第624回:旅行鞄の置き所 - 急行はまなす 1 -
藻岩山を降りて、路面電車で西4丁目に着くと、景色が煌めく。路面が濡れて明かりを映し、すべての明かりが倍の数になっていた。大通りをすすきの方面に少し歩いてみた。この道に路面電車が走る予定になっている。軌道の敷設工事はまだだけど、センターラインに工事期間を知らせる看板が立っていた。先に電気設備工事を実施しているようだ。レールを作る前に、いろいろ準備が必要らしい。
地上の夜景もきれいな札幌の街
大通公園駅から地下鉄東西線に乗って終点の宮の沢駅まで往復した。琴似~宮の沢まで、未乗区間をひとつ消化した。地下区間ばかりで景色が見えないから、夜でもいいと思ったからだ。
ちょっと地下鉄路線を消化
しかし宮の沢に着いてみれば、駅付近に白い恋人パークなる施設がある。札幌土産で知られる白い恋人の博物館らしい。途中に円山公園という駅もある。見てみたかった。もっとも、100万人都市には見どころも名所もたくさんあるだろう。欲張るとキリがない。大型スーパーを見つけて、地元ならではのものがあるかと食品売り場を視察する。東京と同じものばかりだった。
地下鉄東西線の終点、宮の沢付近
21時過ぎのJR札幌駅は人通りが多い。駅弁屋の在庫は少なく、土産屋も賑わう。いまから新千歳空港へ行っても最終便に間に合わない。この時間に土産を買う人は22時発の青森行き急行はまなすに乗る人だけだろう。大きな袋を抱えた人とすれ違いながら、私も菓子などを買う。
見渡したところ、鉄道ファンらしき姿は少ない。はまなすの廃止は1年後、来年春のダイヤ改正だ。まだお別れ乗車の時期ではないらしかった。週末にかからない平日の夜だからかもしれない。発車20分前の4番ホームも人影は少なかった。自由席車両の停車位置付近に並んでいる人が見える。私はB寝台車だ。そもそも乗車定員も少ない。
まもなく、急行はなます入線
列車到着の放送があって、21時43分にはまなすが入線した。先頭は青い凸型のディーゼル機関車DD51、1083号機。直後が車掌室付き座席車のスハフ14だ。青函トンネルに入るときは、こちらが最後尾になる。車端部の貫通扉の窓から外が見えるとSさんが教えてくれた。楽しみだな、と思いつつ後ろへ進むと、扉が閉まっていて、この車両には乗車できないという貼り紙があった。電源車の代わりに連結しているだけだという。
ヘッドマーク付き、最後の定期急行はまなす
客車は電車と違って非電化区間も走る。電化区間でも架線から電源を取れない。そこで、照明や空調などの電力を供給するために発電機付きの車両を連結する。発電機付き車両には大きく分けて2種類あって、発電機だけを搭載した電源車と、床下に発電機を搭載した客車がある。
電源専用車のほうは大きな発電機を積むから、北斗星やカシオペアなど長大編成の列車に1台連結する。床下発電機の車両は発電量が少ないから短編成の列車に1台、長編成の列車の場合は複数を連結する。行き先が異なる編成を連結して走らせる場合に、それぞれの編成に床下発電機の車両を連結する。便利だけど、客室に微振動や騒音が伝わりやすいとも言われている。
電源車だから乗車できません……
今日のはまなすの場合は、電源用車の後ろがB寝台車2両、自由席車、カーペットカー、指定席車2両、自由席車1両だった。最後尾の自由席車も電源搭載車だった。ただし、この車両の電源供給力は6両で、今日は7両編成だから1両分足りない。だから電源用として1両を追加したわけだ。締め切らずに自由席として運行してもよさそうだけど、どんな事情があるだろうか。
私の寝台は2号車11番下段だ。下段は窓から景色を眺められる。車両内を動きやすい。上段は窓がない。しかし床から遠いぶん静かだ。そして、通路の上に当たる屋根裏に荷物を置けるという利点がある。私は下段が良かったけれども、荷物の置き場に困った。そういえば久しぶりの開放型2段寝台だ。以前乗ったときは……そう、2006年2月。寝台特急出雲だった。ちょうど6年前だ。それ以降、寝台列車はB寝台個室に乗っていた。開放寝台と同じ値段だったからだ。
こちらは最後尾
個室なら荷物置き場に困らない。しかし開放寝台下段は荷物置き場がない。どうしたものだっけ。ベッドの下に置けたっけ。ベッドサイドは上段のお客さんの通行に困る。そうかといって、ベッドに置けば横になる場所がなくなってしまう。悩んでいるうちに22時になって、列車が動き出している。しまった。発車する雰囲気を楽しめなかった。
走行中の客車に揺られつつ、荷物置き場を思案して、ようやく当時の勘が戻ってきた。そうだ。こういう場合は吊せばよかった。土産屋の袋の取っ手にリュックのストラップを通し、ハンガー用のフックにかける。これで足を伸ばせるようになった。やれやれだ。
開放寝台下段に荷物が多すぎた
狭い場所で重い荷物を動かしていたら汗ばんでいる。カーテンを閉じ、ウェットティッシュで全身清拭。股間も例外なく拭き取って下着を交換すると、シャワーを浴びた後のように清々しい気分になった。もう寝てしまおう。そして5時に起きよう。スマートホンのアラームをセットし、枕元に置いた。23時。あと6時間も眠れる。
何度か眠りが浅くなった。そろそろかな、と時計を見たら4時半を過ぎていた。スマートホンはバイブレーターモードになっている。それを頬のそばに寄せてまどろむ。5時前に起きて、窓を開けてカメラを構えた。Sさんの言うとおりなら、もうすぐ下りの北斗星をすれ違うはずだ。5時5分、6分、7分、8分。来た。列車が通り過ぎていく。あちらも窓が暗い。行き先表示幕の白い明かりが去って行く。そして最後尾、テールランプの間に、斜めに光る白い文字。たしかに北斗星だった。
早朝の車窓、北斗星とすれ違う
-…つづく
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