■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)


1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。




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第301回:旅と日常の舞台
-神戸新交通ポートアイランド線-



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デジタル時事放談
~コンピュータ社会の理想と現実
 
[全15回]

■鉄道ニュース(レポーター)

マイナビニュース
ライフ>> 「鉄道」
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■著書

新刊好評発売中!(6/23/2009)
『もっと知ればさらに面白い鉄道雑学256』
杉山 淳一 著(リイド文庫)



『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』
杉山 淳一 著(リイド文庫)


■更新予定日:毎週木曜日

 
第302回:車両を持たない鉄道会社 -神戸高速鉄道-

更新日2009/10/01


三宮は神戸市の中心街だ。鉄道路線も集中している。ポートライナー、阪神電鉄、阪急電鉄/神戸高速鉄道、神戸市営地下鉄、JRの駅がある。JRの駅だけは「三ノ宮駅」と表記する。旧国鉄時代に全国的な見地で「三宮では"さんぐう""さんみや"と誤読される」と考えられたためだという。「ノ」をつければ誰もが「さんのみや」と読んでくれる。そういえば漫画家の石ノ森章太郎氏も「石森」から「石ノ森」に改名している。もっとも、石ノ森氏の本性は小野寺だったし、個人事務所は未だに「石森プロダクション」で、こちらは「いしもり」と読むようだ。


こんなところに顔文字が……。

いきなり話が脱線した。復旧しよう。ポートライナーの三宮駅に最も近い他社の駅は阪神三宮駅だ。そこから電車に乗り元町へ。電車はそのまま神戸高速鉄道に乗り入れて新開地で降りた。このルートは、阪神と神戸高速の初乗り運賃を払うので割高になると思われるけれど、なぜか運賃の境界は元町ではなく三宮になっている。阪急と神戸高速鉄道の接点が三宮駅になるため、足並みを揃えるために特例を設けたらしい。

もっとも、私は乗るたびに運賃を気にする必要はない。近畿圏の私鉄が乗り放題となる「スルッと関西2Dayチケット」を持っているからだ。このきっぷは関西圏では期間限定販売のみ。しかし関西以外の旅行者用には通年販売している。私は先週、あらかじめ京急品川駅で入手しておいた。ポートライナーも利用範囲内だから、神戸空港で到着ロビーからポートライナーの改札口へ直行できる。阪神も阪急も、神戸高速鉄道も神戸電鉄もフリー乗降区間に含まれる。スマートに関西の鉄道旅行を始められるし、乗るたびに運賃を調べずに済むからストレスがない。


阪神電鉄の電車で神戸高速へ。

久しぶりの阪神電車だ。今日はたったひと駅だけど明日はここから大阪まで行く予定にしている。都会の私鉄ながら、関東と関西の雰囲気は微妙に違って、電車がなんだか堂々としている気がする。関東のほとんどの私鉄はJRと補完関係にある。しかし関西の、とくに大阪神戸間の私鉄路線はJRと競争関係にある。線路幅が広くて電車が大柄なこともあるけれど、過酷な競争を戦っている凄みを感じる。そうかと思うと、ホームの発車案内板にはスマイリーフェイスが使われている。ものすごく強いのに、お客さんにはおちゃめに接する。格闘家の鏡のような電車だ。

新開地で神戸電鉄に乗り換える。正しくは神戸高速東西線から南北線に乗り換える。しかし、南北線には神戸電鉄しか乗り入れないから、実質的には新開地が神戸電鉄の起点のようである。神戸電鉄の起点はひとつ先の湊川だ。ひと駅だけ神戸高速鉄道に乗り入れて新開地で接続している。さっきから妙なところに神戸高速鉄道が絡んでくるけれど、そもそも神戸高速鉄道は、神戸周辺に独立したターミナルを持つ私鉄各社を結ぶために作られた第3セクターだ。神戸市と関連私鉄各社が出資している。だから同社は車両を持たない。各社から乗り入れる列車がお客さんを運んでいる。その結果、阪急三宮からの路線と阪神三宮からの路線が合流する路線では、長年のライバルだった電車が仲良く並ぶ。


かつてのライバル、いまは兄弟会社の列車が並ぶ。

神戸高速鉄道は東側の阪急電鉄と阪神電鉄、西側の山陽電鉄を東西線が結んでいる。これら3者は線路の幅と電圧が一緒だ。しかし神戸電鉄は線路の幅が狭いため、相互乗り入れには参加できない。そこで新開地にTの字型に接続して、乗り換えに便利な形とした。こちらは神戸電鉄の電車だけが乗り入れるため、新開地は神戸電鉄の起点のようだ。

私が少年の頃、神戸高速鉄道は"車両を持たない鉄道会社"として紹介されていた。しかし、いまや車両を持たない鉄道会社は珍しくなくなった。鉄道路線の建設と運営を分担する事例が増えているからだ。例えば、JR東西線は関西高速鉄道が保有しているし、成田空港付近の線路は成田空港高速鉄道が保有している。ローカル線再生のために、施設保有と列車運行の会社を分ける上下分離式という手法も増えつつある。その意味では、神戸高速鉄道は先進的な会社だったかもしれない。


神戸高速南北線の新開地駅。

新開地駅。南北線のホームは行き止まり式だ。通勤ラッシュの時間は終わったので全体を見渡せる。線路が4本、ホームが2面。堂々たる眺めだ。このうち、1番ホームと2番ホームが有馬温泉や三田方面行きで、3番ホームと4番ホームが粟生方面行きになる。この駅を出た東西方面の列車は、5つ先の鈴蘭台までは同じルートを進み、鈴蘭台から分岐する。路線名としては、湊川までが神戸高速南北線、湊川から有馬温泉までが有馬線、有馬口から三田までが三田線、横山からウッディタウン中央までが公園都市線、鈴蘭台から粟生までが粟生線だ。しかし運行形態としては新開地から三田までが本線で、残りは支線という扱いらしい。

今回の旅で神戸電鉄をすべて踏破するつもりだ。今日は北条鉄道に用事があるので、まずは粟生へ行く。08時46分発の準急小野行きに乗った。小野は粟生のふたつ手前の駅だ。あと2駅くらい行ってくれたらいいのにと思う。小野から粟生まで区間運転があるわけでもなさそうだ。15分後に粟生行きの各駅停車がある。しかし、この地下ホームで待つくらいなら、まず小野まで行き、駅周辺を散策したほうが楽しそうだ。


初めて訪れる鉄道
路線図を見るとワクワクする。

時刻表を眺めると、分岐点の鈴蘭台と、その近くの西鈴蘭台行きの区間列車が多い。しかし鈴蘭台から分岐したあと、三田方面と粟生方面は15分おき。粟生まで到達する列車は30分に1本しかない。都心から郊外へ向かう路線で、少しずつ運行本数が先細りになるとはよくあること。しかし、あと2駅というところで終点に到達しないとはどういうことだろう。そこだけ単線だったり、乗客が極端に少なかったりと、なにか理由もあるのだろうか。初めて訪れる路線には「この先どうなっているんだろう」の繰り返しだ。その疑問を解く楽しみもある。

とくに神戸電鉄は私にとって未知なる鉄道会社だ。関東に住む私にとって、関西の鉄道事情には疎い。しかし、近鉄や阪急などの大手私鉄は鉄道雑誌や新聞などの報道も多いし、何となく関東の私鉄に当てはめて見当を付けられる。しかし神戸電鉄は想像しにくいところがある。神戸と横浜は何となく似ている印象があって、横浜起点の相模鉄道と神戸電鉄には規模の点でも共通点がありそうだ。実際はどうだろうか。


神戸電鉄の準急、小野行き。

-…つづく

(注)列車の時刻は乗車当時(2008年10月)のダイヤです。

第301回からの行程図
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