第10回:他人が行かないところに行こう(前編) 更新日2005/12/22
2005年12月現在、ミンダナオ島の大部分には外務省から"渡航の延期をおすすめします"が出ている。ミンダナオ最大の街ダバオでも"十分注意をして下さい"。昨年8月に訪れたときは、島の大部分は"渡航の是非を検討して下さい"だったような気がするが、渡航の延期をすすめられるのも是非の検討をうながされるのもさしてかわりはないと思う。
アジアで唯一のキリスト教国フィリピンにおいて、住民の9割がイスラム教徒であるミンダナオ島。比較的安全なダバオでも、2003年3月には空港で、今年2月にもバスターミナルで爆弾テロが起きている。前者ははモロ・イスラム解放戦線(MILF)、後者はアブ・サヤフ・グループ(ASG)による犯行とみられている。
今年6月に旧日本兵発見のニュースにわいたゼネラルサントスで、つい最近日本人観光客が遺体で見つかった。どうもこれはテロではなく、強盗殺人であるようだ。
とにかくいずれにしても、ミンダナオ島は他人におすすめできるような観光地ではない。しかし、行きたいものは行きたい。日本人が残した足跡があり、少数民族がいる魅力的な島は他にはない。ダバオにはかつてアジア最大の日本人町があった。そして、その周辺にはいまだ15もの少数民族が住んでいる。おまけにサンボアンガではスペイン語が話されているという。すべてのスペイン語圏へ到達したい私としてははずせない島なのである。
ダバオ周辺の少数民族
危険度が高いところを旅するにはそれなりに頭を使う。事前の情報収集は怠らない。普段はなるべく陸路移動をするのだが、ゲリラが潜んでいる山間部があまりに危ないため、行き先はダバオとサンボアンガのみに絞り、その間は空路で移動することにした。
マニラから朝一番の便でダバオに降り立つと、もうそのとたんにドリアン臭い。ミンダナオはフィリピンで唯一果物の王様ドリアンと女王マンゴスチンがとれる島だ。さすがにここまで南下すると植生も違ってくるのだろう。ポメロというザボンのような柑橘類やジャックフルーツとドリアンを足して割ったようなニオイパンノキなど、ルソン島に比べるとミンダナオ島のほうが断然果物の種類が多い。
ダバオもサンボアンガも国際空港なのだが、海外への航路は唯一マレーシアだけ。ミンダナオ島はマニラよりもはるかにマレーシアのほうが近い。人々もマレー系の顔つきをしている。ダバオには日本と韓国から持ちこまれた古着の店が多い。みやげもの屋には、サンボアンガのヤカン族の織物やダバオ周辺の山岳民族の衣装とともに、マレーシアから来たとおぼしき、バティック調プリント地のものが多く並ぶ。ショッピングモールで妙な日本語のプリントされたTシャツを見つけた。そんな人をおちょくったものはタイ製である。
ダバオに着いたのはあいにく日曜日で、出張駐在官事務所は閉まっていた。観光案内所なんて気の利いたものは元からない。ガイドブックを頼りに日本料理店を探してはみたものの、一軒はつぶれ、もう一軒は地図上の場所になかった。店もろくに開いていない週末の町はゴーストタウンのようだ。ありがたいことに中華料理店は開いていた。小さなピラミッドみたいにドリアンを積み上げた店を見つけ、ニつ買った。大して好きでもないのだが、ここまで来たからには食べずに帰るわけにはいかない。濃厚な味と匂いがした。
アクセスできるところもあるだろうが、概して少数民族が住んでいる山間部は危ない。日系人も多く暮らしているだろうがやはり接触できる場所がよくわからない。しかたなく博物館に行ってみた。首狩をする部族やラジオ体操をする日本人の子供の古い写真がかかっていた。バスから見えた立派な建物には、日本語でミンダナオ国際大学と書かれていた。
ダバオのたこ焼き屋
日本人、日系人のいるところには必ず日本食がある。しかし、その多くが現地でのアレンジが加わった似て非なるものである。ダバオでは、なんちゃってたこ焼きを見つけた。4つで40ペソ(80円)とそれなりに高いが、たこは入っていない。かかっている赤いソースは甘い。フィリピン人の大好きな赤いウィンナーやスパゲッティのミートソースと同じ甘さの正体は、バナナの入ったケチャップである。バナナケチャップのたこなしたこ焼きには、ココナッツジュースがよく合い、これはこれでおいしかった。日本ではどうあれ、ここの人たちにとってはこれがたこ焼きなのだ。
滞在時間の長さに比例していろんなことが少しずつわかってくるのだが、残念ながらもつれた糸をすべてほぐすほどの時間はなかった。わずか2日で少数民族にも日系人にも会うことなく、ダバオを後にし、次の目的地サンボアンガへと向かった。
-…つづく
第11回:他人が行かないところに行こう(後編)