第501回:女性の行進~Woman's March、アメリカはどこへ行く…
1月20日、トランプ新大統領の就任演説の翌日、21日に大きなデモ行進、それも女性ばかりの(少数の男性もいましたが…)
デモ行進が行われたことは、東京でもデモ行進があったと言いますから、日本のニューズにもなったことでしょう。
何でも、マーティン・ルーサー・キング博士が表に立った市民権運動以来の大規模なデモ行進だったといいます。それが、市民権運動の時のようにワシントンだけではなく、世界中の673都市で繰り広げられ、総計500万人を超す参加者があったというのですから、歴史的なデモ行進と言っていいでしょう。
アメリカ以外の国にも広がり、カナダの29都市、メキシコでも20都市で行進があり、とりわけパリでは大規模な行進が繰り広げられました。
私の勤める大学のある人口10万人少々の町でも、記録的な参加者を集め、目抜き通りをデモ隊が埋め尽くしました。
この"ウーマンズ・マーチ"は早く言えば、アンチ・トランプ運動で、トランプ大統領がそんな女どもの"おXXXを握りつぶせ"と言ったことに対する女性運動です。
ユーモア溢れるプラカードを掲げ、ピンク色の"おXXX帽子(Pussy Hat)"を被った行進は到って平和的なものでした。トランプ大統領を殺せ、引きずり降ろせといった過激なプラカードは全くなく、そんな行進に対するトランプ・サポーターや右翼の殴り込みもありませんでした。
ロスアンジェルスやサンフランシスコのデモ行進には有名な歌手や女優がたくさん参加し、昔なつかしいジェーン・フォンダ、ジョーン・バエズからビアンセ、エマ・トンプソンまでまさにオールスターキャストで、おそらくこの日、撮影所は閉鎖したのでは…と思わせるほどでした。
市民権運動やベトナム反戦デモ以来最大だった、これほど大規模なデモが実際にどのくらいトランプ大統領の政策に影響を与え、世論を動かしたか…と言うと、おそらく全くと言って良いほどゼロに近いでしょう。悲しい現実ですが…。
一つ、大きな反動的収穫があるとすれば、それはトランプ大統領が過剰に反応し、そんなデモ行進は今後一切禁止すると言い出したことでしょうか。表現の自由を規制するような法案が提出されれば、より大きな市民運動に発展する可能性があり、トランプさん自分で反トランプ運動に火を付けることに繋がるかもしれません。
すべては、トランプを大統領に選んだ、または大統領になることを許してしまった私たちの責任なのです。いかにアンチトランプの世論があろうとも、彼を支持しているアメリカ人が大勢いるのです。
メキシコとの国境に設けるトランプウォールの建設を支持するアメリカ人が、51%もいるという世論調査の結果にはショックを受けました。私の周りにいる大学関係の人たちは、程度の差こそあれ、こぞってアンチトランプばかりですが、それは私自身がとても狭い、限られた範囲で生活しているからで、私の知らないところに、広く大きなトランプ支持層がいるのでしょう。
私というより、ウチの仙人のほうは、非常に保守的なトランプ支持層、主に私たちが住んでいる周囲の牧場主や牧童たちとも仲良くやっています。彼に言わせれば、「今、日本と戦争しているわけでないし、革命をオッパジメルわけでないんだから、政治的な主義、主張がその人間の中に占める割合なんて知れたもんさ…」と言うことになるのですが、彼らがオバマ前大統領をサルかゴリラのように戯画化したステッカーを張ったトラックを乗り回しているのを見ると、私はどうしても腰が引け、構えてしまうのです。
ここに越してきた当初、私は本気で有色人、しかもパールハーバーに奇襲をかけた憎むべきジャップがこんな保守的な土地で安全に暮らせるものかとても不安でした。ウチのダンナさんがこの台地に住み込んだ、…侵入してきた、おそらく初めてで、唯一の白ンボウでない人種だからです。
私の心配をよそに、ダンナさんは飄々として近所の牧場主や牧童たちと付き合い、今では私の目からみれば、ほとんど人気者のような存在になっているようなのです。いつでも使っていいよとばかり、トラックの鍵を預けられたり、猟銃を弾つきで気軽に貸してくれたりするのは、兄弟、親子のような、余程信用してる人にしかしないことです。
過激なくらいのアンチトランプで、社会主義的なダンナさんが、近所の超保守的な人たちとも仲良くやっているのを見るのは不思議な光景です。きっと全く違った角度から人間を観ているのでしょう。
この高原台地に住んでいる人たち、主に牧場関係の人たちの大半は勤勉な働き者であり、昔ながらの生活パターンを繰り返している保守的な人たちです。私が狭い大学という環境にどっぷり浸かっているように、彼らも自分の生活に目いっぱいで、おそらく新聞など(ここまで新聞の配達はありませんが…)読まないし、テレビのニューズも保守的なチャンネルFOXしか観ないのでしょう。
アメリカはトランプが大統領になってから、ますます両極端の二つに分かれていく傾向が強くなったように思えます。両サイドとも相手の言うことなど聴かなくなってしまい、非難合戦ばかりしているのです。民主主義は、オオット、柄にもなく大上段に構えてしまいましたが、少数意見、少数派の尊重が根底になくては成り立たない…と思うのです。
アメリカが悪い方向に進んでいると思っている人が、85%もいるという世論調査の結果が出ました。長い歴史の中で、アメリカンドリームを追い、楽天的に明るい未来を見るのがアメリカ人の特徴でした。ところが、85%の人が国、そして自分の将来に不安を抱いているというのです。85%ですから、その中にかなりの保守、右派のトランプ支持者もいることになります。
二極化が進むアメリカ、いったいどこに行き着くのでしょうか。私自身もアメリカが悪い方向に進んでいるように思えます。
どうにも、トランプ大統領、そしてアメリカの将来を思うと感情ばかりが先に立ち、とりとめもないことを書いてしまいました。
第502回:アメリカの階層社会
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