■感性工学的テキスト商品学~書き言葉のマーケティング

杉山淳一
(すぎやま・じゅんいち)


1967年生まれ。信州大学経済学部卒業。株式会社アスキーにて7年間に渡りコンピュータ雑誌の広告営業を担当した後、'96年よりフリーライターとなる。PCゲーム、オンラインソフトの評価、大手PCメーカーのカタログ等で活躍中。


第1回:感性工学とテキスト
第2回:英語教育が壊した日本語
第3回:聞くリズム、読むリズム
第4回:話し言葉を追放せよ
第5回:読点の戦略
第6回:漢字とカタカナの落とし穴
第7回: カッコわるい
第8回: 文末に変化を
第9回: "冗長表現"が文章を殺す
第10回:さらば、冗長表現
第11回:個性なんかイラナイ!
第12回:体言止めは投げやりの証拠
第13回:主語と述語のオイシイ関係
第14回:誰のために記事を書く?
第15回:ひとつのことをひとつの文で
第16回:しつこいほうが好き。
第17回:コノときアレのドレがソウなる?
第18回:強い文は短い

■更新予定日:隔週木曜日

 

第19回:“表記ルール”を作ろう

更新日2002/11/21


年賀状を用意する時期ですね。総務省の発表によると、電子メールが普及したため“お年玉つき年賀はがき”の発行枚数は年々減少しています。しかも“インクジェット用はがき”の販売比率が増えているそうです。インクジェット用のはがきは、カラープリンタのインクがにじまない紙で作られています。インクジェット用のほうが、デジカメで撮影した画像をきれいに印刷できますね。パソコンで年賀状を作る人が増えている証拠です。お茶の間のIT革命は着々と進行しています。

さて、みなさんはパソコンで年賀状を印刷するとき、どんな周辺機器を使いますか?

 “プリンタ”ですか?
 “プリンター”ですか?
 “小型印刷機”ですか?
 “紙用出力装置”ですか?
 “プリンティングデバイス”ですか?

たいていの人は“プリンター”か“プリンタ”を使いますね。え? どっちだって同じじゃないか? そうです。上の5つはどれも同じモノを指しています。しかし、文章を書く上ではきちんと使い分けるべきです。同じ文章の中で、語尾を伸ばしたり、伸ばさなかったりすると、なんとなく雑然とした印象になります。たかが“プリンター”と思わないでください。語尾の有無に無神経な人は“コンピュータ”、“プロバイダ”、“スピーカ”、“メモリ”なども“ー”を付けたり、付けなかったりします。どちらが“良い”とか“悪い”という話ではなく、“統一しましょう”という提案です。

ちなみに、雑誌やマニュアルでは、語尾を伸ばさない表記が広まりつつあります。なぜなら“禁則処理”の手間が省けるからです。禁則処理とは、行の1文字目に“ー”、“っ”、“ゃ”、行の最後に“「”などの文字が来ないように整形することです。禁則処理をしない文章は読みづらいですね。しかし、禁則処理をすることで行ごとの文字数が変わり、文字間隔が不ぞろいになって、それもまた読みづらさの要因になります。語尾を伸ばさない言葉を使えば、禁則処理の悩みは解消されます。

使い分けたい言葉は、語尾の有無だけではありません。例えば“パソコン”と“PC”、“ウインドウズ”と“ウィンドウズ”と“Windows”など、同じモノに対して複数の呼び名がある場合は揃えたほうがスッキリします。むしろ、揃えないと誤解の元になるかもしれません。

たとえば“パソコン”と書いた場合、Windows搭載パソコンを持っている人は、“パソコン”という文字を読んで“Windows搭載パソコン”だと認識します。しかし、Macintoshを持っている人では、“パソコン”を“Macintosh”だと認識するはずです。書き手は同じものだと思っていても、読み手によって違うものが想起されます。

例えば日記で、

・新しいパソコンを買った。……(中略)……寝る前にMacでメールチェックした。

この文章を読んで“パソコン”と“Mac”が同じものだと認識できない人がいるかもしれません。書き手にとって“パソコン”の種類を問わない話なら、そのまま“パソコン”と表記し続けましょう。途中から表記を変えると混乱する場合があります。

同じ文章で表記方法がバラバラになってしまわないために、自分だけの“表記ルール”を決めておくと便利です。私の表記ルールは

・カタカナの語尾は延ばさない。
・単語の強調は 「」 ではなく “”で。
・鍵カッコ 「」 は人の会話だけに使う。
・分数の表記は 1/3 (3分の1はダメ)。
・“他の”はダメ。“ほかの”と書く。
・主にという意味の“メイン”は“メーン”と書かない(新聞社は逆です)。

などをテキストファイルに列挙しています。迷ったらそれを見て修正します。自分で基準を作っていない事項は、国語辞典に従っています。国語辞典は出版社によって表記ルールが異なるので、自分の文章の書き方に合った辞書を選びましょう。

 

→ 第20回:文章は誰のものか?