寝過ぎちゃって電報まで来たんです

N :売れっ子で超多忙なのに、東京から離れた横浜に事務所を構えたのは?
安斎:一言で言うと仕事が嫌いなんでしょうねー、はっきり言って(笑)。
家と事務所の両方が都内にあったときは、一日中電話に出て、家に帰っても30分くらい寝たらまた仕事で・・・。家にも電話かかってくるし、当時は黒電話で留守番電話なんて便利なものも付いてなかったでしょ? その頃、井上陽水さんが、冷蔵庫の中に電話をしまうCMを見て「これだーッ!」て思ったんですね。電話の線を引っこ抜いて、完全に無視した。電話に邪魔されずによく眠れたんだけど、寝過ぎちゃって、起きたらまわりがえらいことになっちゃってて、終いには電報までくる始末で。これはよくないなーと。
それで、住む所を遠くすればみんなあきらめるんじゃないかと思って引っ越した。これでずいぶん楽になったんで、なーんだって思って、この際事務所も遠くしたらもっとみんなあきらめるんじゃないかって(笑)。でもあんまり遠くすると「やめたんじゃないか」って思われるので、横浜にしました。休みの日にぶらぶらすると気持ちいいですよー。

N :横浜は、よりみちするところも多そうですね。
安斎:いくらでもよりみちできますよ。よりみち天国。
横浜は、味のある店も多いですね。マスターがお客さんの酔い加減とか見て、おあいそを勝手に決めちゃう店とか。はじめて行った人には怖いマスターですけど、顔なじみになるとすごく歓迎してくれるんです。横浜の人は、仲間意識が強くて、ほんとに大歓迎してくれます。嬉しくなっちゃいますよ、そういう意味では下町と似てるかもしれない。おもしろいですよ。

N :楽しい場所に仕事場があると、仕事と遊びの切り替えが難しいような気がしますが・・・。
安斎:遊びが仕事、仕事が遊びっていうのは理想的な形ですよねえ。
だって、仕事でぐち言う人はいても、遊びでぐちはないでしょ? 「いやあ、もう昨日キャバクラでくたくた」なんてねえ。
仕事が遊びって言いきれるようになったらすごいなって思うんですけど、それは永遠に一緒にならないものですよね。それにあそびが仕事になっちゃった人ってもうつまんないと思うんですよね。今まで遊びでできたことなのに・・・って。
自発的にやってることが仕事になると、すごくうれしかったりすると思うけど・・・、あれ? でも僕、自発的に仕事はやってる――、だから仕事は遊びなのかもしれない。
昔は、仕事は名を成したり、財を成したり、そのことが社会の役に立ったり、男としては仕事はそうじゃなきゃならん! とおそわってきてる。でもほんとは興味ないですよ、ぜんぜん。一番になりたいとも思わないし、それより楽しいほうがいいし・・・。


その場でさらさらと描いてくれた「のらり」編集部への怪作!?
伝説とはいつもすれ違っちゃう

N :安斎さんは、どんなことをして遊んでいるんですか?
安斎:最近は、ワールドカップのサッカーで頭がいっぱいです。

N :あまり体育会系のイメージがないんですが、安斎さんもサッカーするんですか?
安斎:やんないんですよ、そこが痛いところなんです。
でもさあ、変だなと思うんですよ。相撲を語る人が、みんな相撲やっているわけじゃないでしょ? サッカーを語る人って未経験者の話あまり聞かないんですよねー。
だから僕は、サッカーをさほどできない人間が楽しむ程度の感じですけどね。なによりもみんなで見に行くのが好きです。サッカーの後でみんなで集まったりして、すっげー楽しいんですよ。最初のころは、気がついたら生ビール12杯ぐらい飲んじゃって、試合終わった途端にゲロ吐いてましたから(笑)・・・そうなるとだめですけどね、もう。

N :試合観戦中は、声を出して応援するんですか?
安斎:昔は、すごい野次ってましたよ。「ハゲッ!」とか「デクノボウッ!」とか言って、ハゲまして(笑)。でも、立派な選手には、全面的になんでも拍手ですよ。

N :ワールドカップクラスの選手だと、拍手喝采ですよね。ところでワールドカップのチケットは?
安斎:知り合いの当ったチケットで見に行きます。
僕は、昔からいろんな伝説の場面をあっさり見逃しているんですよ。
コンサートで言えば、ボブ・マーリーが日本に来たときのライブも、デビット・ボウイが山本寛斎の衣装着てやったときも、グランド・ファンク・レイルロードが後楽園でやったときも見てないんですよ。全部すごいそばにいたのに見逃しているんですよー。後で聞いて「そんなすごいことになったのかいッ!」って。
ああいうのを見てる人と見てない人の差ってすごい大きいんですよぉ。チャンス逃したんだって思うとがっかりしちゃって。
伝説を作ろうとは思わないけど、今度こそ伝説に立ち会いたいですね。


僕達だけたちの悪いちびっこみたいですよ


崖っぷちオヤジ
新中年四人組が非常識ラインを決定する「日本崖っぷち大賞」
写真は、「崖っぷちオヤジ」
の表紙(毎日新聞社刊)
N :羨ましいです! サッカー以外の遊びはなにかやっていますか?
安斎:あと、バンド活動もやってます。ひとつは「チョコベビーズ」っていうなんちゃってバンドで。もうひとつは、みうらじゅんくんと一緒に地方に行って「ご当地ソング」を作って歌うK・K・K(「勝手に観光協会」の略称)ってユニットです。

N :みうらじゅんさんをはじめ、安斎さんのまわりの方もユニークですよね。
安斎:まわりも変わってますよー(笑)。
イベントに参加するために、みうらじゅんくん、山田五郎さん、泉麻人さんと新幹線で移動したんですけど、名古屋が体力の限界ですね。喋りすぎて(笑)。みうらくんなんてずーっと喋ってますから。イベントもなにもその前にパワー使っちゃって。グリーン車で、まわりはビジネスマンばかりでみんな寝てたりとかして静かなんですけど、僕達だけたちの悪いちびっこみたいですよ。

N :今後の活動で考えてらっしゃることってありますか。
安斎:自分から発表できるようなものをやっていけたらと思うんですよ。
僕は、きっと頼まれればなんでも描いちゃうんですけど、僕が描かなきゃいけない絵、僕が自分から描きたいと思ってる絵を見てもらえるような展覧会とか、自分が着たいと思うTシャツをつくっていくとか、オリジナルにこだわっていきたいです。自分がいいと思っているものをそのまま発表できる環境を自分でつくっていけたらいいなー。あっ、あとこれからご飯食べに行きます。
N :すっごく楽しみにしています。
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