■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

金井 和宏
(かない・かずひろ)

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
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第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
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第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
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第151回:私の蘇格蘭紀行(12)

第152回:私の蘇格蘭紀行(13)
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■更新予定日:隔週木曜日

第162回:私の蘇格蘭紀行(23)

更新日2010/03/18


シティー・リンクでオーバンへ
4月19日(月)、快晴、何ともめずらしい二日続きの快晴である。

ウイック行きを挟んで、2回にわたり2泊ずつお世話になった、インヴァネスの優しい宿主Mrs.Girに別れを告げ、港町オーバン(Oban)に向かう。

今まで、エディンバラ、グラスゴー間を除いてはすべて鉄道での移動だったが、今回は長距離バスCity Linkを利用した。このバス路線も鉄道と同様トラベルパスが使えるのでとても助かる(本来は鉄道が敷かれているはずの路線だからか?)。

かなり長い路線なので、中継駅フォート・ウイリアム(Fort William)まで行って、そこで乗り換えてオーバンに向かうという旅程になっている。

バスの運転手さん、余裕の面持ちで始発駅インヴァネスを7、8分遅れで出発。途中でも優に7、8分は休憩をとる。ところが、中継駅手前のラウンドアバウト(英国内では大変普及しているロータリー状になった交差点)で渋滞に巻き込まれてしまった。

「いやあ、まいった、こんなことはまずないな」という表情に代わり、汗をかきながらハンドルを握ることになった。結果、フォート・ウイリアムには乗り継ぎバスの発車時刻ギリギリ前に到着した。

私も含め乗客は、走って乗り継ぎバスへ。かなり長く乗っていたのでトイレを使いたくなり、乗り継ぎバスの運転手さんにその旨を伝えると、「このバスは15.30には出てしまうからね。でも、向こうの店にトイレはあるから早く行ってらっしゃい」と答えてくれた。

他のバスから乗り継いだ女性の乗客も同じ交渉をしたらしい。私の後からトイレめがけて走ってきた。フォート・ウイリアム着のバスが一様に遅れてしまっていたのだ。結局、バスが発車したのは15.45近くになってからだった。

車窓から観るフォート・ウイリアムの景色はとても素敵だった。山河、そして海、すべてが美しい。観光が苦手の私でもその良さはわかった。今度スコットランド旅行をするときは、ぜひこの地で一、二泊はしたいものだと思った。

オーバンに到着。iで探してもらった宿は£18.00、完全にシングル部屋、バス、トイレはもちろん洗面台も部屋にないのだが、宿の女主人が気さくで泊まりやすそう。部屋の窓からは見えないが、玄関からは港と島々が美しく見えるのだ。

陽が沈むと早速パブへ。オーナーが元船乗りと言うことで、店の壁にはいっぱいに漁船の写真が額入りで並んでいる。彼は日本にも寄港したことがあると言う。

"Wakamatsu, Fukuoka and Hirato, Nagasaki and・・・・"日本の港の名前を諳んじているようで、懐かしそうな顔をしながら、いくつか口を突いてくる。「私は横浜港のわりと近くに住んでいます」とお話ししたら、「残念ながら横浜には行ったことがないな」と笑って答えてくれた。

店の方は、体格のいい、オーナーの息子さんが仕切っている様子で、港町にあるパブだけに活気があって気持ちが良く、居心地が良い。エールをチビチビと2パイント飲み終えてから、「また明日来ます」と言って、店を後にした。

宿に帰ってから、せっかく港町にきたのだから明日から二日間は近くの島に行ってこようと『地球の歩き方』を開いた。そして、女主人にも相談してみた。

彼女の答えは、「そうね、マル島(Isle of Mull)からアイオナ島(Isle of Iona)を巡ってくるのが、一番人気があるわね。フェリーに乗って1時間はかからないし、観光客の数もかなり多いわよ。それと同じくらいの時間で行けるとすれば、リズモア島(Isle of Lismoreかしら。ただし、こっちは何もないところよ)とのこと。

「何もない」という言葉に真っ先に惹かれ、明日はLismoreに行ってみようと決めた。明後日はMullにしよう。身体は疲れているものの、なぜか不思議な高揚感があり、なかなか寝つけなかったが、頭の中でアルファベット順にジャズメンの名前を並べているうちに眠ってしまっていた。

-…つづく

 

 

第163回:私の蘇格蘭紀行(24)