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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第353回:流行り歌に寄せて No.158 「小指の想い出」~昭和42年(1967年)

更新日2018/06/14



このコラムとしては、スパーク3人娘の二人目、伊東ゆかりの曲のご紹介である。個人的にファンだということもあって、すでに園まりには『逢いたくて逢いたくて』『夢は夜ひらく』の2曲で登場していただいている。

昭和37年の曲をコラムで書いていた時、その年に中尾ミエの『可愛いベイビー』が大ヒットしたことは知っていたが、自分の中ではあまりリアル感がなく、平べったい文章になること恐れて、取り上げることができなかった。彼女の曲は、もう少し後のものをご紹介したいと思っている。

伊東ゆかりは、私は今まであまり知らなかったが、かなりデビューが早かった人である。父親がバンドのベース奏者であったことから、小学校に入るか入らないうちから進駐軍で歌を歌い始める。11歳の時、『かたみの十字架/クワイ河マーチ』でキングレコードからデビューを果たした。

『かたみの十字架』はパット・ブーンの “Remember You're Mine”のカヴァーだが、今聴いても、男性コーラスをバックに、のびやかに歌い上げる声は素晴らしく、堂々としている。その後は、時代の要請もあり、ジリオラ・チンクェッティの曲をはじめ多くのカヴァー・ポップスを歌っていた。

昭和40年に、これはカヴァーではなく作詞、作曲がイタリア人の作家による『恋する瞳』(イタリア語のタイトル“L'amore ha i tuoi occhi”)をサンレモ音楽祭で、イタリア語による歌唱を披露し、見事に3位入賞を果たす。
その年、作詞が安井かずみ、作曲がいずみたくの『おしゃべりな真珠』で、カヴァーではない、日本語のオリジナル曲を発表し、その後はその路線で歌い始めた。『小指の想い出』はオリジナル作品6曲目となる曲である。

 

「小指の想い出」 有馬三恵子:作詞  鈴木淳:作曲  森岡賢一郎:編曲  伊東ゆかり:歌                 
1.
あなたが噛んだ 小指が痛い

きのうの夜の 小指が痛い

そっとくちびる 押しあてて

あなたのことを しのんでみるの

私をどうぞ ひとりにしてね

きのうの夜の 小指が痛い

2.
あなたが噛んだ 小指がもえる

ひとりでいると 小指がもえる

そんな秘密を 知ったのは

あなたのせいよ いけない人ね

そのくせすぐに 逢いたくなるの

ひとりでいると 小指がもえる

3.
あなたが噛んだ 小指が好きよ

かくしていたい 小指が好きよ

誰でもいいの 何もかも

私の恋を おしえてみたい

ほんとにだけど 言えないものね

かくしていたい 小指が好きよ



作曲家の鈴木淳は、昭和38年に西田佐知子の『恋なんかしたくない』で、満29歳にしてレコード作曲家としてのデビューを果たすが、その後はヒット曲を作ることができないでいた。

それから4年後、山口県防府市の同郷出身で、年上の妻である有馬三恵子が作詞したものに、鈴木が曲をのせたのが『小指の想い出』であった。夫婦による共作であるとともに、有馬三恵子の作詞家としてのデビュー曲であった。その後、“おしどり夫婦”として、コンビで多くの歌手に曲を提供しているが、後に離婚している。

編曲の森岡賢一郎は、昭和9年生まれの日本を代表するアレンジャーであり、作曲家である。日本の歌謡史に残る美しいイントロの『君といつまでも』(加山雄三)を始め、小柳ルミ子、森進一、ジャッキー吉川とブルーコメッツ、ザ・ワイルドワンズの主要曲、その他の歌手の名曲の編曲を数多く手掛けている。これからも、何回かこのコラムにご登場いただくことになるだろう。

『小指の想い出』と言えば、私たちの世代で思い出されるのは、伊東ゆかりと讀賣巨人軍の柴田勲選手とのロマンスである。人気歌手とプロ野球のスター選手との交際ということで、多くの人たちに注目され噂のカップルとなった。

柴田がバッターズ・ボックスに立つと、相手チームの応援団が、彼を揶揄するために『小指の想い出』を演奏することも度々あった。「ささやき戦術」で有名な野村克也もキャッチャーズ・ボックスから小声で歌ったことがあるとされているが、オールスター戦かオープン戦での出来事だろうか。柴田と野村の日本シリーズでの対決は昭和43年までなく、この時はすでに、伊東ゆかりは佐川満男と結婚していた。それでも野村のことだから、日本シリーズでサラッとやってのけたのかも知れない。

余談ついでにもうひとつ。昭和44年7月3日の甲子園球場での阪神対巨人戦。巨人の川上哲治監督は、対戦相手の苦手投手、江夏豊への“刺激療法”として、「3番・長嶋、4番・柴田、5番・王」のクリーンナップ打線を敷いた。長嶋と王の二人が出場している試合(どちらかの途中の負傷交代を除き)で、4番打者がこの二人以外だったのは、後にも先にもこの試合のみであった。

この試合で、柴田は初打席で見事に2ラン・ホームランを放ち、勝利に貢献した。この時にもし相手チーム応援団が『小指の想い出』を演奏していたとしたら、それは揶揄には聞こえず、応援歌の役割を果たしてしまったのだろう。

さて、この曲を聴き、前々から疑問に思っていたことがある。“果たして男性は女性の指を噛んだりするのだろうか?”ということである。個人的な見解であり、異論は少なくないと思うが、男女が逆のケースはあっても、女性の小指を噛むような男性は極めて稀ではないかと思う。

もしそれなりに存在するとすれば、女性に“傷痕”を残すような男性を、自分はあまり好きにはなれない気がする。まだまだ、男女のことがよく理解できていないだけのことかも知れないけれど…。

-…つづく

 

 

第354回:流行り歌に寄せて No.159 特別篇「森田童子の訃報に接して その1」


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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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