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■インディアンの唄が聴こえる
 

第1回:消えゆくインディアン文化  【新連載スタート】

更新日2023/01/12

 

どこの国、民族の歴史でも、偉大な伝説、神話を持っている。と同時に、触れられたくない歴史は汚れた洗濯モノのように置き去りにされ、忘れ去られる。戦争を語るのは常に勝った側であり、その戦勝国、民族がその戦いに勝つために行ったありとあらゆる虐殺、裏切りは正当化される。

No.1-01
インディアン大量虐殺の象徴的事件、“サンドクリークの虐殺”をイーグル・ローブが130年後の
1994年にバッファローの皮に描いたもの。彼の曽祖父はこの虐殺から辛くも生き残った一人だ。
裸で殺されたインディアンたちの股の部分が赤いのは、騎兵隊に性器を切り取られたからだ。

現在、“戦争に負けてよかった”と信じている日本人が圧倒的多数だと思う、その中でも特に、ソビエト・ロシアではなく、アメリカに占領されたのを是とする日本人が100%近いのではないか。だからと言って、広島、長崎への原子爆弾投下をヨシとするべき筋のものではない。ところが、アメリカ人の大半は、あれはそこの住民には可哀想なことをしたが、戦争を早く終わらせるために原爆投下は必要だった、戦争を終わらせたことで、その後の膨大な数の命を救ったことになった、と信じている。戦勝者は常に自己を正当化する権利を持つものだ。

今では、十字軍の派遣が正しい遠征だったと考えているキリスト教信者はいないだろうが、キリスト者の多くは十字軍が行った殺戮、略奪、強姦を単なる歴史の1ページとしか捉えず、そんなこともあったか、というほどにしか考えておらず、それが自分の信神になんら影を落していない。正義はキリスト者にあり、ほかはすべて邪教であり、殺し、抹殺するしか値しないと取っているとしか思えない。

私自身、アメリカの中西部が好きで、日本から、あるいはヨーロッパの旅行から、ここに帰り、コロラド州の森の我が家に帰った時、大きな空、澄んだ空気、豊かな自然が身体全体に沁み入るようにリラックスでき、こここそ我が土地だと深い喜びが湧く。

しかし、この土地もインディアンのハンティング・グラウンドだったのを、合衆国政府が西部開拓のため、土地を無償で分け与える法律 “ホームステッド”(Homesteading Act)で土地の所有観念のないインディアンから取り上げた広大な草原、高原、山だったところだ。

放牧している牛が私たちの土地に侵入し、糞を垂れ流すので、隣人のバッドと牛の侵入を防ぐバラ線フェンスを張リ巡らせている時、ほぼ完全な形のヤジリを見つけたことがある。今住んでいる森は、インディアンの格好の狩猟場だったのだ。

この台地は春先、平原から山に帰る動物たち、鹿、エルク、狐、兎、七面鳥などの通路に当たるし、晩秋には彼らが雪深い山から降りて平原に帰る前にこの台地に立ち寄るから、年に二度、絶好の狩猟場になっていたに違いない。

ニワカ知識で調べたところ、見つけたヤジリは、型からすると“ヤノ型”のもので(ヤジリは大雑把に分ると、フェルサム、プラノ型に分けられる)、ヤノ文化は1万2千年から約1千年ほど続いたとみられる。私たちが見つけたヤジリは弓の矢につけるモノではなく、槍の先に付けられた頑丈な大型のモノで、当時まだ生息していたマンモスのハンティングに使われていたものらしい。

ということは、私たちが住んでいるこの土地にマンモスがいたことになるのだろうか。強大なマンモスに蟻のように群がったインディアンはこんなヤジリの付いた槍を投げ、何本、何十本と刺し、マンモスを殺したのだろうか。   

ヤノ文化の時代に、すでに“アトラトル”と呼ばれるフックの付いた棒に槍を引っ掛け、いわば腕の延長として使っていたことが知られている。アトラトルいう棒の長さだけ、腕が長くなり、飛距離も伸び、威力が増すことになる仕掛けだ。

一個のヤジリを偶然見つけただけで、特別インディアンの遺物、道具、民芸品に興味を持っていたわけではないが、このヤジリが想像を呼び寄せた。しかし、このヤジリを作り、使ったヤノ文化を造り、生活していた原始インディアンは、マンモスが絶滅したのと前後して消滅したと思われる。

私たちが住む台地を降りたコロラド川沿いに恐竜の骨が結構たくさん発掘され、フルータという小さな町には恐竜博物館まである。小中学生たちが宝探しのように恐竜の骨の発掘をフィールドワークとしてやっている。

すべてはコロンブス以前も以前、1万年以上前のことだ。
コロンブスが1492年にアメリカを(カリブの島だが)を発見?した時、どのくらいのインディアンと呼ばれる人たちが住んでいたかは推測の域を出ない。北アメリカだけで6,000万人は住んでいたという“ドビンズの推定”から、否、420万人程度だろうと言う“クローバーの推測”まで、10倍以上の開きがある。

コロンブス以前のインディアンの生活様式、原始的な農耕や狩猟で得られる食料の限度、疫病、部族間の戦争などから算出した平均寿命の短さなどを考慮しても2,000万人は下らない、それどころか4,000~5,000万人のインディアンが住んでいたはずだとする学者が大勢を占めるようになってきた。

ところが、1492年のコロンブス到来以後、その80%は虐殺、病疫で死滅しているのだ。合衆国が成立し、南北戦争後の1890年の国勢調査では24万8,000人のインディアンしかいなくなっている。これはアメリカだけの調査で、メキシコ、カナダ、中南米は含まれていないにせよ、歴史的な恐るべき大量殺戮が行われていたのだ。

しかも、虐殺は組織的に継続されてきた。ナチスの行ったユダヤ人収容キャンプ、アウシュビッツのようにグラフィックなイメージではないにしろ、ジワジワとインディアンを追い詰め、ヨーロッパから持ち込んだ病疫の蔓延を防ごうともせず、強制的に長距離を移動させ、劣悪な条件で狭い地域に押し込め、絶滅を図ってきた。その復讐としてコロンブスにお土産の“梅毒”をヨーロッパに持ち帰らせたのではないだろうけど…。

 

 

第2回:意外に古いインディアンのアメリカ大陸移住

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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