のようなネオンと看板、騒音に遭遇することはないでしょう。ラスベガスのストリップ大通りでさえ、日本の繁華街に比べたら、落ち着いた静かなところに見えるほどです。

私も人並みに有名な神社やお寺を回りました。千年の風月を経て、建物も風化し、仏像なども線香に燻られ続け、落ち着いた白黒写真が似合う様相になっています。ですが、よく観ると、欄間の地獄絵だけでなく、仏像そのものも金ピカ、極彩色のハデハデだったようなのです。運慶の仁王さんが極彩色に塗られていたのは確実ですが、仏像も浄土真宗だけでなく、当時はすべてギンギラだったと言ってよいでしょう。禅宗だけは道元さんが生きていた時までは、キンキラを嫌っていたようですが…。

元々、日本人はキンキラが大好きで、ハデハデしいのを最高とする、ヨシとする文化が根底にあるように思えます。そのキンキラ文化が太古(これはちょっと大げさですが)や中世から日本全土を覆い尽くしていたから、その反動と言って許されると思いますが、ワビ、サビに向かう心が生まれたのでしょう。

もっとも、そのような幽玄に触発され、文学、絵画を残した人たちは極めて少数で、いわば文化的エリートだけが、枯淡の境地に達することができ、理解できたのでないか…と想像しています。

どこの国の文化においても同じような現象が見られます。たとえば、ピカソが偉大であることは誰しも認めますが、彼の一作品を観て、彼の芸術を理解し、偉大さを感じ取れる人は少ないのではないでしょうか。ピカソの絵を子供の悪戯画きだと思うのは当然で、自然なことです。先進的文化というものは、そのような運命を背負わされているようなのです。

日本のハチャメチャな派手好み文化とワビ、サビを好む心とは、なんら矛盾するものではない…と思います。

 

  

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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