■拳銃稼業~西海岸修行編

中井クニヒコ
(なかい・くにひこ)


1966年大阪府生まれ。高校卒業後、陸上自衛隊中部方面隊第三師団入隊、レインジャー隊員陸士長で'90年除隊、その後米国に渡る。在米12年、射撃・銃器インストラクター。米国法人(株)デザート・シューティング・ツアー代表取締役。


第1回:日本脱出…南無八幡大菩薩
第2回:夢を紡ぎ出すマシーン
第3回:ストリート・ファイトの一夜
第4回:さらば、ロサンジェルス!その1
第5回:さらば、ロサンジェルス!その2
第6回:オーシャン・ハイウエイ
第7回:ビーチ・バレー三国同盟
第8回:沙漠の星空の下で
第9回: マシン・トラブル
第10回: アリゾナの夕焼け
第11回: 墓標の町にて
第12回:真昼の決闘!?
第13回:さらばアリゾナ

■更新予定日:毎週木曜日

第14回:キャラバン・ターミナル

更新日2002/06/13 


大変お世話になった賑やかなジョン一家と別れて、また一人旅の始まりだ。ポケットからアメリカでの初仕事の報酬を出して見ると、全部で$120あった。一緒に入っていた明細書には「$100+$20」と、適当なことが書いてある。それがいかにもジョンらしい。成り行きとはいえ、これを異国での初めての給料と考えれば、自分もアメリカで生活できるのだ、という自信が湧き出てきた。

とりあえずバス・ターミナルで、南部行きのキップを買おうとすると、なんとタイミングの悪いことに、グレイハウンドの長距離バスの組合が、この日から無期限のストライキに突入していたのである。運行はいつ再開されるのかも分らないという。つまり、今後の移動手段は、自力か飛行機に限定されてしまったのである。バイクを売ってしまった昨日の自分を責めたが、すでに遅すぎた。

ガックリとベンチに腰を落とすと、私と同じような状況にある人たち2、3人が、ダンボールの切れ端にマジックで自分の行き先を書いて道路沿いに立っているのが見えた。米国でもグレイハウンド・バスを利用する人たちは、自分で車を持てない低所得者の割合が多いようで、L.A.で見た客層とそれほど相違がない。

しばらく、そのヒッチハイクの様子を見ていたが、やはり予想通り車は簡単に止まってくれそうになかった。女性ならともかく、男や身なりが悪い人にとって、ヒッチハイクは至難の業である。そんな時、頭の中で素晴らしい名案が電光の如く閃いた。近くのコンビ二へ行き、ツーソンの市街地図を1ドルで購入した。そして向かった先は、長距離トラック・ターミナルである。

今までに米国内を走ってきたが、鉄道が全土をカバーするのは困難なこの国では、輸送手段として大型トラックによる需要はかなり多いらしく、どこの道路でも見ることができた。だから私一人くらい乗せてくれるドライバーは、簡単に見つかるのではないかと思ったのである。

夕方頃、ツーソン市内から歩いて1時間位の所にある巨大なトラック・ターミナルに到着した。予想通り色々な会社のロゴが描かれたトレーラーを繋いだ18輪の大型トラックがたくさん並んでいた。ディーゼル給油のステーションや洗車場、カフェもあり、ドライバーには憩いのオアシスのようである。

トレーラーを引っ張るトラックが、これまた極めて個性的で、女性のセミ・ヌードや馬の絵、火の鳥など派手な彩色を施しているものまであった。これは、日本で見られるネオンに彩られたギラギラ大型トラックとは対照的である。トラックのナンバープレートもまちまちで、全米各地の州から来ている様子である。

私は、まずターミナル内のドライバーが集まるカフェに行くことにした。飾り気のない殺風景な店内は、トラック関係の掲示板やCB無線機、トラック用カスタム・パーツの個人売買の情報などが、ところ狭しと貼られている。売っている食べ物は、サンドイッチなどの至ってシンプルな物が多く、私もチリ・ビーンズのスープとホットドックとコーラを注文して、食べながらドライバーとの交渉機会を待っていた。

夕方とはいえ少し早かったのか、カフェには人影もなく、ひっそりとしていた。食事を終えた頃、一人の小柄な若い白人のドライバーが入ってきたので、まず挨拶をして行き先を聞くと、LAに行くという。LAに戻っても仕方ない。だがこの調子でコンタクトタクトを重ねれば、いつかは東に行く便が見つかる予感がしてきた。

それからは、彼から色々な情報を集めることができた。例えば、二人組みのドライバーは1,000キロ以上の長距離を交代で移動していることや、一人の場合は、800キロ以下の移動、スキンヘッドはホモのドライバーが多いので注意することなどを教わった。

夜7時頃からは、次第にドライバーの数が増えてきた。なるべく長距離の二人乗りチームに声をかけてみるが、怪訝な顔をされてしまって、相手にされないことが多かった。

しばらくして、私の後ろの席にいたグループが、南部のアラバマ州まで行くらしいと耳に入った。早速、じかにコンタクトしてみると、真面目そうな白髪の中年ドライバーは、ヒッチハイクは違法なので警察に捕まるぞ、と逆に説教をされてしまった。

「ここは、ドライバー専用のカフェだぜ、部外者は出て行け!」と大声でまくしたてられた。カフェの中でそれを聞いた他の数人のドライバーが私を、ただ乗りにきたセコイ外国人めと、冷たい視線と罵声を私に浴びせてきたのだ。

私もただで乗せてもらおうとは思っていなかった。交渉して相応の料金を支払う気持ちだったのである。しかし今は、かなりやばい状況だったので、一度ここを離れ、出直そうと席を立ち、罵声の中を足早に出口に向かった。

その瞬間、私の背負っていたリュックを、ドライバーの一人につかまれてしまったのである。

 

 

第15回:コンボイ・スピリット その1